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2025年4月 対象拡大

男性育休、あなたの会社は公表できる? ─ 公表義務が300人超企業に拡大

2026-03-25

改正育児介護休業法 | 全国平均 40.5%(FY2024)

なぜ今、男性育休が経営課題なのか

日本の父親向け有給育児休業は30.4週間──ユニセフの2019年調査で世界1位と評価された制度である 。にもかかわらず、2024年度の取得率は40.5%にとどまる。北欧の80〜90%はもとより、フランスの71%、ドイツの43%と比べても「制度があるのに使われない」という日本固有の構造問題が浮き彫りになる

この乖離の解消に向けて、政府は法整備を加速させている。2025年4月、改正育児介護休業法の施行により、男性育休取得率の公表義務が従業員1,000人超から300人超の企業に拡大された。対象企業数は約5,500社から約18,000社へと3倍以上に増加している 。公表は年1回以上、インターネット等を通じて行う。「両立支援のひろば」が推奨されるが、自社ウェブサイトでも可能である

男性育休取得率・公表義務の変遷

時期対象企業公表義務の内容
2023年4月従業員1,000人超(約5,500社)年1回、育児休業等取得率を公表
2025年4月従業員300人超(約18,000社)対象を中規模企業に拡大。同時に看護休暇・残業免除等の制度改正も施行
2030年(政府目標)全企業(検討中)取得率85%目標。さらなる対象拡大が議論されている

出典:21世紀出生児縦断調査及び21世紀成年者縦断調査 特別報告書(10年分のデータより)

同時に施行された改正は公表義務にとどまらない。子の看護休暇が小学校3年生修了まで拡大、残業免除が小学校就学前まで拡大、3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク措置が努力義務化されている 。罰則は直接の罰金規定こそないが、厚生労働大臣の報告徴収・指導・勧告の対象となり、従わない場合は企業名が公表される。くるみん認定にも影響するためレピュテーションリスクは軽視できない

なぜ政府がこれほどの加速を図るのか。背景には明確なエビデンスがある。父親の家事・育児時間が長いほど第二子以降の出生確率が高い。休日6時間以上の家事・育児をする夫の第二子以降出生割合は91.6%で、家事・育児時間なしの場合と比べ顕著な差がある 。「こども未来戦略」(2023年12月閣議決定)が2025年度50%・2030年度85%という野心的な目標を掲げた理由はここにある

男性育休取得率は2019年度の7.48%から急上昇してきた。2020年度12.65%、2021年度13.97%、2022年度17.13%、2023年度30.1%と推移し、とりわけ2022年の産後パパ育休創設以降の伸びが顕著である 。しかし、この全国平均は企業規模と業種で大きな偏りを含む。上場企業の平均は53%に達する一方、従業員5〜29人の小規模企業では25.1%にとどまる 。業種別では金融・保険業が63.6%、情報通信業が58.1%と高い一方、業種間で最大40ポイント以上の差がある

主要国の父親向け育児休業制度比較

制度期間給付水準取得率
日本最大30.4週間67%→50%40.5%
スウェーデン父親割当90日+共有日約80%約90%
ノルウェー父親割当15週間100%約70%
フランス28日間100%約71%
ドイツ最大28か月(共有)65〜67%約43%
韓国最大52週間80%約28%
英国2週間定額給付約21%
米国連邦制度なし

出典:21世紀出生児縦断調査及び21世紀成年者縦断調査 特別報告書(10年分のデータより)

北欧諸国が80〜90%の取得率を実現する鍵は「パパ・クオータ(父親割当)」にある。スウェーデンでは90日を父親専用とし、使わなければ権利が消滅する。ノルウェーの父親割当は15週間。「使わなければ消える」設計が取得を当たり前にした 。日本の産後パパ育休はこの思想に近いが、取得を「義務」とはしていない。では、義務化なしに100%超を達成した日本企業は、何をしたのか。

データが示す現在地──「率」と「質」の両面から

MVV Insightsが集計した統合報告書データから、男性育休取得率が100%を超える企業を一覧する。100%超となるのは、前年度以前に子が生まれた従業員が当年度に取得するケースがあるためで、計算式は「当期に育児休業を取得した男性労働者数÷当期に配偶者が出産した男性労働者数×100」で算出される。

企業名取得率平均取得日数備考
J.フロント リテイリング132.5%前年87.5%から急上昇
日本電信電話120%グループ全体
ニチレイ108.7%食品業界トップ
NTTデータグループ105.7%86.9日約3か月の長期取得が定着
三井住友フィナンシャルグループ105%14.5日目標30日とのギャップあり
コンコルディア・フィナンシャルグループ104.5%地銀グループ
大和証券グループ本社103%23.7日最低2週間を義務化

この表から浮かび上がるのは、取得率の数字だけでは「育休の質」は測れないという事実である。NTTデータグループは平均86.9日(約3か月)と長期取得が標準化している一方、SMFGは14.5日にとどまる。同じ100%超でも、育児参加の実質はまったく異なる。SMFGは「平均30日」を目標に掲げており、現状とのギャップが開示の中で可視化されている。

この「率と日数のギャップ」こそが、これからの人的資本開示で問われる核心である。では、率も質も高い水準を達成した企業は、具体的にどのような施策を打ったのか。

男性育休取得率

開示企業の一覧(337社の開示を確認・5社を掲載)

※ 各社の開示年度・集計範囲(連結/単体)は異なります。各行に併記しています。

2025年4月から300人超企業に公表義務。100%超の企業は分割取得制度の活用が進んでいる。取得率だけでなく取得日数の開示も論点になりつつある。

離職率

開示企業の一覧(148社の開示を確認・5社を掲載)

※ 各社の開示年度・集計範囲(連結/単体)は異なります。各行に併記しています。

男性育休制度の充実は人材定着に寄与するとされる。育休取得率が高い企業は離職率が低い傾向があり、制度投資の効果指標として注目される。

先進企業はどうやったか──4社のケーススタディ

育休取得率100%超の企業に共通するのは、経営トップの取得推奨メッセージと管理職KPIへの組み込み、出産申告時の自動面談と業務引継ぎ計画の制度化、最低2週間以上の取得推奨、チーム制による業務属人化の解消である 。ただし、各社の力点は異なる。「なぜその施策を選んだか」に注目しながら4社を見ていく。

大和証券グループ本社──「義務化」で意思決定コストを排除

大和証券グループ本社は連結で取得率103%を達成した。同社の施策の核心は「最低2週間の取得を義務化」した点にある。任意ではなく義務とすることで、上司も本人も「取得するかどうか」を迷う必要がなくなった。

この制度設計が効果を生んだ因果連鎖を数字で追うと明快である。義務の2週間を超えて平均23.7日取得されており、最大4週間の有給育休と保育施設補助(利用者875名)が「もう少し長く」取る動機づけとなっている。その結果として、エンゲージメントスコア82、女性管理職比率20.4%という組織全体の好循環が可視化されている。

J.フロント リテイリング──シフト制の壁を越えた小売業の先例

J.フロント リテイリングの取得率は132.5%で、前年の87.5%から45ポイントの急上昇を記録した。2026年度目標の95%を大幅に超過している。

小売業は店舗シフトの制約から育休取得が難しい業種とされる。同社が証明したのは、ダイバーシティを経営の中核に据えることで構造的な障壁を克服できるという事実である。女性管理職比率26.2%は今回の4社中で最も高く、離職率4.6%という低水準がその成果を裏付ける。エンゲージメントスコア68.9は4社中最も低いが、急速な文化変革期にあることを考えれば今後の上昇余地として読むこともできる。

NTTデータグループ──「3か月の育休」を標準にした仕組み

NTTデータグループは取得率105.7%に加え、平均取得日数86.9日(約3か月)という4社中で突出した数字を記録している。IT業界のプロジェクト型業務では長期離脱が困難とされるが、チーム制と業務引継ぎの仕組みを整備することで「3か月の育休」を標準化した。

復職率99.7%は、長期の育休が離職につながらないことの決定的な証拠である。同社の事例は「率」と「質」の両立が可能であることを示すベンチマークとなっている。女性管理職比率は10.8%で2030年度15%目標に向けて引き上げ途上にあり、育休推進の波及効果がまだ発展途上であることも正直に開示されている。

三井住友フィナンシャルグループ──率100%超の「その先」を可視化

SMFGは取得率105%を達成しているが、平均取得日数は14.5日にとどまる。同社自身が掲げる目標は「平均30日」であり、現状はその半分に満たない。エンゲージメントスコアは74である。

この事例が示すのは、取得率100%超がゴールではなく出発点であるということだ。率の達成後に「質=日数」の課題を自ら開示する姿勢は、人的資本経営の成熟度を示している。目標と現実のギャップを隠さず可視化することが、投資家からの信頼につながる。

4社比較──率・質・波及効果

企業取得率平均日数エンゲージメント女性管理職比率離職率
大和証券103%23.7日8220.4%
J.フロント132.5%68.926.2%4.6%
NTTデータ105.7%86.9日10.8%
SMFG105%14.5日74

出典:21世紀出生児縦断調査及び21世紀成年者縦断調査 特別報告書(10年分のデータより)

4社に共通するのは、育休取得率が単独の指標ではなく、エンゲージメント・離職率・女性管理職比率と連動する「組織文化の変革指標」として機能している点である。

データから見える3つの論点

育休データは何の代理指標か

育休取得率は、単なるコンプライアンス指標にとどまらない。人的資本開示の文脈では、企業の組織能力を測る代理指標として機能している。就職活動中の学生・転職希望者の約6割が育児休業の取りやすさを企業選びの重要項目に挙げ、人的資本開示が充実している企業の選考参加優先度が「上がる」と回答した層は44.5%に達する 。育休データは人材獲得力の先行指標でもある。

育休データを読む3つの視点

視点注目指標解釈のポイント
1. 量(カバレッジ)取得率100%超は制度浸透の証。ただし率だけでは不十分
2. 質(深さ)平均取得日数14日と87日では育児参加の実質が全く異なる。率とセットで評価
3. 波及効果エンゲージメント・離職率・女性管理職比率育休推進は単独施策ではなく、組織文化の変革指標として機能

出典:21世紀出生児縦断調査及び21世紀成年者縦断調査 特別報告書(10年分のデータより)

率→質→文化──企業データが示す3段階の進化

本記事で見てきた企業データは、男性育休が3段階で進化するパターンを示している。第1段階は取得率の向上(SMFGの105%)、第2段階は取得日数の充実(NTTデータの86.9日)、第3段階はエンゲージメントや女性活躍との好循環(大和証券のエンゲージメント82・女性管理職20.4%)である。

100%超の企業でも、SMFGの平均取得日数14.5日(目標30日)が示すように、「率」の達成と「質」の充実は別の課題だ。NTTデータの86.9日との差は、制度の有無ではなく運用の深さの違いを反映している。

公表義務拡大が意味するもの

2025年4月の義務対象拡大(300人超・約18,000社)は、第1段階への入口にすぎない。義務化によって「率」が可視化されると、投資家・求職者の比較対象に組み込まれ、企業は否応なく第2段階・第3段階の競争に引き込まれる。先進企業のデータが示すのは、制度は世界1位でも取得率は追い上げ途上という構図であり、この構図のなかで各企業がどの段階にいるかが、人的資本開示の文脈でますます問われることになる。

人的資本開示の全体像については、人的資本可視化指針2026の解説記事も参照されたい。

出典(2件)
  1. 育休取得率100%を達成している企業に共通するパターンとして、(1)経営トップによる育休取得推奨メッセージの発信と管理職KPIへの組み込み、(2)出産申告時の自動面談設定と業務引継ぎ計画の制度化、(3)最低2週間以上の取得推奨、(4)チーム制による業務属人化の解消がある。 100%達成企業の共通施策パターン(複数のIR資料・人的資本開示情報からの分析的合成。育休白書2024は取得率・日数の全国調査データを提供)(男性育休白書2024)
  2. 就職活動中の学生・転職希望者の約6割が、育児休業の取りやすさを企業選びの重要項目として挙げている。人的資本開示が充実している企業の選考参加優先度が「上がる」「やや上がる」と回答した層は44.5%に達する。 育休取得率は人材確保力の代理指標として機能(人的資本可視化指針(改訂版), p.8)
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