人的資本可視化指針(改訂版)完全解説
「指標のみ重視」から「経営戦略との連動」へ。2026年3月期から義務化される新たな人的資本開示の全容を、政府指針のファクトと日本企業61社の実践事例から解説する。
1. 改訂の全体像 ─ 何が変わったのか
2022年8月に公表された初版の「人的資本可視化指針」は、日本企業に人的資本の開示を促す最初の一歩だった。女性管理職比率、男性育休取得率、エンゲージメントスコアーーこれらの指標を有価証券報告書に記載することが求められ、多くの企業がそれに応じた。しかし3年が経過したいま、明らかになったのは、数値を並べるだけでは企業価値の向上にも、投資家との対話にもつながらないという現実だった。
女性管理職比率が12%から15%に上がった。それは良いことだ。だが、なぜ15%なのか。30%ではなく、なぜ15%を目標としたのか。その数値は経営戦略とどう結びつき、達成によって企業の競争力はどう変わるのか。投資家が知りたいのは、数値の背後にあるストーリーだった。そして多くの日本企業の開示には、そのストーリーが決定的に欠けていた。
2026年改訂の人的資本可視化指針は、経営戦略と連動した人材戦略の策定を通じて、企業価値の向上につながる質の高い人的資本投資の実践と開示の好循環を実現すべく、「国際的な開示基準を踏まえた情報開示の進め方」や「具体的な考え方とその実践」についてガイダンスを提供する。
2026年3月23日に公表された改訂版は、この課題に正面から向き合う。開示の重心を「指標の網羅性」から「経営戦略との連動性」へと根本的に転換し、企業に対して「なぜその人材戦略が必要なのか」「それが企業価値にどうつながるのか」というナラティブの構築を求めている。
法的な裏づけも大きく変わった。「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(2026年2月20日公布・施行、2026年3月期から適用)により、企業戦略と関連付けた人材戦略と、それを踏まえた従業員給与等の決定方針等の開示が求められることとなった。 これにより、人的資本の開示は「やったほうがいい」ものから「やらなければならない」ものへと性質を変えた。任意のガイドラインから法的義務へーーこの転換は、日本の企業開示の歴史において極めて大きな意味を持つ。
改訂前後の比較
改訂の全体像を俯瞰するために、2022年版と2026年版の主要な変更点を整理する。単なる「アップデート」ではなく、開示の思想そのものが転換されていることが見て取れるだろう。
改訂前後の比較
人的資本可視化指針 2022年版 vs 2026年改訂版
| 観点 | 改訂前(2022年版) | 改訂後(2026年版) |
|---|---|---|
| 開示の焦点 | 指標の開示(女性管理職比率等の数値) | 経営戦略と連動した人材戦略・人的資本投資のストーリー |
| 法的位置づけ | 法的拘束力なし(任意の指針) | 内閣府令改正により経営戦略連動の開示が義務化 |
| 国際基準 | 直近の国際基準の動向(2023年)は未反映 | ISSB/SSBJ基準の4要素に整合 |
| 戦略との関係 | 重要性の指摘にとどまる | 具体的な検討フロー・実践ステップを提供 |
| 開示の枠組み | 独自性×比較可能性の2軸 | 4要素+3つのPoint+独自性×比較可能性 |
| 対象ステークホルダー | 主に投資家 | 投資家+労働市場(就活生・従業員) |
構造の変化も注目に値する。【改訂前の構造】経営戦略・ビジネスモデルと人材戦略は重要性の指摘にとどまる弱い接続。人材戦略と人的資本関連指標及び目標が直接つながる構造。企業の現状は一般的な開示事項(女性管理職比率、エンゲージメントサーベイ結果等)に留まり、経営戦略との連動についての記述がないケースも多い。【改訂後の構造】経営戦略・ビジネスモデルから「あるべき組織・人材の姿」と「必要となる人的資本投資」を経由して人材戦略へとつながる明確なフロー。経営戦略と連動した人材戦略・人的資本投資をどのように考え、実践するかについて、新たな国際基準も踏まえた考え方を整理。
つまり改訂版は、「指標を出す → チェックボックスを埋める」という形式的な作業から、「経営戦略を起点に → 人材戦略を組み立て → その進捗を指標で示す」という本質的な経営の営みへと、企業に発想の転換を迫っているのである。
出所: 人的資本可視化指針(改訂版)p.2, p.9
2. 改訂の背景 ─ 日本の人的資本投資の現状
なぜいま、指針の抜本改訂が必要だったのか。その答えは、日本企業の人的資本投資を国際比較したとき、驚くほど鮮明に浮かび上がる。
日本の人的資本投資: 国際比較
人的資本可視化指針(改訂版)p.3-4
日本の人的資本投資 対GDP比率
人的資本可視化指針(改訂版)p.3
S&P500 時価総額に占める無形資産の割合(2020年)
無形資産投資の推移(2013年=100)
人的資本可視化指針(改訂版)p.4
米国が自国GDPの1.75%を「人への投資」に振り向けているのに対し、日本はその8分の1以下の0.22%しか投資していない。フランス(1.66%)やドイツ(1.12%)と比較しても、その差は歴然としている。研修費用や能力開発プログラムにかける金額が、先進国の中で際立って少ないのだ。
グローバルな資本市場の潮流は、すでに有形資産から無形資産へと決定的にシフトしている。S&P500構成銘柄の時価総額のうち90%を無形資産が占める一方、日本の無形資産投資はこの10年間でほとんど増加していない(2013年比106)。ブランド力、技術力、組織文化、そして何よりも「人材の質」ーーこれらの無形資産こそが企業価値の源泉であるという認識は、もはや投資家の間では常識となっている。にもかかわらず、日本の投資環境においてはその認識と実際の投資行動との間に大きな乖離がある。
賃金構造にも問題は如実に表れている。各国の全職種の賃金を100とした場合の職種別賃金差(専門職シニア/Senior Professional水準、2024年4月時点): 日本はIT(0.9)、データアナリティクス(0.3)、技術研究(-0.1)と賃金差がほぼゼロ。一方、米国はIT(9.5)、データアナリティクス(9.7)、技術研究(6.4)、韓国はIT(16.5)と大きい。経営/企画では日本(2.4) vs 米国(5.2) vs フランス(7.3)。プロジェクトマネジメントでは日本(3.9) vs 米国(6.2) vs フランス(8.2)。 これは、日本企業が高度専門人材に対して市場競争力のある報酬を提示できていないことを意味する。AI、データサイエンス、サイバーセキュリティーーこれらの分野で世界的な人材獲得競争が激化する中、この賃金格差は致命的なハンディキャップとなりかねない。
迫りくる構造変化ーー2040年問題と生成AI
過去の投資不足だけが問題ではない。日本企業は、これから到来する二つの巨大な構造変化にも直面している。
第一は、人口動態の変化だ。経済産業省が試算した「2040年の就業構造推計(改訂版)」によれば、2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合、人口減少により就業者数は減少するが、AI・ロボット等の利活用やリスキリング等による労働の質の向上により、全体で大きな不足は生じないとされている。一方、職種間、学歴間によって需給のミスマッチが発生する可能性がある。 人口減少は不可避であり、「同じ数の人を雇って同じことをする」という前提はもう成り立たない。一人ひとりの生産性と創造性を最大化する「質の高い人的資本投資」が、企業の生存戦略そのものとなる。
第二は、テクノロジーの急激な進展だ。今後の労働供給制約下における産業構造の転換や、生成AIの進展による大幅なスキル需要の変動、ビジネスモデル、業務プロセスの変化への対応の必要性を踏まえると、単なる投資量の拡大だけでなく、企業価値の向上につながる質の高い人的資本投資の拡大がより重要となっている。 昨日まで最先端だったスキルが明日には陳腐化するーーそのような環境で、「毎年同じ研修を繰り返す」式の人材育成が機能しないのは明らかだろう。
こうした構造変化を前に、改訂版は人的資本を「コスト」ではなく「投資」として捉え直すことを強く求めている。人件費を削減すれば短期的な利益は改善するかもしれない。しかし、それは中長期的な競争力の毀損を意味する。改訂版が突きつけているのは、「あなたの会社は、人に投資することで何を実現しようとしているのか」という、経営の本質に関わる問いなのだ。
3. 4要素フレームワーク(ISSB/SSBJ整合)
国際基準(ISSB/SSBJ)において、4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)に基づく開示が求められている。人的資本可視化指針(改訂版)では、このうち「(人材)戦略」と「(人的資本関連の)指標及び目標」に関して経営戦略と連動付けた開示が投資家から期待されているとし、「ガバナンス」と「リスク管理」の開示を関連付ける形で4つの要素に従った開示となる。
改訂版が採用した開示の骨格は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)およびサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が定める4つの要素に整合している。「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」ーーこの4本柱は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言で広く普及した枠組みであり、グローバルの機関投資家にとってはすでに馴染みの深い「共通言語」だ。
この設計には明確な意図がある。気候変動リスクと同じフレームワークで人的資本を語ることで、投資家が異なるテーマを横断的に比較・分析できるようになる。「気候変動のガバナンスは整っているが、人的資本のガバナンスは不十分」ーーそうした横串の分析が可能になるのだ。
ガバナンス
人材戦略や人的資本投資について、取締役会が監督する体制の構築。CHROをはじめとしたCXO等の経営陣・取締役レベルが役割を明確にしコミットする。
戦略
経営戦略→あるべき組織・人材の姿→必要な人的資本投資→人材戦略の検討フロー。「人的資本への依存・影響」と「リスク・機会」の2ステップで説明。
リスク管理
人的資本関連のリスク及び機会の整理。連結グループ全体に加え、事業セグメント・バリューチェーン・国/地域別に重要なリスク・機会を明確化。
指標及び目標
企業固有の独自性のある指標と、企業間比較のための比較可能性の高い指標をバランスよく設定。時系列での比較可能性の確保も重要。
これらの4要素は独立したものではなく、相互に関連し合っている。たとえば「ガバナンス」で取締役会による人材戦略の監督体制を示し、「戦略」でその人材戦略と経営戦略の連動を説明し、「リスク管理」で人的資本に関するリスクと機会を整理し、「指標及び目標」でそれらの進捗を定量的に測定するーーこの4つが一体となって、初めて人的資本開示の全体像が完成する。
「戦略」開示の核心ーー経営戦略連動の2ステップ
4要素の中で最も重要であり、同時に最も難しいのが「戦略」の開示だ。ここで求められているのは、経営戦略と人材戦略がどう結びついているかを、以下の2ステップで論理的に説明することである。
人的資本への依存・影響
経営戦略と人材戦略の連動を説明するための第1ステップ「人的資本への依存・影響」: 企業の経営戦略の実現は、将来の「あるべき組織・人材の姿」を踏まえて、必要となる人的資本を確保できるか否かに「依存」する。また、企業は人材採用、人材育成、適切な賃金水準の設定、従業員の福利への投資、従業員エンゲージメントへの取組を含む職場環境整備等の「必要な人的資本投資」を行い、人的資本に「影響」を与える。
人的資本関連のリスク・機会
第2ステップ「人的資本関連のリスク・機会」: 人的資本への依存・影響の相互関係を明らかにすることは、経営戦略の実現にあたり企業の見通しに影響を与える(企業のキャッシュ・フロー等に重要な影響を与える)と合理的に見込み得る、人的資本関連のリスク及び機会を整理することに資する。連結グループ全体に加えて、ビジネスモデルのどの部分(事業セグメント、バリューチェーン上の機能、国・地域)に重要な人的資本関連のリスク及び機会が生じているのかを明確にすることが重要。
この2ステップの設計が秀逸なのは、企業に「自社の経営戦略は、人材にどの程度依存しているのか」という根本的な問いを投げかけている点だ。製造業であれ金融業であれ、事業の成否が人材の質と量に依存していることは自明のように思えるが、それを明示的に言語化し、リスクと機会として整理している企業は実はまだ少ない。
4. 経営戦略と連動した人材戦略の策定フロー
改訂版の最大の貢献は、「経営戦略と人材戦略を連動させよ」という抽象的な号令で終わらせず、具体的な検討フローを提示した点にある。「何をすべきか」だけでなく「どう考えればよいか」まで踏み込んだことで、実務者にとっての実行可能性が格段に高まった。
経営戦略と連動した人材戦略の策定には3つのステップがある: ①経営戦略における重要度の高い項目においてあるべき組織・人材の姿を策定(人材ポートフォリオの構築、組織・人材の活性化、経営基盤の強化)、②必要な人材戦略・人的資本投資を整理(あるべき姿と現在の組織・人材の姿を比較し、ギャップを埋めるアクションや人事施策等を検討・整理)、③経営に与える影響度を基に、人材戦略を策定・人的資本投資を検討(リスクや機会を分析し、優先順位付けし、経営戦略と整合的な時間軸を設定)。
この3ステップは一見シンプルだが、実行には相当な組織的能力が求められる。ステップ1で「あるべき人材の姿」を描くためには、経営戦略そのものが具体的でなければならない。「グローバルNo.1を目指す」のような曖昧なビジョンでは、必要な人材像を特定することはできない。どの事業領域で、どの地域で、どのような競争優位を築くのかーーその解像度が、人材戦略の質を左右する。
ステップ2の「現状とのギャップ分析」では、自社の人材の現在地を正確に把握する必要がある。必要なスキルを持つ人材が社内にどれだけいるのか、不足しているのはどの領域か、それを補うには採用なのか育成なのかーーこうした問いに、データに基づいて答えられる企業は多くない。
そしてステップ3の「優先順位づけ」こそ、経営判断の真骨頂だ。すべてに等しく投資することはできない以上、経営への影響度を基に資源配分を決めなければならない。これはまさに経営戦略と人材戦略が「連動」する瞬間であり、改訂版が最も重視しているポイントでもある。
経営層のコミットメントーー人事部任せからの脱却
経営戦略と連動した人材戦略を策定し、企業価値の向上につながる人的資本投資を実践するためには、経営層のコミットメントや従業員との対話が必要不可欠。まず経営トップが人材戦略・人的資本投資にコミットして自ら積極的に発信・対話することが重要。CHROをはじめとしたCXO等の経営陣・取締役レベルが、それぞれの役割を明確にした上で、その取組に対してコミットすることが重要。人事部門は事業部門をはじめ経営企画・財務・経理・IR・サステナビリティ関連部門等と連携しながら、戦略部門としての機能も果たすことが期待される。
ここで改訂版が暗に批判しているのは、多くの日本企業に見られる「人的資本開示=人事部の仕事」という認識だ。CEOやCFOが関与せず、人事部が孤軍奮闘して開示資料を作成するーーそのような体制では、経営戦略との連動などあり得ない。人的資本を経営のアジェンダに引き上げることこそ、改訂版が最も強く求めていることなのだ。
指針が示す参考事例: AI自動運転を進めるテック系企業
AI自動運転を進めるテック系企業の経営戦略と連動した人材戦略の例: 【事業セグメント・地域ごと】経営戦略「AI技術を活用した自動運転の実用化」→あるべき姿「AI分野の高度専門人材の確保/多数のソフトウェア開発要員の確保」→人的資本投資「高度専門人材にする競争力のある報酬水準の設定、グローバルでの採用活動の実施、ソフトウェア開発要員の採用、開発要員に対する人材育成研修」。経営戦略「顧客ニーズを踏まえた既存ビジネスの収益力強化」→あるべき姿「業務スキルの保有/現場従業員の高いモチベーションの醸成」→人的資本投資「リスキリングの実施、外部経験者の確保、現場の管理職のマネジメント力強化に向けた投資」。【組織全体の基盤構築】経営戦略「経営戦略の実行力を高める基盤強化」→あるべき姿「大局的な観点から経営判断を行うことができる人材の確保/従業員の定着」→人的資本投資「経営者候補人材の獲得・育成、従業員の福利への投資、従業員の満足度向上に向けた職場環境整備」。
出所: 人的資本可視化指針(改訂版)p.14
5. 可視化・開示の3つのPoint
4要素フレームワークが「何について開示するか」の骨格を示すものだとすれば、改訂版が新たに提示した3つのPointは「どのように実行するか」の実践ガイドだ。「指標を設定する」「可視化してモニタリングする」「開示する」ーーこの3つのステップは、PDCAサイクルのように循環し、企業の人的資本経営を継続的に進化させていくための仕組みである。
Point 1: 指標及び目標の設定
Point 1「指標及び目標の設定」: 経営戦略や、あるべき組織・人材と人材戦略・人的資本投資との関係を企業の成長ストーリーと論理的に説明するための定量的な指標及び目標を適切に設定する。企業固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組、指標及び目標と、投資家が企業間比較をするために用いる比較可能性の高い指標及び目標をバランスよく設定することが重要。人的資本投資・人材戦略と経営戦略、財務指標とのつながりを明確に表現するためには、連結グループ全体だけでなく事業セグメント・地域ごとに指標を管理することも考えられる。
ここで重要なのは、「独自性のある指標」と「比較可能性の高い指標」のバランスだ。女性管理職比率や男性育休取得率のような比較可能な指標は、投資家が企業間比較を行うために必要不可欠である。しかし同時に、自社の経営戦略に根ざした独自の指標ーーたとえばDX人材の充足率や、戦略的ポジションの後継者準備率のような指標ーーがなければ、その企業ならではの人的資本の「物語」は語れない。
Point 2: 可視化とモニタリング
Point 2「人的資本の可視化とモニタリング」: 設定した指標及び目標に基づいて自社の人的資本の現状を可視化し、あるべき組織・人材の姿と現状との差分を明らかにするとともに、そのギャップを埋めるために必要な取組の進捗をモニタリングする。進捗のモニタリングに際しては、データ集計等の開示実務の合理化や、戦略や取組の適時での進捗確認やアップデートを可能とすること等の観点から、人的資本関連情報のDXやAI等のテクノロジーを活用することも重要なアプローチとなる。
このPointが強調しているのは、指標を「設定して終わり」にしないことだ。理想の組織・人材像と現状とのギャップを定期的に測定し、そのギャップが縮まっているのか、投資は効果を上げているのかを経営層がモニタリングする。計画通りに進んでいない場合は、施策を見直すーーこの当たり前のサイクルを、人的資本の領域でも確立することが求められている。
Point 3: 人的資本情報の開示
Point 3「人的資本情報の開示」: Point 1、2において可視化した自社の人材戦略・人的資本投資の現状について、企業価値の向上に向けた経営戦略の実現や財務指標の向上との関係を、定量的な指標に加えて定性的な説明も適切に活用しつつ、財務・人事の両面から一貫したストーリーとして論理的に説明する。当該期間において望ましい数字が現れていない場合においても、その原因や対応策とともに開示を行うことは、投資家の目線からは有効との声もある。
Point 3で特に注目すべきは、「コネクティビティ」(財務情報と非財務情報の接続)への言及だ。エンゲージメントスコアが上がったことと、売上高や営業利益率の改善はどう関係しているのかーーこの「つながり」を定量的・定性的に説明できるかどうかが、投資家にとっての開示の価値を大きく左右する。
6. 投資家と企業の認識ギャップ
投資家86社を対象とした調査では、中長期的な投資・財務戦略において人的資本投資を特に重視すべきと考える投資家が6割以上おり、人的資本投資の重要性は多くの投資家が認識している。投資家は特に、人材戦略が企業価値の向上につながるストーリーや、人材戦略が影響を与える経営戦略・事業戦略・財務指標に関心を持っている。
投資家は人的資本に関心がないのではない。むしろ、その関心は年々高まっている。問題は、投資家が「知りたい」と思っていることと、企業が「開示している」ことの間に、深刻なギャップが存在することだ。三井住友信託銀行が実施した「ガバナンスサーベイ2024」のデータは、そのギャップを数字で突きつける。
投資家と企業の認識ギャップ
出所: 三井住友信託銀行 ガバナンスサーベイ2024より経済産業省作成(人的資本可視化指針(改訂版)p.7)
| 関心事項 | 企業の開示 | 投資家の関心 | ギャップ |
|---|---|---|---|
| 人事戦略が企業価値向上につながるストーリー | 47% | 70% | +23pt |
| 人事戦略が影響を与える経営戦略・事業戦略 | 25% | 64% | +39pt |
| 人事戦略が影響を与える財務指標 | 4% | 44% | +40pt |
この表が物語るのは、企業と投資家の「目線の違い」だ。「人事戦略が企業価値向上につながるストーリー」について、企業の47%は「開示している」と認識しているが、投資家の70%は「もっと知りたい」と考えている(ギャップ+23ポイント)。しかし、真に深刻なのは下の2行だ。
「経営戦略・事業戦略との関連」のギャップは+39ポイント。投資家の64%が関心を持っているのに、開示している企業は25%に過ぎない。そして「財務指標との関連」に至っては+40ポイントーー投資家の44%が関心を持つのに対し、開示している企業はわずか4%だ。25社に1社しか、人事戦略と財務パフォーマンスの関係を開示していないのである。
投資家が求めているのは、「女性管理職比率は○%です」という数値の羅列ではない。「女性管理職比率を○%に引き上げることで、イノベーション創出力が高まり、売上成長率○%の達成に寄与する」ーーそのような、人的資本投資と企業価値をつなぐコネクティビティ(接続性)の開示なのだ。改訂版は、まさにこのギャップを埋めるために設計されている。
グローバル投資家の視点ーー「4つの基本指標」と独自性のバランス
海外の機関投資家は何を見ているのか。BCGが2025年4月に公表した「人的資本開示に対する海外投資家の着眼点」報告書は、グローバル投資家の具体的な期待を明らかにしている。幅広い企業に開示が期待される4指標について、グローバル投資家から以下の意見: (1)従業員数=事業別・地域別の増減傾向で人材採用における課題を把握、(2)人件費=給与や株式報酬・研修費用を含む人件費を階層・事業・地域別にブレークダウンした情報は、財務諸表に反映されない無形資産に関する情報開示を補完するものとして非常に有用、(3)離職率=経営者がどのように判断しているかコンテキストと合わせて開示することが重要、一定程度の人材の流動性があることはイノベーション向上にもつながる、(4)従業員エンゲージメントスコア=関連指標を時系列で開示し、人材戦略の有効性をモニタリングするうえで非常に有用、ただし設問やスコアの算定手法が企業ごとに異なると単純な企業間比較はできないため、時系列での変化や同業他社との比較が重要。
同時に、比較可能な指標だけでは不十分だという認識も共有されている。独自性のある指標を用いる場合、国際基準を踏まえた人的資本開示においては、指標の定義、算定方法、算定に用いたインプット等の開示が期待される。これに加えて投資家からは以下の開示も期待: (1)当該開示を重要だと考える理由、(2)当該指標が人材戦略とどのように連動しているのか、(3)達成度・進捗度を意識した時系列で比較可能な実績の開示、(4)当期の財務諸表数値との関連(コネクティビティ)。企業独自の指標については、経営戦略と連動した企業固有の人材戦略の進捗を示すものであるほど望ましい。 つまり投資家は、「基本指標で業界内の位置づけを確認し、独自指標でその企業の戦略的意図を読み解く」という二段構えの分析を行っているのだ。
投資家の大きな関心事項の1つには株主還元があり、株主還元の拡大と人的資本投資の拡大は相反するものと捉えられることもある。しかしながら、両者は相反するものではなく、人的資本投資の拡大を通じて企業価値を向上させることは投資家の利益にもつながるものであり、こうした認識に立った対話を進めることが重要である。 この点について改訂版は、両者を「トレードオフ」ではなく「好循環」として捉える視座を提示している。質の高い人的資本投資が企業価値を向上させ、それが結果として株主還元の拡大につながるーーその論理を、データに基づいて示すことが期待されている。
もうひとつのステークホルダーーー労働市場
改訂版の注目すべき変更のひとつが、ステークホルダーの範囲を投資家だけでなく労働市場にも拡張したことだ。就職活動中の学生、転職を検討する中途人材、そして自社の従業員ーーこれらの人々もまた、人的資本開示の「読者」として明確に位置づけられた。
求職者の選考参加優先度への影響
人的資本可視化指針(改訂版)p.8
人的資本開示が充実している企業の選考参加優先度が「上がる」と回答した求職者の割合
企業の人的資本開示の充実度と採用充足率には正の相関がある。中途採用では、充実度の高い企業群(エンゲージメントや育成方針の情報提供をしている企業)の方が採用充足率が高い。新卒採用でも同様に、充実度の高い企業は「採用予定数をおおむね充足できている」「採用予定数以上に採用できている」割合が高い。
人材獲得競争が激化する中、「良い企業だと思ってもらう」ためのブランディングとして人的資本開示を活用するーーそのような戦略的視点を持つことが、今後の日本企業には求められている。
7. 5つの重要テーマ
経営戦略との連動、4要素フレームワーク、3つのPointーーここまでは、いわば「開示の枠組み」の話だった。では、その枠組みの中で何について語ればよいのか。改訂版は、日本企業が優先的に取り組むべき5つの重要テーマを明示している。
これらは任意のリストではない。人口減少による労働供給制約、デジタル化の加速、ダイバーシティへの国際的要請ーーいずれも日本企業が直面する構造的課題であり、経営戦略と人材戦略の「連動」が最も強く問われる領域だ。
テーマ1: 重要スキル人材の確保・育成(賃金等)
重要テーマ①「重要なスキルを持つ人材の確保・育成に向けた投資(賃金等)」: 労働供給制約と労働市場での需給のミスマッチが発生する中で、必要な人材を確保できるかどうかは企業の経営戦略の実現可能性に直結するため、企業の成長に必要となるスキルを持つ人材の確保・育成の重要性は一層高まっている。日本ではIT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメントといった専門スキルに応じた賃金差が先進諸国と比べて小さく、スキルの重要度を踏まえた報酬体系となっていない可能性がある。
DXやAI分野の人材をめぐるグローバルな争奪戦において、日本企業の最大の弱点は賃金水準の低さだ。前述の通り、日本のIT人材の賃金は全職種平均とほぼ変わらないのに対し、米国では1.8倍に達する。「優秀な人材がほしい。しかし給与は上げられない」というジレンマを、経営戦略のレベルで解決することが求められている。
テーマ2: ジョブ・スキルに基づく処遇制度の導入
重要テーマ②「ジョブ・スキルに基づく処遇制度の導入」: 従来の新卒一括採用中心、年功賃金、会社主導の異動は従業員の自律的なキャリア形成を困難にしていた。個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、仕事内容や役割の重要度に基づいた処遇を行い、自律的なキャリア形成を目指したスキルの涵養を図るジョブ型人事への移行が考えられる。2024年8月に内閣官房・経済産業省・厚生労働省は既に20社の事例を含む「ジョブ型人事指針」を公表した。
年功序列型の人事制度から、職務(ジョブ)やスキルに基づく処遇制度への移行は、テーマ1と密接に関連する。専門性の高い人材に市場競争力のある報酬を提示するためには、「何年勤めたか」ではなく「何ができるか」で処遇を決める仕組みが不可欠だ。これは人事制度の技術的な変更にとどまらず、日本的雇用慣行の根本的な見直しを意味する。
テーマ3: 従業員の健康維持増進・働きがいのある職場づくり
重要テーマ③「従業員の健康維持増進・働きがいのある職場づくりに関する取組」: 少子高齢化の進展に伴い労働供給制約社会になりつつある中、企業が持続的に成長していくためには社会で健康に活躍する労働力を維持することが必要。健康経営をはじめとする企業における予防・健康投資を強化・促進し、検診等による健康管理の支援や柔軟な働き方ができる職場環境づくりが急務。
少子高齢化が進む中、現在働いている人材の「持続可能性」を確保することの重要性は増すばかりだ。健康経営やウェルビーイングの取り組みは、コスト削減のための福利厚生ではなく、労働力を長期的に維持するための戦略的投資として位置づけるべきだと改訂版は指摘している。
テーマ4: 女性活躍の推進
重要テーマ④「女性活躍の推進」: 多くの投資家が企業の長期的な業績の向上に向けて優秀な人材を確保するために女性活躍が必要であると認識。多くの企業において役職が上がるにつれて女性の割合が下がり、能力を十分に引き出し活用しきれていない状況が見られる。性差の観点を含めた従業員の健康確保も課題で、女性特有の健康課題を放置することにより生じるプレゼンティーズムの問題やキャリア断絶による経済損失は年間3.4兆円と推計。
女性管理職比率は、日本企業の人的資本開示において最も注目される指標のひとつだ。しかし改訂版が問いかけているのは、「数字を上げること」自体ではなく、「なぜ上げるのか」というストーリーだ。女性の能力が十分に活用されていないことは、経営資源の浪費にほかならない。これを経営課題として認識し、戦略的に解消していく姿勢を示すことが求められている。
テーマ5: ダイバーシティ経営の推進
重要テーマ⑤「ダイバーシティ経営の推進」: 多様なマーケット環境の下で企業がイノベーションを創出するためには人材の多様性を確保することが重要。グローバルな経営環境や労働市場が大きく変化する中で、同質性が高い組織は変化に対する柔軟な対応力に乏しく、中長期的な競争環境を勝ち抜く上でリスクが大きい。日本においては諸外国に比して経営層をはじめとする人材の多様性が低い状況にある。
女性活躍を含む、より広範な多様性の確保。国籍、年齢、障がいの有無、キャリアの多様性ーーこれらを「社会的要請」としてだけでなく、「イノベーション創出の源泉」として経営戦略に組み込むことが求められている。同質性の高い組織では、環境変化への柔軟な対応が難しい。多様な視点を持つ人材を経営の意思決定に関与させることが、変化の激しい時代における競争力の鍵となる。
経営戦略×人的資本 ─ MVV Insights独自分析
新指針が求める「経営戦略と人材戦略の連動」を、実際の日本企業はどのように実践しているのか。MVV Insightsの分析記事と有価証券報告書データから、5社の具体的な連動事例を解説する。
伊藤忠商事: 「三方よし」から逆算する人材戦略
非資源No.1商社 × 朝型勤務 × 一人当たり研修投資55.5万円
経営戦略「非資源No.1商社」の実現には、商社パーソンの質と生産性が直結する。伊藤忠は2013年度から朝型勤務制度を導入し、深夜残業を禁止する代わりに早朝勤務にインセンティブを付与。これは単なる働き方改革ではなく、商社のビジネスモデル(海外取引先との時差対応)と人的資本投資の連動を体現している。
一人当たり研修投資55.5万円は商社業界でもトップクラス。女性管理職比率は実績21%で、30%以上の目標を掲げる。社外取締役比率1/3以上で経営監視体制も整備。就職人気ランキング1位は、これらの施策が労働市場にも評価されている証左。
女性管理職比率
21%
目標
30%以上
研修投資
55.5万円/人
就職人気
1位
エーザイ: hhc理念が駆動する人的資本投資1,299億円
患者起点の企業哲学 × PBRと人的資本の感度分析 × エンゲージメント90%以上
エーザイは「hhc(ヒューマン・ヘルスケア)企業」という経営哲学を、人的資本投資の定量化にまで落とし込んでいる点が特筆される。人的資本投資総額1,299億円(売上高の約20%に相当)を開示し、その投資が企業価値(PBR)にどう影響するかの感度分析まで公開。
女性管理職比率1%向上がPBRを2.4%改善するという定量的な連動を示すことで、新指針が求める「経営戦略と財務指標の関連(コネクティビティ)」を先駆的に実践。全社員が業務時間の1%をhhc活動(患者訪問等)に充て、年間500超の活動を実施。エンゲージメントスコア90%以上は、理念浸透と人的資本投資の好循環を示す。
人的資本投資
1,299億円
PBR感度分析
+2.4%/女管1%
エンゲージメント
90%以上
hhc活動
年500超
ANAホールディングス: コロナ危機から学んだ人財起点の価値創造
「ワクワクで満たされる世界を」× 変革型リーダー300人育成 × 女性管理職20.3%
コロナ禍で航空需要が蒸発し、ANAは経営危機に直面した。この危機を経て再定義されたのが「人財への投資を起点とした価値創造サイクル」という考え方。人的資本経営の本質を「社員一人ひとりの持っている力を最大限に引き出すこと」と定義し、危機後の再成長戦略と人材戦略を明確に連動させた。
変革型リーダー300人の育成を目標に掲げ、「コロナ禍で傷んだ土台を立て直し、継続的に制度改善を実行」する姿勢は、新指針が求める「リスクと機会の整理」の実践例。女性管理職比率20.3%、エンゲージメントスコア3.95点と定量指標も充実。
変革型リーダー
300人育成
女性管理職比率
20.3%
エンゲージメント
3.95点
従業員数
12,854人
ソニーグループ: パーパス「感動」が11万人を束ねる
クリエイティビティ×テクノロジー × エンゲージメント好意的回答率90% × 6事業ポートフォリオ
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを2019年に策定。エンタメ3事業が売上の55%を占めるコングロマリットにおいて、パーパスが多様な事業・11万人の従業員を束ねる求心力として機能している点が、経営戦略と人材戦略の連動の好例。
エンゲージメント好意的回答率90%は、パーパス浸透が従業員の内発的動機に結びついていることを示す。バリューとして「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」の4つを掲げ、新指針が求める「ガバナンス」と「戦略」の統合的開示を実現している。
エンゲージメント
90%
従業員数
約11万人
エンタメ売上比率
55%
パーパス策定
2019年
三越伊勢丹HD: 350年の「個客業」を支える人的資本投資300億円
「ひとりの力の最大化」× 女性管理職30.9%→37%目標 × エンゲージメント回答率100%
百貨店市場がピーク時の70%に縮小する中、三越伊勢丹は「こころ動かす、ひととの力で。」をミッションに掲げ、「個客業」への転換を経営戦略の核に据える。この戦略は「ひとりの力の最大化」というマテリアリティとして人材戦略に直結し、人的資本投資総額300億円という大規模投資に結びついている。
女性管理職比率30.9%(2030年目標37%)は百貨店業界の強みを活かした数値。エンゲージメント調査回答率100%は経営と従業員の対話が根づいている証拠。「連邦戦略」で各事業会社の自律性を高めながら、グループ全体の人材戦略を統合する手法は、新指針が求める事業セグメント別の人的資本管理の実践例。
人的資本投資
300億円
女性管理職比率
30.9%→37%
調査回答率
100%
創業
350年超
9. まとめと提言
2026年3月の人的資本可視化指針の改訂は、日本の企業開示における転換点である。「指標を並べる」段階から「経営戦略との連動を語る」段階へーーこの質的な飛躍は、単なる開示ルールの変更にとどまらず、企業経営そのものの在り方を問い直すものだ。
本稿で見てきた通り、改訂版の核心は3つに集約される。第一に、ISSB/SSBJに整合した4要素フレームワーク(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)による開示体系の整理。第二に、経営戦略から人材戦略を導出し、投資の優先順位を定める具体的な策定フローの提示。そして第三に、内閣府令改正による経営戦略連動の義務化だ。
投資家と企業の認識ギャップは依然として大きい。「人事戦略が影響を与える財務指標」を開示している企業はわずか4%であり、投資家の期待(44%)との間には40ポイントもの乖離がある。エーザイのPBR感度分析や伊藤忠商事の経営戦略直結型人材投資のように、先進企業はすでに「コネクティビティ(財務と非財務の接続)」を実践しているが、大半の企業にとってはこれからの課題だ。
日本企業への3つの提言
1. 経営戦略を起点に「なぜその人材戦略か」を言語化する
開示の出発点は、数値目標の設定ではない。自社の経営戦略において「あるべき組織・人材の姿」を定義し、現状とのギャップを特定することだ。改訂版が示す3ステップのフロー(あるべき姿の策定→ギャップの整理→優先順位付け)を、形式的なフレームワークの適用ではなく、経営層が本質的に向き合うべき問いとして捉えてほしい。
2. 「独自性」と「比較可能性」の両輪で開示を設計する
女性管理職比率や男性育休取得率といった比較可能な指標は、投資家が業界内ポジションを把握するための基盤だ。しかしそれだけでは、その企業の戦略的意図は伝わらない。DX人材充足率や戦略的ポジションの後継者準備率など、自社の経営戦略に根ざした独自指標を併せて開示し、企業固有の「人的資本ストーリー」を構築することが重要だ。
3. 人的資本投資と企業価値のつながり(コネクティビティ)を示す
投資家が最も求めているのは、人的資本投資が企業の財務パフォーマンスにどうつながるかという論理だ。エンゲージメント向上が離職率低下を通じて採用コストを削減し、生産性向上を通じて売上成長に寄与するーーそのような因果関係を、定量データに基づいて示すことが、開示の価値を飛躍的に高める。完璧な分析でなくとも、経営者自身の言葉で仮説を示し、進捗を追跡する姿勢そのものが、投資家との信頼を築く。
人的資本経営は、一度の開示で完結するものではない。経営環境の変化に応じて戦略を見直し、投資を調整し、その成果を検証するーーこの継続的なサイクルを回し続けることが、真の意味での「経営戦略との連動」だ。2026年の改訂を、チェックリスト対応の契機ではなく、自社の人材戦略を根本から問い直す機会として活かすことを期待したい。