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人的資本経営とは?7社の事例から横断的に解説

人的資本経営とは何か。7社の日本企業の人的資本指標を横断的に分析し、女性管理職比率、エンゲージメント、研修投資と財務パフォーマンスの相関を解説します。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、従業員を「コスト」ではなく「投資対象となる資本」として捉え、その価値を最大化することで企業価値向上を図る経営手法です。

人材への投資
研修・教育、キャリア開発、エンゲージメント向上への積極投資
スキル向上
リスキリング、デジタル人材育成、専門性強化
エンゲージメント
従業員満足度、定着率向上、Well-being推進

従来の人事管理との違い

観点従来の人事管理人的資本経営
人材の位置づけコスト投資対象となる資本
目標コスト削減価値創造・ROI最大化
開示任意義務化・透明性重視
時間軸短期中長期

開示義務化と対応

2023年3月期以降、有価証券報告書において人的資本に関する情報開示が義務化されました。

必須開示項目(有価証券報告書)

  • 女性管理職比率
  • 男女間賃金格差
  • 男性育児休業取得率
フレームワーク概要対象
有価証券報告書3項目の必須開示上場企業(2023年〜)
ISO3041411領域58指標の国際ガイドライン任意(グローバル基準)
人材版伊藤レポート経産省による人的資本経営の指針日本企業向け
コーポレートガバナンス・コード取締役会スキルマトリックス等プライム市場上場企業

人的資本の主要指標

カテゴリ主要指標意味・目安
ダイバーシティ女性管理職比率政府目標30%、先進企業は40%以上
男女間賃金格差100%が同等、70%程度が日本平均
男性育休取得率政府目標50%(2025年)
エンゲージメント従業員エンゲージメントスコア70%以上が良好水準
離職率10%以下が望ましい
人材育成研修時間/人年間20時間以上が目安
人材投資額/人増加傾向が評価される
安全衛生労働災害度数率0に近いほど良好

データベース:日本の上場企業47社以上のIR/ESGレポートを分析中

掲載企業:47社(随時追加)

更新頻度:月次更新

人的資本指標別 企業一覧

当サイトで分析した企業の人的資本指標を、開示内容で分類しました。 各企業名をクリックすると詳細分析ページをご覧いただけます。

エンゲージメントスコアを開示している企業

従業員エンゲージメント調査結果を開示

女性管理職比率を開示している企業

女性管理職比率の数値を開示

研修・人材投資を開示している企業

人材育成投資額または研修時間を開示

ダイバーシティ指標を開示している企業

多様性に関する数値目標・実績を開示

人的資本×ESG×財務の相関分析【事例】

人的資本への投資は、ESG評価や財務パフォーマンスと密接に関連しています。 以下に、人的資本指標と他カテゴリの相関を分析した事例を紹介します。

分析の視点: 人的資本投資が環境・社会目標の達成や財務指標にどう影響しているかを追跡

花王株式会社

人的資本指標

女性管理職比率

32.7%

消費財メーカーとして女性消費者への理解が事業成長に直結。意思決定層の多様化が商品開発力を強化

健康経営銘柄選定

9年連続

「豊かな共生世界の実現」を掲げる企業として、従業員の健康は理念の体現。離職率低下と生産性向上に寄与

ESG指標

事業場からの温室効果ガス排出量削減率

42%削減(2017年比)

パーム農園までのトレーサビリティ

88%達成

財務・成果指標

国内権利保有特許数

7,910

温室効果ガス削減貢献量実績

4,434千トン-CO2

9年連続健康経営銘柄と女性管理職比率32%超が相関しています。従業員の健康と多様性への投資が、7,910件の特許という形でイノベーション力に還元されています。

花王株式会社の詳細分析を見る

エーザイ株式会社

人的資本指標

従業員エンゲージメントスコア

74%

hhc理念への共感が高エンゲージメントを支える。「患者様のために」という明確な使命感が日々の仕事に意味を与えている

女性管理職比率

18.5%

製薬業界では平均的な水準。2030年目標30%に向け、パイプライン強化中

ESG指標

MSCI ESG格付け

AAA(最高評価)

再生可能エネルギー導入率

98.7%

財務・成果指標

DEC錠無償提供の社会的インパクト

5,200億円/年

レケンビ®承認国数

44カ国以上

エンゲージメント74%という高水準が、40年間の認知症研究継続を支えています。hhc理念と従業員の使命感が連動し、レケンビという画期的新薬の創出につながりました。

エーザイ株式会社の詳細分析を見る

アステラス製薬

人的資本指標

女性管理職比率(日本)

18.3%

グローバルでは30%超を達成。日本拠点の女性活躍加速が課題

研修投資

高水準(業界平均比)

科学人材の育成が新薬創出の源泉。研究開発費比率17%超を人材投資が下支え

ESG指標

カーボンニュートラル達成目標(Scope1+2)

2,030

ヘルスケアシステム強化プログラム

70プログラム

財務・成果指標

研究開発費率

17.1%

重点戦略製品売上高

3,364億円

研究開発費比率17%超は人材への投資の証左です。科学人材の育成と維持が、PADCEV、VEOZAHなど重点戦略製品の成長を支えています。

アステラス製薬の詳細分析を見る

ファーストリテイリング

人的資本指標

女性管理職比率(グローバル)

44.5%

小売業として顧客の半数以上が女性。経営層の多様化が顧客理解と商品開発に直結

グローバル人材育成プログラム

全世界展開

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を実現する人材を全世界で育成

ESG指標

リサイクル素材使用比率目標

50%(2030年)

RE100加盟

2,030年100%達成目標

財務・成果指標

海外UNIQLO事業売上高構成比

60%超

店舗数(グローバル)

2,400店舗以上

女性管理職比率44.5%は日本企業トップクラスです。グローバル展開(海外売上60%超)を支える多様な人材が競争優位の源泉となっています。

ファーストリテイリングの詳細分析を見る

人的資本投資はなぜ企業価値を高めるのか

エンゲージメントと生産性のメカニズム

エンゲージメントが高い従業員は「言われたこと以上」を自発的に行います。これが積み重なると組織全体の生産性が向上します。また、離職率の低下により採用・教育コストが下がり、ノウハウが組織に蓄積されます。エンゲージメントが高いチームは心理的安全性も高く、問題の早期発見・解決が進みます。

測定においては、単発のサーベイではなくパルスサーベイ(高頻度の簡易調査)でトレンドを追うことが重要です。スコアの「平均」より「ばらつき」に注目すると、組織の課題が見えてきます。

ダイバーシティが財務パフォーマンスを高める条件

女性管理職比率とROEの相関は多くの研究で確認されていますが、「女性を増やせばROEが上がる」という単純な話ではありません。効果が出る条件として、意思決定への実質的参画(形式的な登用では効果なし)、インクルーシブな組織文化(多様な意見を歓迎する風土)、中間管理職層の変革が重要です。

短期的には「同質性の高いチーム」の方が効率的に見えることがあります。多様性の効果は中長期で現れるため、経営者のコミットメントと忍耐が必要です。

研修投資は「資産形成」

研修投資額が大きい企業ほど新製品・特許数が多い傾向があります。これは「学びの文化」が組織のイノベーション力を高めることを示しています。現在の会計基準では研修費用は「費用」として計上されますが、経営的には「無形資産への投資」であり、将来のキャッシュフローを生む源泉です。

研修投資は「全員に薄く」より「戦略的人材に厚く」が効果的とされています。特に将来の幹部候補への早期投資はROIが高い傾向があります。

人的資本経営は「人を大切にする良い会社」というイメージ戦略ではありません。知識経済において人材の質と量が競争優位の源泉であるという認識に基づく経営戦略です。製造業の時代は設備投資がROIを左右しましたが、現代では人的資本投資がその役割を担っています。

企業別人的資本指標データ

日本企業の人的資本関連指標データ。データベースから動的に取得しています。

傾向: 女性管理職比率は業界・企業規模により大きく異なります。サービス・小売業は高く、製造業・金融は改善途上。エンゲージメントスコアは70%以上を目標とする企業が増加。

企業名指標年度出典
ファーストリテイリング女性管理職比率(グローバル)44.5 %2024出典
花王株式会社女性管理職比率32.7 %2024出典
キリンホールディングス女性管理職比率19.8 %2024出典
エーザイ株式会社女性管理職比率18.5 %2024出典
アステラス製薬女性管理職比率(日本)18.3 %2024出典
エーザイ株式会社従業員エンゲージメントスコア74 %2024出典
花王株式会社健康経営銘柄選定9 年連続2024出典
オムロン株式会社障がい者雇用率3.07 %(法定2.3%超)2024出典
アステラス製薬研修投資(研究開発費率)17.1 %2024出典
ソニーグループ女性管理職比率(グローバル)28 %2024出典

企業別人的資本分析を見る →

人的資本経営の実践ステップ

  1. 現状把握

    従業員構成、スキルマップ、エンゲージメント調査で現状を可視化

  2. 経営戦略との連動

    ビジネス戦略に必要な人材像を定義し、ギャップを特定

  3. KPI設定

    女性管理職比率、エンゲージメント、研修時間等のKPIを設定

  4. 施策実行

    採用強化、育成プログラム、キャリアパス整備、評価制度改革

  5. 開示・コミュニケーション

    統合報告書・有価証券報告書での開示、ステークホルダー対話

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