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2025年 Omnibus改正ESRS S1 61%削減 | 対象絞り込み | Wave 2延期

EU CSRD簡素化で人的資本開示はどう変わるか ─ 日本企業が知るべきESRS S1の変更点

欧州委員会のOmnibus提案でCSRDが大幅に簡素化される。自社従業員に関するESRS S1のデータポイントは61%削減、適用対象も1,000人超企業に絞り込まれる。DB収録62社のグローバル化・ダイバーシティデータとともに、日本企業が2026年に取るべきアクションを解説する。

実績
61%

ESRS S1データポイント削減率

61

EFRAG Draft Amended ESRS S1 (November 2025)

実績
1,000

改正後の適用対象(従業員数基準)

COM(2025)81: Omnibus I substantive simplification proposal

実績
62

DB収録企業数(人的資本指標)

mvv.jp 独自集計

1. Omnibusで何が変わったのか ─ CSRD簡素化の全体像

2025年2月に欧州委員会がOmnibus I提案を公表し、CSRDの大幅な簡素化が開始された。主な変更: (1)対象企業を従業員1,000人超かつ売上高4.5億ユーロ超に絞り込み、(2)Wave 2の適用を2年延期(FY2025→FY2027)、(3)ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)のデータポイントを大幅削減。

Omnibus I提案は「Stop the Clock」指令として優先立法手続きを経て採択。CSRD Wave 2企業(中規模上場企業等)の報告開始が2026年から2028年に延期された。

Omnibus I提案により、CSRDの対象企業が大幅に絞り込まれた。新しい基準は従業員1,000人超かつ売上高4億5,000万ユーロ超。これにより、当初の約5万社から大幅に対象が縮小。中小上場企業はCSRDから除外され、任意報告に移行する。

Wave 1(大企業、FY2024から適用)の企業は引き続き報告義務あり。Wave 2(FY2027から、旧FY2025)とWave 3(FY2028から、旧FY2026)は延期。

CSRD Omnibus改正の3つの柱

主要変更項目の概要

変更項目変更前変更後(案)
適用対象500人超(大企業)+ 中堅企業(Wave 2)1,000人超かつ4.5億ユーロ超に限定
Wave 2スケジュール2026年度報告(FY2025)から順次適用2年延期(2028年度報告〜)
ESRS全体のデータポイント約1,000のデータポイント約400に削減(60%超削減)
バリューチェーン開示間接的な義務あり大幅に任意開示へ転換
第三者保証限定的保証(将来は合理的保証)限定的保証に固定化する方向
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Wave 1企業への移行措置

Wave 1企業(大企業、FY2024から適用)に対する移行措置: FY2025とFY2026の報告では、財務的影響に関する開示と一部の従業員データポイントの開示が免除される。これにより、Wave 1企業も段階的にESRS S1の完全適用に移行できる。

PwCの分析によると、移行措置はWave 1企業のFY2025・FY2026報告に適用され、特にS1の財務的影響の開示とバリューチェーン労働者に関するデータが免除対象。

2. ESRS S1(自社従業員)の61%削減 ─ 何が残り、何が消えたか

EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)が2025年11月に公表したESRS改訂案では、ESRS S1(自社従業員)のデータポイントが61%削減された。S1は「自社従業員」がマテリアルと判断された場合のみ適用される方式に変更。従来の自動適用から、マテリアリティ評価に基づく選択適用に転換した。

改訂はEFRAGへの委託に基づくもの。2026年Q2に欧州委員会が委任法令として正式採択予定。FY2027からの適用を目標とし、FY2026の任意早期適用も可能。

ESRS S1の主要な変更点: S1-5(従業員特性)は従業員50人以上かつ上位10カ国の国別内訳に限定。S1-6(非従業員)は事業モデルに重大な影響がある場合のみ開示。S1-8(多様性)は経営層の性別分布のみ残し年齢分布を廃止。S1-9(適正賃金)はILO生活賃金原則に基づく国別ベンチマーク方式に変更。S1-15(報酬)は未調整の男女賃金格差と最高報酬/中央値比率に焦点を絞った。

S1-5/S1-7の閾値は「上位10カ国×50人以上」の組み合わせ。S1-13(労働安全衛生)は100万時間あたりの事故率と損失日数に標準化。S1-16(差別)は「立証された」事例のみ開示義務。

ESRS S1 各開示要件の変更詳細

Omnibus改正案による変更内容(2025年時点)

開示要件変更前変更後(案)
S1-5 雇用期間・雇用形態正規・非正規別の詳細な雇用形態開示(義務)削除または大幅任意化の方向
S1-6 賃金・報酬の充足性生活賃金との比較・セクター別賃金データ(義務)中核的な男女賃金格差指標は維持
S1-8 男女平等・機会均等管理職・取締役・全体の男女比率(義務)主要な男女比指標は維持、細分化データを任意化
S1-9 多様性指標(年齢・国籍等)年齢層別・地域別多様性データ(義務)任意開示へ転換の方向
S1-15 ワークライフバランス育児休業・フレキシブルワーク取得率(義務)削除または任意化の方向
S1-16 役員報酬CEO対中位従業員の報酬比率(義務)維持(大企業は義務継続)
S1-14 健康・安全労働災害件数・罹患率(義務)基本指標は維持
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注意: 改正案の最終化は未確定

Omnibus提案は欧州議会・欧州理事会での審議を経て最終化される。2025年末〜2026年上半期に最終テキストが確定する見通しだが、内容が変更される可能性がある。各社は欧州委員会の公式情報を継続的にモニタリングすることが重要だ。

3. 日本企業への影響 ─ 欧州子会社の報告義務はどうなるか

CSRDは日本企業にも影響する。EU域内で一定規模の活動を行う非EU企業(日本企業含む)は、EU子会社・支店経由でCSRDの報告義務を負う可能性がある。ただしOmnibus I提案による対象絞り込みで、多くの日本企業の欧州子会社が新基準(1,000人超・4.5億ユーロ超)を下回り、報告義務から解放される可能性が高い。

日本企業の中でもトヨタ、ソニー、三菱UFJ等の大手グローバル企業はEU域内の事業規模が大きく、Wave 1としてFY2024から報告義務を負っている。中堅企業は延期・除外の恩恵を受ける。

日本企業が確認すべき3つのポイント

① 欧州子会社の従業員数・売上規模の確認

改正後の基準は従業員1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超。EU域内の各子会社がこの基準を満たすかを精査する。グループ内複数の欧州法人がある場合は、EU全体での連結ベースでの評価も視野に入れる必要がある。

② 親会社レベルの「任意」報告の検討

子会社が対象外となる場合でも、ESG評価機関・機関投資家・欧州顧客からの情報要求は継続する。ESRS S1の簡素化版に沿った自主的な情報開示は、サプライチェーンでの信頼確保に有効だ。

③ 日本の有報開示・可視化指針との整合

日本の有価証券報告書の人的資本開示人的資本可視化指針で収集している指標と、ESRS S1の残存データポイントには重複が多い。統合データ管理基盤を整備することで、国内・EU双方への対応コストを抑えられる。

4. 日本とEUの人的資本開示を比較する

日本とEUの人的資本開示の比較: 日本は2026年3月期から有価証券報告書で経営戦略連動の人材戦略開示を義務化(金融庁)。EUはCSRD/ESRS S1で自社従業員のデータ開示を義務化(ただしOmnibusで簡素化)。両者の共通点は「戦略との連動」を重視する方向性。違いは日本が「ナラティブ(定性)重視」、EUが「データポイント(定量)重視」である点。

ISSBのIFRS S1がグローバル・ベースラインとして機能し、日本の人的資本可視化指針(改訂版)もISSB/SSBJとの整合を推奨している。EU独自のESRSはISSBより広範だが、Omnibusで差が縮小。

日本 vs EU 人的資本開示フレームワーク比較

有価証券報告書・可視化指針 vs CSRD/ESRS S1

項目日本(有報・可視化指針)EU(CSRD/ESRS S1)
根拠法令金融商品取引法(開示府令)CSRD指令(EU加盟国法で転換)
義務化対象上場企業(有報提出会社)1,000人超・4.5億ユーロ超(改正後)
主な義務開示項目女性管理職比率・男性育休率・男女賃金格差・人材育成方針等S1-6賃金・S1-8男女平等・S1-14安全衛生・S1-16役員報酬等
多様性指標の重点女性管理職比率・女性取締役比率男女比率・報酬格差・障がい者含む多様性全般
任意開示フレームワーク人的資本可視化指針(19指標)ESRS S1の削減後データポイント(一部任意)
戦略との連動要求「経営戦略と人材戦略の連動」を推奨「デューデリジェンス・インパクト評価」を義務化
第三者保証任意(一部企業が自主取得)限定的保証(義務)
タイムライン2026年3月期から義務強化Wave 1: FY2024報告〜 / Wave 2: 2年延期
適用地域日本国内上場企業EU域内の適格法人(日系子会社含む)
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収束しつつある開示項目

両制度を比較すると、女性管理職・男女賃金格差・安全衛生・人材育成投資は共通して重視されていることがわかる。グローバル展開する日本企業は、これらの指標を統一フォーマットで収集・管理することで、日本・EUの双方向の開示対応を効率化できる。

一方、EUのESRS S1が求める「デューデリジェンス・プロセス」や「インパクトの重大性評価(二重の重要性)」は、日本の有報開示フレームワークにはない概念だ。欧州でビジネスを行う日本企業は、このESG固有の概念を理解した上で対応を設計する必要がある。

5. 企業ランキング ─ グローバル化とダイバーシティの現在地

CSRD/ESRS S1への対応力を測る指標として、海外従業員比率(欧州事業規模の代理指標)とダイバーシティ指標(S1-8関連)のランキングを掲載する。データはmvv.jpが収録する企業の統合報告書・ESGデータブック・有価証券報告書から抽出した最新年度の数値。

ランキングの見方

海外従業員比率が高い企業ほど、EU域内に規模ある子会社を保有している可能性が高く、CSRD適用リスクが大きい。女性管理職比率・女性取締役比率は、ESRS S1-8(男女平等)で維持される予定の指標であり、日本基準の開示データをそのままEU報告に活用できる可能性がある。

女性従業員比率は業種構造を反映するため、業界内比較が重要だ。製造業・建設業などでは相対的に低く、小売・サービス業では高い傾向がある。ESRS S1-8では絶対値だけでなく賃金格差との組み合わせで評価されるため、比率の高さだけで「対応済み」と判断しないことが重要だ。

6. タイムライン ─ 2026年に企業がすべきこと

CSRD/ESRS関連の主要タイムライン: 2025年2月 Omnibus I提案公表、2025年6月 Stop the Clock指令発効(Wave 2/3延期)、2025年11月 EFRAG改訂ESRS案公表、2026年Q2 欧州委員会が簡素化ESRSの委任法令採択予定、FY2027(2028年報告)から改訂ESRS適用、FY2026は任意早期適用可。

CSRD/ESRS S1 対応タイムライン

2025〜2027年の主要マイルストーン

時期規制側のイベント日本企業のアクション
2025年2月欧州委員会がOmnibusパッケージを公表改正内容の精査・欧州子会社への影響確認
2025年末〜2026年Q1欧州議会・理事会での改正CSRD最終化(予定)確定内容に基づく対応スコープ確定・データ収集方針策定
2026年上半期Wave 1企業のFY2025報告書提出(簡素化ESRS適用)自社の欧州子会社が対象かどうかの最終判断
2026年3月〜6月日本 有報(2026年3月期)提出有報の人的資本開示強化・ESRS S1との共通指標を整理
2027〜2028年Wave 2(中堅企業)報告開始(延期後)グループ全体のデータ管理基盤の統合・第三者保証の準備
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2026年に優先すべき3つのアクション

  1. 適用対象の確定 ─ 欧州子会社の従業員数・売上規模を改正後の基準(1,000人超・4.5億ユーロ超)と照合する。複数の欧州法人を持つ場合はグループ連結での評価も必要。
  2. 共通指標のデータ収集基盤整備 ─ 日本の有報・可視化指針とESRS S1で重複する指標(男女賃金格差・女性管理職比率・安全衛生等)を特定し、統一フォーマットでのデータ収集を開始する。二重収集コストを削減できる。
  3. Omnibus最終テキストのモニタリング ─ 2026年Q1を目途に確定が見込まれる改正ESRS S1の最終テキストを確認し、対応スコープを更新する。欧州のロビー活動状況によっては、改正内容が変わる可能性もある。

7. まとめ ─ 「準備の年」としての2026年

EU CSRDのOmnibus改正は、欧州展開を持つ日本企業にとって規制対応コストを下げるチャンスである一方、「しばらく様子見」という判断が許される状況ではない。

改正後もESRS S1の中核指標(男女賃金格差・管理職男女比・役員報酬比率・安全衛生)は維持される方向だ。これらは日本の有報開示や人的資本可視化指針でも求められる指標と重複しており、今から統合データ管理を整備することが「二重対応コスト」の削減につながる。

3つのポイントで整理する

1. 対象確認が最優先
改正後の1,000人・4.5億ユーロ基準を欧州子会社に当てはめ、義務の有無を確認する。対象外でも任意開示の検討は価値がある。
2. 共通指標は今すぐ収集開始
日本・EUで重複する指標は統一基盤で管理する。欧州の報告サイクル(FY2025分は2026年提出)に間に合わせるためには、2026年内にデータ収集を完了させる必要がある。
3. 規制の最終化を継続モニタリング
Omnibus改正は2026年Q1の最終化が見込まれる。確定後は速やかに対応スコープを見直し、必要であれば第三者保証の準備も開始する。

2026年は、CSRD対応と日本の人的資本開示強化が重なる節目の年だ。個別対応ではなくグローバル統合開示の視点で準備を進めることが、企業価値向上への最短経路となる。

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