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2026年4月1日 施行

あなたの会社、賃金差異を公表できますか? ─ 4月から101人以上が義務化

2026-03-15

2026年4月1日、女性活躍推進法の大幅改正が施行される。男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務が101人以上の企業に拡大され、日本企業の大多数が対象となる。mvv.jpが収録する451社の企業データとともに、改正の全容・計算方法・企業データを解説する。

1. なぜ今、情報公表義務が拡大されるのか

2026年4月1日、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)の改正が施行される。この改正は、法律の有効期限を令和18年(2036年)3月31日まで10年延長するとともに、これまで301人以上の企業に限定されていた情報公表義務の対象を101人以上の企業に拡大する大規模な改定だ

規制
10年延長

法律の有効期限 → 令和18年(2036年)3月31日まで

厚生労働省

女性活躍推進法は2015年に成立し、2016年4月に施行された。当初の有効期限は10年とされており、2026年3月末に期限を迎えることになっていた。今回の改正は、その有効期限を更新しつつ、制度をより実効性あるものへと進化させる機会として位置づけられている。

しかし法施行から10年が経過しても、日本におけるジェンダーギャップは依然として深刻だ。特に「経済参加と機会」の分野では、女性管理職比率と賃金格差が課題として際立っている。女性の健康課題による経済損失は年間3.4兆円と試算されており、女性活躍推進は企業の生産性と社会の持続可能性に直結する

データ
年間3.4兆円

女性の健康課題による経済損失

プレゼンティーズム・キャリア断絶による労働損失等を含む

BCG試算(令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業)

こうした状況を変えるための施策として、政府は「情報公表の義務化」という手法を選択した。公表義務化によって、企業は自社の数値を可視化し、他社と比較される状況に置かれる。そのプレッシャーが行動変容を促すという考え方だ。

なぜ「101人以上」なのか

女性活躍推進法の対象企業規模は、2016年施行時から「301人以上」が基本だった。その後2022年の改正で行動計画の策定義務が「101人以上」に拡大された経緯がある。今回の改正は、この行動計画義務の対象と情報公表義務の対象を一致させ、制度の整合性を図る意味合いもある

特に注目すべきは、これまで大企業のみが対象だった「男女間賃金差異」の公表義務が、中堅・中小企業にも拡大される点だ。従来の301人超の企業に加え、101人以上300人以下の企業においても、男女の賃金格差を数値として公表することが法的義務となる。日本企業の雇用構造を根本から変えうるインパクトを持つ改正といえる

改正前後の比較

法律の有効期限が10年延長されるとともに、対象範囲と義務内容が大幅に拡大される

女性活躍推進法 改正前後の比較

義務の種類改正前(〜2026年3月)改正後(2026年4月〜)
行動計画策定・届出・公表101人以上の企業が対象変更なし(継続)
男女間賃金差異の公表301人以上の企業のみ101人以上の企業に拡大(新規追加)
女性管理職比率の公表301人以上:賃金差異に加えて2項目以上を公表 / 101〜300人:1項目以上を公表301人以上:賃金差異及び女性管理職比率に加えて2項目以上 / 101〜300人:賃金差異及び女性管理職比率に加えて1項目以上
プラチナえるぼし認定既存要件のみ新要件追加(就活セクハラ防止措置の公表)※施行日は別途政令で規定
カスタマーハラスメント防止措置努力義務義務化 ※施行日は公布後1年6か月以内に政令で規定(2026年4月1日ではない)
法律の有効期限令和8(2026)年3月31日令和18(2036)年3月31日に延長

2026年4月1日施行 ─ 対象企業規模・義務内容の変更

出所: 厚生労働省「令和6年女性活躍推進法等の改正について」(https://www.mhlw.go.jp/content/001502758.pdf)

では、具体的に何が義務化されるのか。3つの義務化項目とその計算方法を見ていこう。

2. 何が義務化されるのか ─ 3つの項目と計算方法

2026年4月の改正で新たに義務化・拡大される主要3項目を詳しく解説する

1

男女間賃金差異の公表義務(101人以上に拡大)

男女間賃金差異とは、女性の平均賃金を男性の平均賃金で割った割合(%)であり、100%未満の場合は女性の賃金が男性より低いことを示す。開示は「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分で行う必要がある。101人以上300人以下の企業にとって、これは実質的に初めての「賃金格差の数値化と公開」を意味する。

2

女性管理職比率の公表義務(101人以上に拡大・301人以上は追加義務)

改正前も301人以上の企業は、8つの情報公表項目から一定数を選択して公表する義務があった。改正後は、女性管理職比率が選択肢から必須項目へ格上げされる。101人以上300人以下の企業は、これまで情報公表義務の対象外だったが、改正により女性管理職比率の開示が新たに義務化される。

3

行動計画の策定・届出・公表(101人以上で継続)

行動計画の策定義務は2022年の改正から101人以上の企業に課されており、今回の改正でも継続される。ただし、男女賃金差異・女性管理職比率の数値開示義務が追加されることで、「目標(行動計画)」と「実績(賃金差異・管理職比率)」の両方が揃う形になる。

比較
4項目

301人以上企業の情報公表義務(改正後)─ 賃金差異+管理職比率+2項目以上

301人以上(改正後)
4
301人以上(改正前)
3
101〜300人(改正後)
3
101〜300人(改正前)
0

値は必須公表項目数の目安。改正後の101〜300人:賃金差異+管理職比率+1項目以上の計3項目

厚生労働省

男女間賃金差異の計算方法

男女間賃金差異の計算式は単純に見えて、実務上はさまざまな判断が求められる。計算誤りや範囲設定の誤りが後から発覚するケースも想定されるため、正確な理解が不可欠だ。

計算式:

男女間賃金差異(%) = 女性の平均賃金 ÷ 男性の平均賃金 × 100

賃金に含まれるもの: 基本給、時間外労働手当、通勤手当、家族手当、住宅手当、賞与(ボーナス)

賃金に含まれないもの: 退職金(退職手当)、通勤費の現物支給、私傷病・育児・介護休業中の手当

男女間賃金差異の3区分

男女間賃金差異 ─ 開示の3区分

区分集計対象重要性
全労働者正規・非正規を含むすべての労働者法人全体のジェンダー平等の総括
正規雇用労働者正社員・契約社員(正規雇用のみ)職種・職位の構成を反映した本質的な格差
非正規雇用労働者パート・アルバイト・派遣労働者非正規雇用の処遇格差を可視化

各区分の定義と集計対象

管理職の定義

女性活躍推進法における「管理職」は、課長相当職以上(事業主の指揮命令を受けずに、部門全体を統括する職位)を指す。労働基準法41条の「管理監督者」とは異なる概念であり、より広い範囲をカバーする点に注意が必要だ

よくある計算の落とし穴

1

非正規労働者の取り扱い

「全労働者」の計算では、パートタイム・有期雇用労働者を含めた全員の賃金を集計する。フルタイム換算(FTE換算)は行わず、実際の支払賃金額を使用する。非正規雇用は女性比率が高いため、FTE換算しない場合に女性の平均賃金が低く算出される傾向がある点に注意が必要だ。

2

集計期間と対象者の基準日

賃金差異の集計は事業年度単位で行い、期間中に在籍した全労働者(出向者・派遣受け入れ労働者は除く)が対象となる。育児休業中や長期病欠中で給与が支払われていない期間がある場合、その期間の賃金はゼロではなく、期間按分により適切に処理する。

3

職種・等級の構成を考慮した補足説明

単純な賃金差異の数値だけでは、格差の原因が「職種構成」なのか「同一職種内の処遇差」なのかが分からない。厚生労働省は、賃金差異の数値とともに差異が生じている理由の説明を添付することを推奨している。たとえば「管理職・専門職比率の男女差が主因であり、同一職種・等級内の差異は限定的」といった補足が有効だ。

義務化される項目と計算方法を押さえたところで、次は同じ改正パッケージに含まれる認定制度の変更とハラスメント防止措置を見ていこう。

3. えるぼし認定・カスハラ防止 ─ 同時に動く制度改正

今回の法改正は情報公表義務の拡大だけではない。えるぼし・プラチナえるぼし認定制度の要件変更と、カスタマーハラスメント防止措置の義務化が同じパッケージに含まれている。これらを一体として理解することが、改正の全体像を把握する鍵だ。

えるぼし認定(3段階)

女性活躍推進法に基づく認定制度として「えるぼし認定」と「プラチナえるぼし認定」がある。2026年改正では、プラチナえるぼしの認定要件に新たな基準が追加される

えるぼし認定の5つの基準:①採用(男女別採用実績比率)、②継続就業(男女の雇用継続状況)、③労働時間等の働き方(時間外労働・有休取得)、④管理職比率(女性管理職比率の水準)、⑤多様なキャリアコース(女性の職域拡大)。

1〜2基準を満たすと1段階目、3〜4基準で2段階目、5基準すべてで3段階目の認定となる。

プラチナえるぼし認定(最上位)─ 2026年改正で新要件追加

プラチナえるぼしは、えるぼし3段階目(5基準すべて達成)に相当する基準を満たした上で、女性活躍推進の取組に関して特に優れた実績のある企業に与えられる最上位認定だ。

2026年改正で追加される新要件: 事業主が講じている求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止に係る措置の内容を公表していることが、プラチナえるぼし認定の新たな要件として追加される。現在プラチナえるぼし認定を受けている企業も、認定を維持するためにはこの要件を満たす必要がある(施行日は公布後1年6か月以内に政令で規定)

えるぼし・プラチナえるぼしの認定マークは、採用活動や取引先への信頼性アピールに活用できる。公共調達における加点評価(えるぼし認定企業が入札で有利になる仕組み)も継続されており、特に官公庁・公的機関との取引が多い企業にとっては事業上のメリットも大きい。

カスタマーハラスメント防止措置の義務化

カスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置が、努力義務から事業主の法的義務へと格上げされる。対象は全企業だ。

カスハラとは、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義される。①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、②社会通念上許容される範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境を害すること

規制
3要素

カスタマーハラスメントの法的定義

①顧客等の行為 ②社会通念上許容される範囲を超えた言動 ③労働者の就業環境を害する ─ 3要素すべてを満たすものが対象

厚生労働省

同じ法改正パッケージには、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる「就活セクハラ」)防止措置の義務化も含まれている。就職活動中の学生やインターンシップ生等に対するセクハラを防止するための必要な措置を講じることが事業主の義務となる

事業主に求められるカスハラ防止体制の要素

要素内容
方針の明確化カスハラを容認しない方針の策定・周知(就業規則への明記等)
相談体制の整備被害を受けた従業員が相談できる窓口の設置・運営
対応方法の策定カスハラ発生時の組織的な対応手順(エスカレーション基準等)
従業員へのケア被害を受けた従業員への心理的支援・配置転換等の配慮
記録と再発防止カスハラ事案の記録・分析と予防的な改善措置
研修・啓発管理職・従業員へのカスハラ対応研修の実施

2026年改正による義務化の内容

グローバル文脈 ─ EU賃金透明性指令との比較

日本の女性活躍推進法改正は世界的な文脈でどう位置づけられるのか。欧州連合が2023年5月に採択したEU賃金透明性指令(Pay Transparency Directive)は、加盟国に2026年6月7日までの国内法化を義務付けており、グローバルスタンダードを大きく塗り替えつつある。

EU賃金透明性指令の詳細解説はこちら

日本の女性活躍推進法 vs EU賃金透明性指令

比較項目日本(女性活躍推進法)EU(賃金透明性指令)
施行時期2026年4月1日(日本国内)2026年6月7日(加盟国国内法化期限)
対象規模101人以上の企業100人以上の企業(段階的に拡大)
開示内容男女間賃金差異(3区分)・女性管理職比率賃金差異・賃金帯の事前開示・個人の賃金情報請求権
開示先一般公表(インターネット等)従業員・当局・一般公表(段階による)
罰則報告徴収・助言・指導・勧告・企業名公表差額賃金の支払命令・補償・罰金(最低水準を加盟国が設定)
職務評価要件なし性別中立的な職務評価制度の導入義務化
賃金帯の事前開示なし求人段階での賃金帯・賃金下限の開示義務(新規)
訴権(労働者)なし差別を受けた労働者に裁判上の請求権を付与

制度設計の比較

EU賃金透明性指令は日本の制度をはるかに上回る踏み込んだ内容を持つ。特に**「賃金帯の事前開示」(求人段階での賃金範囲の記載義務)や「個人の賃金情報請求権」**は、日本にはまだない仕組みだ。グローバルに事業を展開する日本企業は、EU域内の法人・子会社においてEU指令への対応が求められるため、本社レベルでのガバナンス・データ管理体制の整備が注目されている。

制度改正の全体像を把握したところで、最後に企業データと改正の影響を確認する。

4. 企業データと改正の影響

mvv.jpが収録する${totalCompanies}社の企業データから、女性管理職比率・女性取締役比率・女性従業員比率のリストを掲載する。データは各社の統合報告書・ESGデータブック・有価証券報告書から抽出したもので、原則として最新年度の数値を使用している。DB収録企業の平均女性管理職比率は${avgFemaleManager}%であり、業種・規模によるばらつきが大きい

業種別に見ると、医療・介護・教育・小売サービス系の企業では女性の割合が高く、建設・製造・金融(特に生保以外)・総合商社では低い傾向がある。2026年4月以降は101人以上のすべての企業が男女賃金差異と女性管理職比率の公表義務を負うため、この種のデータが今後急速に拡充される見込みだ。

女性管理職比率

女性管理職比率が高い企業 · 2024年度 · 451社中5社掲載

管理職に占める女性比率は、企業の多様性経営の進捗を示す代表指標。改正法では101人以上企業に公表が義務化され、データの蓄積が進む。

ファーストリテイリング

46.1%

女性管理職比率(2024年8月期)

46

FAST RETAILING Integrated Report 2024 p.68

ダイバーシティ推進チームが中心となり、従業員満足度調査で課題を把握。ライフステージに合わせた働き方やキャリア形成支援、人事制度の改革、メンターサポートを推進し、2024年8月期の女性管理職比率は46.1%と前期比1.4ポイント上昇。

アシックス

39.5%

女性管理職比率(2024年度実績)

40

統合報告書 2024年度 p.78

グローバル全体で2022年に女性管理職比率38.3%を達成し、50%到達に向けシニアマネジャーの女性比率を高める行動計画を策定中。管理職対象のアンコンシャスバイアス研修を実施し、インドネシアでは全従業員向けキャリア開発ワークショップでD&Iを開始。

改正による影響の整理 ─ 企業規模別

企業規模別の改正影響

影響領域101〜300人(新規義務化対象)301人以上(既存義務に追加)
男女賃金差異の公表新規義務。正規・非正規・全労働者の3区分での集計体制が必要継続(変更なし)
女性管理職比率の公表新規義務。管理職の定義確認・集計ルール策定が必要選択公表から必須公表へ格上げ
行動計画の策定・届出継続(2022年改正から義務化済み)継続(変更なし)
えるぼし・プラチナえるぼし認定申請が可能(任意)プラチナえるぼしに就活セクハラ防止措置の公表要件が追加
有報・可視化指針との整合有報提出企業は人的資本開示との整合が論点に人的資本可視化指針2026年版との整合が投資家の評価対象
EU賃金透明性指令─(欧州拠点を持つ企業のみ)グローバル展開企業は各加盟国の国内法化動向も影響
カスハラ防止措置努力義務から法的義務へ格上げ(施行日は別途政令で規定)同左
公表先の選定自社サイト・厚労省DB等での初回公表が必要既存の公表チャネルを継続

101人以上300人以下 vs 301人以上 ─ 新たに発生する義務と既存義務の変更

今回の改正への対応は、単なる義務の履行にとどまるものではない。男女賃金差異・女性管理職比率のデータを人的資本経営の中核指標として戦略的に活用する視点が重要だ。2026年の人的資本可視化指針(改訂版)が示すように、単なる数値の開示ではなく、経営戦略との連動を示すナラティブが投資家・求職者への訴求力を生む。データ整備を出発点に、自社の女性活躍推進を経営戦略そのものとして位置づけること ── それが、改正法が企業に問いかけている本質的な課題だ。

出典(1件)
  1. 女性の健康課題への企業の取組促進方針(ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内, p.2)

使用データ一覧

metrics_disclosure(1件)
コンテキスト年度出典
女性の健康課題への企業の取組促進方針
2025年
女性の健康課題への取組促進:女性の健康上の特性による健康課題(月経、更年期等に伴う就業上の課題)に関して、職場の理解増進や配慮等がなされるよう、今後企業の取組事例を示し、事業主による積極的な取組を促していく方針。
ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内
p.2

1 件のデータが記事内で参照されています

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