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2026年3月期 対応開示府令改正 | 義務化3項目 | 記載場所変更

有価証券報告書の人的資本開示 2026年3月期 ─ 何を書けばいいのか

2026年3月期から有価証券報告書の人的資本開示ルールが変わる。改正開示府令で新たに義務化される3項目、記載場所の変更、投資家の期待とのギャップ、そして先進企業に学ぶ「良い開示」の条件を、DB収録62社のランキングデータとともに解説する。

実績
3

新たに義務化される開示項目

企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正(本体)

実績
100

JPX人的資本100指数 構成銘柄

JPX日経インデックス人的資本100

実績
62

DB収録企業数(人的資本指標)

mvv.jp 独自集計

1. 改正の全体像 ─ 2026年3月期から何が変わるのか

「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(2026年2月20日公布・施行)により、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から、企業戦略と関連付けた人材戦略、従業員の給与等の額及び内容の決定に関する方針、平均年間給与の対前事業年度増減率の記載が新たに義務化された。

改正は金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告を受けたもの。人的資本情報はサステナビリティ情報とは別に「従業員の状況等」セクションに記載される。

2023年3月期から始まった人的資本開示の第一世代は、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄への記載が求められてきた。しかし開示内容のばらつきが大きく、投資家から「比較可能性が低い」「定量データが不十分」という批判が相次いだ。2026年3月期の改正は、こうした課題への対応として位置づけられている。

有報 人的資本開示の変遷

義務化の段階的拡大

時期主な変更内容根拠
2023年3月期〜サステナビリティ情報開示の義務化(戦略・リスク・指標・目標)改正開示府令(2023年)
2023年3月期〜女性管理職比率・男性育休取得率・労働者の男女賃金格差の開示義務化改正開示府令(2023年)
2026年3月期〜人材育成方針・社内環境整備方針の明示義務化改正開示府令(2026年)
2026年3月期〜多様性指標(目標・実績)の開示強化、記載場所の集約改正開示府令(2026年)
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記載場所の変更

人的資本に関する記載場所が変更される。現在「第1 企業の概況」にある「従業員の状況」が「第4 提出会社の状況」内のコーポレートガバナンス情報の後に移動し、「従業員の状況等」として記載する。サステナビリティ情報とは別のセクションに位置づけられる。

現在「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載されている「人材育成方針」「社内環境整備方針」も「従業員の状況等」で述べることが想定される。相互参照による重複排除が可能。

2. 新たに義務化される3つの開示項目

2026年3月期から有価証券報告書に新たに記載が義務化される人的資本関連の3項目: (1)企業戦略と関連付けた人材戦略の方針、(2)従業員の給与等の額及び内容の決定に関する方針、(3)平均年間給与の対前事業年度増減率。従来の単年度実績のみの開示から、時系列での増減率開示へと拡充された。

既存の開示項目(女性管理職比率、男女賃金格差、男性育休取得率)に加えて、経営戦略との連動性を示す定性情報と、給与の時系列変化を示す定量情報が追加される。

① 人材育成方針

「中長期的な企業価値向上に向けて、どのような人材を育成するのか」の方針を具体的に記載することが求められる。単なる研修制度の列挙ではなく、経営戦略との連動を示すことが重要だ。

記載例の方向性: 「DX戦略を実現するためにデータサイエンティストを○名育成する」「グローバル展開に対応するためエンジニアの英語研修を強化する」など、戦略と施策の因果関係を示す。

② 社内環境整備方針

人材が能力を最大限発揮できる環境を整備するための方針。多様性の確保・エンゲージメント向上・心理的安全性の確保などが含まれる。

記載例の方向性: 「ダイバーシティ&インクルージョン推進」「フレキシブルワーク制度の拡充」「管理職の心理的安全性研修の実施」など。

③ 多様性に関する指標・目標・実績

女性管理職比率・男性育休取得率・男女賃金格差に加え、企業が独自に設定する多様性指標について、目標値と実績値をセットで開示することが求められる。「目標なし・実績のみ」では不十分とみなされる可能性がある。

2023年3月期から有価証券報告書での記載が義務化されている人的資本関連項目: 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差の3指標(女性活躍推進法・育児介護休業法に基づく)。加えて、人材育成方針と社内環境整備方針の記載が「サステナビリティに関する考え方及び取組」で求められている。

既存の義務化項目(2023年3月期〜継続)

  • ・ 女性管理職比率(管理職に占める女性労働者の割合)
  • ・ 男性労働者の育児休業取得率
  • ・ 労働者の男女の賃金格差
  • ・ サステナビリティに関するガバナンス・リスク管理

3. 投資家は何を見ているのか ─ 企業との認識ギャップ

投資家86社を対象とした調査では、中長期的な投資・財務戦略において人的資本投資を特に重視すべきと考える投資家が6割以上。しかし企業の開示と投資家の期待にはギャップがあり、「人事戦略が影響を与える財務指標」を開示している企業は4%にとどまるのに対し、投資家の44%が関心を持っている(ギャップ+40ポイント)。

人的資本可視化指針(改訂版)に引用されている投資家調査。企業側は47%が「人事戦略が企業価値向上につながるストーリー」を開示していると認識しているが、投資家の70%は不十分と考えている。

2025年3月期の有価証券報告書における人的資本開示の実態分析(PwC Japan)では、多くの企業が女性管理職比率・男女賃金格差・男性育休取得率の3指標を形式的に記載するにとどまり、経営戦略との連動や因果関係の説明が不十分であると指摘されている。

投資家の重視度 vs 企業の開示頻度

人的資本指標の認識ギャップ(概念図)

指標カテゴリ投資家重視度企業開示率ギャップの傾向
エンゲージメント・モチベーション低〜中投資家が最重視するが企業開示率が低い
女性管理職比率・ダイバーシティ高(義務)義務化で開示率向上、質・ストーリーが課題
研修投資額・育成費用費用対効果の説明が求められる
離職率・定着率中〜高業界比較・トレンドの開示が望まれる
安全衛生・労働災害低〜中企業が力を入れるが投資家優先度は低い
男性育休取得率高(義務)取得日数・質の開示が次のステップ
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投資家が「使えない開示」と評価するパターン

  1. 定性的な記述のみ ─ 「人材を大切にする」「多様性を推進する」といった方針の羅列で、定量目標・実績が示されない。
  2. 単年度データの羅列 ─ トレンドや改善の軌跡が見えない。前年比・目標達成率がないため投資家が評価しにくい。
  3. 経営戦略との断絶 ─ 「事業戦略」欄と「人的資本」欄が別々に書かれており、因果関係が見えない。
  4. 業界比較なし ─ 自社の数値の高低が文脈なしに記載され、業界平均・競合比較がない。

4. 人的資本可視化指針(改訂版)との接続

2026年3月に公表された人的資本可視化指針(改訂版)は、有報での開示義務化と表裏一体の関係にある。指針が示す4要素フレームワーク(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)に基づいて人的資本の取り組みを整理し、有報の「従業員の状況等」で具体的に開示する構造が推奨されている。

指針の4要素はISSB/SSBJ基準に整合。有報では法的に義務化された項目を中心に、指針のフレームワークに沿った自主的な開示を加えることが期待される。

可視化指針は人的資本に関連する19の開示項目を整理しており、そのうち「女性管理職比率」「男性育休取得率」「男女賃金格差」「障がい者雇用率」「労働安全衛生」の5項目は有報での開示が義務化されている。残りの14項目は任意だが、機関投資家が高く評価する「エンゲージメント」「人材育成投資額」「ダイバーシティ・スコアボード」なども含まれる。

2026年改訂版の主要変更点

2026年改訂版では「経営戦略と人材戦略の連動」の可視化がより強調されている。単に指標を開示するだけでなく、「なぜその指標を選んだのか」「目標達成がどのような企業価値向上につながるのか」のロジックを示すことが推奨される。詳細は人的資本可視化指針 2026年改訂版の解説を参照。

JPX人的資本100指数との関係

2025年7月に「JPX日経インデックス人的資本100」の算出・公表が開始された。人的資本への取り組みが優れた上場企業100社を構成銘柄とし、人的資本開示の質が株式市場の評価に直結する時代に入ったことを象徴する。

JPXと日本経済新聞社が共同で算出。構成銘柄は人的資本に関する開示・取り組みを評価して選定。ESG指数と同様に、機関投資家のパッシブ運用のベンチマークとなることが期待される。

5. 企業ランキング ─ 主要指標で見る日本企業の現在地

mvv.jpが収録する企業の公開データから、人的資本に関連する主要9指標のランキングを掲載する。データは各社の統合報告書・ESGデータブック・有価証券報告書から抽出したもので、原則として最新年度の数値を使用している。有報作成時の業界比較・ベンチマークとして活用できる。

ランキングの活用方法

自社の各指標を業界平均・上位企業と比較することで、有報の開示内容に「文脈」を加えることができる。たとえば「女性管理職比率12%」という数値も、業界平均8%と比較すれば「業界水準を上回る」という評価に変わる。投資家は自社の位置づけを知るための比較軸を求めている。

また、上位企業の開示事例(取得率・研修時間・女性管理職比率のトレンドと目標値)は、自社の開示フォーマットを検討する際の参考になる。男性育休取得率の詳細分析もあわせて参照されたい。

6. 「良い開示」の要件 ─ 先進企業に学ぶ

2026年3月期の有報作成に向けて企業が準備すべき事項: (1)人材戦略と経営戦略の連動ストーリーの言語化(「なぜこの人材投資が必要か」「それが企業価値にどう寄与するか」の論理構築)、(2)給与決定方針の明文化(報酬体系の設計思想、業績連動の仕組み)、(3)平均年間給与の前年度増減率の算出体制整備、(4)人事部門とIR部門の連携強化。

先進企業の開示パターン

1. 経営戦略→人材課題→施策→指標の一貫したロジック
「中期経営計画でDX推進を掲げる→データ人材が不足→リスキリング投資を増額→2027年度までにDX人材1,000名育成→研修時間・資格取得数で進捗管理」という因果の連鎖を図や表で可視化する。投資家が「施策の合理性」を評価できる。
2. 定量目標+実績のトレンド開示(3年以上)
単年度の数値だけでなく、目標値・前年比・中期的なトレンドをセットで開示する。「2023年度6%→2024年度8%→2025年度目標10%→2030年度目標20%」のような時系列を示すことで、改善の軌跡と将来コミットメントが伝わる。
3. 業界比較・外部指標との対比
自社数値を業界平均・競合他社・国際標準と比較することで、相対的な位置づけを明示する。くるみん認定・PRIDE指標・なでしこ銘柄などの第三者評価の取得状況も有効な比較軸となる。
4. ネガティブデータの誠実な開示
目標を達成できなかった指標や業界平均を下回る指標についても、原因分析と改善策とともに開示する企業が高評価を得ている。「良い数字だけを並べる」開示は投資家の信頼を損なう。
5. 取締役会によるレビューの明示
人的資本戦略が取締役会レベルで審議・監督されていることを示す。担当役員(CHRO等)の設置、取締役会への報告頻度、人的資本KPIの報酬連動などを具体的に記載することが望ましい。

7. 2026年3月期 有報作成チェックリスト

以下のチェックリストを活用して、2026年3月期有報の人的資本開示が改正開示府令の要件と投資家の期待に応えているかを確認する。

必須事項チェックリスト

改正開示府令への対応確認

  • サステナビリティに関するガバナンス(取締役会の監督体制)を記載しているか
  • サステナビリティに関するリスク管理プロセスを記載しているか
  • 人材育成方針(どのような人材を育成するか、経営戦略との連動)を明記しているか
  • 社内環境整備方針(多様性・エンゲージメント・働き方改革等)を明記しているか
  • 女性管理職比率(目標値・実績値)を開示しているか
  • 男性労働者の育児休業取得率(直近年度)を開示しているか
  • 労働者の男女の賃金格差を開示しているか
  • 自社が設定する多様性指標(目標・実績・トレンド)を開示しているか
  • 指標・目標の達成状況を前年比・複数年トレンドで示しているか
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質向上チェックリスト

投資家が評価する開示の質

  • 中期経営計画・事業戦略と人材戦略の因果関係が説明されているか
  • 人材育成投資の金額・内容・効果が定量的に開示されているか
  • エンゲージメントスコアまたは従業員サーベイ結果を開示しているか
  • 業界平均・外部ベンチマークとの比較を示しているか
  • 目標未達の指標について原因分析と改善策を記載しているか
  • 取締役会・指名報酬委員会での人的資本戦略の審議状況を記載しているか
  • CHROまたは人的資本担当役員の設置・責任範囲を明記しているか
  • 人的資本可視化指針(改訂版)との対応関係を整理しているか
  • 第三者認証(くるみん・PRIDE指標・なでしこ銘柄等)の取得状況を記載しているか
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