CGコード2026年改訂が確定 ─ 人的資本は「開示項目」から「成長投資」へ
2026-07-21
2026年7月21日、金融庁・東証がコーポレートガバナンス・コード2026年改訂版を確定した。83原則は基本原則4+原則26の30原則に再編され、人的資本の規定は「開示」から「成長投資の説明」へと居場所を変えた。2027年7月末までに何が変わるかを整理する。
1. 何が確定したか ── 全上場会社のCG報告書が2027年7月末までに書き換わる
2026年7月21日、金融庁と東京証券取引所は「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」を公表し、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の2026年改訂版を確定した。4月に公表された改訂案は「成長投資の促進」「取締役会の機能強化」「有価証券報告書の定時株主総会前開示」を3本柱としていたが、パブリックコメントを経てもこの骨格は変わらないまま確定に至っている。
適用のゴールは明確で、上場会社は遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項を記載したコーポレートガバナンス報告書を提出することになる。つまり全上場会社にとって、今回の確定は「来年の報告書を新しい体系で書き直す」という実務の始まりを意味する。
立場別に関心事を整理すると、次のようになる。
CGコード2026年改訂 ── 立場別の関心事
| 立場 | 何が変わるか | 時間軸 |
|---|---|---|
| 全上場会社(IR・総務・法務) | コンプライ・オア・エクスプレインの対象が30原則に再編。報告書の記載構成を原則単位で組み替える必要 | 2027年7月末までにCG報告書提出 |
| プライム市場上場会社 | 独立社外取締役の「過半数」が『いずれは』の表現で当局文書に登場。中期的な布石として読む | 中期(今回は義務化されず) |
| 人事・人的資本の担当部門 | 人的資本の開示を求めた旧補充原則3-1③が引き継がれず、原則4-1の「成長投資の説明」に再構成。有価証券報告書の開示義務は別途存続 | CG報告書と有報の役割分担の再整理 |
2. 83原則は30に ── ただし「解釈指針」は説明義務の外にある
今回の改訂の最大の構造変化は、コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない理由を説明する)の対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実施を支援する具体的内容を「解釈指針」として切り出したことである。現行コードの原則数83(基本原則5、原則31、補充原則47)は、改訂案の段階で30原則へと大幅に再編されており、確定版も第1章「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」から第4章「取締役会等の責務」までの4章構成・基本原則4+原則26の計30原則となった。
新設された解釈指針は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない。序文は、解釈指針を「各原則についての実質的な対応を支援する役割」と位置づけ、「ベストプラクティス」「グッドプラクティス」と考えられる方策を含むが、各原則の趣旨・精神に沿う限り具体的な実現手法は各社に委ねられるとしている。
注意したいのは、この「スリム化」が対応義務の軽減を意味しないと当局側が繰り返し釘を刺している点である。この整理は改訂案を審議した有識者会議の段階から一貫しており、確定版コードの序文(第12項)も、解釈指針に移管された記載やコードから削除された記載について改訂後にその重要性が失われたと考えることは適切ではない、と明記した。序文はまた、エクスプレインを選ぶ場合に「ひな型」的な表現で表層的な説明に終始することはコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反すると明記し、「丁寧なエクスプレイン」を求めた。原則の数が減った分、一つひとつの原則への説明の質が問われる構図になっている。
3. 人的資本は「開示する項目」から「実行を語る投資」へ
人的資本経営の視点で今回の確定版を読むと、最も大きな変化は人的資本の「居場所」である。
現行コードの補充原則3-1③は、サステナビリティの取組みとあわせて「人的資本や知的財産への投資等」の情報を分かりやすく具体的に開示・提供することを求め、プライム市場上場会社にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示を要求していた。改訂版の原則3-1(情報開示の充実)は開示事項を経営理念等・経営戦略・経営計画、ガバナンス基本方針、報酬の方針と手続、選解任・指名の方針と手続、個々の選解任・指名の説明という5項目に整理し、この補充原則に相当する独立の開示規定は置かれていない。
では人的資本はコードから消えたのか。答えは逆で、より上位の原則本文に組み込まれた。改訂版で「人的資本」の語が登場するのは、基本原則2の解釈指針と原則4-1及びその解釈指針であり、開示・監督の独立規定としてではなく、成長投資とステークホルダー協働の構成要素として再構成されている。
第一の居場所は原則4-1(取締役会の役割・責務)である。取締役会は経営戦略・経営計画の策定・公表に当たり、「成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのか」を説明する責務を負う。金融庁・東証の公表文書は、成長投資に関する取締役会の役割・責務の全体像を①成長の道筋の構築、②実行内容の説明、③配分の不断の検証、の3点に整理し、キャピタルアロケーションの開示などヒト・モノ・カネの配分についての説明の重要性を挙げている。解釈指針は投資先の検討軸として、内部投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産)か外部投資(M&A・業務提携・スタートアップ出資)か、短期か中長期か、国内か国外かという多様な投資機会の認識を求めた。
第二の居場所は基本原則2(ステークホルダーとの適切な協働)の解釈指針で、「人的資本への投資等や適切な分配」が、取引先との公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)と並ぶ協働の筆頭の例示となった。これは改訂案の段階で初めて基本原則2に明記されたもので、確定版でも維持された。賃上げ・分配という政策文脈がコードの基本原則レベルに接続された形である。
第三に、従業員に関わるサステナビリティ規定は原則4-5に集約された。解釈指針はISSB基準の策定と、一定のプライム市場上場会社へのSSBJ基準に基づく有価証券報告書作成の義務付けに言及した上で、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、人権の尊重、多様性への対応をリスク減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題と位置づけている。
一方で、多様性に関する開示は原則として存置された。原則2-2(社内の多様性の確保)は、中核人材への登用等における多様性確保の考え方と自主的かつ測定可能な目標、人材育成方針・社内環境整備方針とその実施状況の開示を引き続き求めている。
見落とせないのは、コードから開示規定が消えても、法令側の人的資本開示義務はそのまま残っている点である。2023年3月期からは内閣府令の改正により有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が新設され、人材育成方針・社内環境整備方針・多様性3指標(女性管理職比率・男性育休取得率・男女賃金格差)の開示が義務化されている。さらに2026年開示府令改正で有報の記載義務は拡充される。つまり今回の再編は、「開示の器」を法定開示に一本化し、コードは「投資としての実行と説明」を担うという役割分担の明確化として読める。人的資本のデータを揃える義務は減っておらず、そのデータを成長戦略の言葉で語る責務が上乗せされた、というのが実務への正確な翻訳である。
4. パブコメ147件が残した緊張 ── 「改革の後退と誤解されるな」
確定に先立ち、2026年4月10日から5月15日までパブリックコメントが実施され、147の個人・団体から意見が提出された。プリンシプル化や成長投資の促進という方向性には賛同が大宗を占めた。
ただし、収束一色ではない。原則の限定と解釈指針の新設について「ガバナンス改革が後退したと誤解されないように趣旨を周知すべき」との意見が付き、コンプライ・エクスプレインいずれの場合も実質的な対応・説明が重要との指摘や、改訂後の実施状況のフォローアップを求める指摘が多数寄せられた。取締役会の機能強化では、プライム市場上場企業への独立社外取締役過半数の義務付け、筆頭独立社外取締役の選定、独立社外取締役の議長就任、独立性基準の厳格化といった、確定版より一歩踏み込んだ要求も出ている。
当局側もこの緊張を認めており、公表文書には「いずれはグローバルに活躍するプライム市場上場企業について、過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘がある」との一文が残された。今回は義務化を見送りつつ、方向だけを文書に刻む──次回改訂に向けた予告編として読める記述である。
経営資源の配分をめぐっても、現預金の水準は企業の裁量に任せるべきという意見と、詳細な説明・開示を求めるべきという意見が対立した。確定文書は、保有の必要性・合理性を説明できる限り適正水準の現預金保有も経営資源配分の一環と整理し、説明責任を条件に裁量を認める着地を取っている。
5. 有報は「総会の3週間前」へ ── 株主総会の日程まで動き得る
人的資本と並ぶもう一つの実務インパクトが、有価証券報告書の定時株主総会前開示の原則化である。改訂版は有報の総会前提出を株主の権利行使に係る環境整備の重要な例として原則に記載し、解釈指針で「総会開催日の3週間以上前の提出が最も望ましい」こと、選択肢として総会開催時期の後ろ倒しも含めて検討し得ることを補足した。金融庁は現行実務での難しさを認めた上で、法務省と連携し、有報と事業報告等の一本化や監査の一元化といった制度的な検討を並行して進めるとしている。6月総会・6月末有報提出という日本企業の標準スケジュールそのものが、中期的に組み替わる可能性がある。
取締役会まわりでは、サイバーセキュリティリスク、経済安全保障をめぐる地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクがリスク管理体制整備の考慮事項として解釈指針に明記され、取締役会を支える事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化も追記された。
6. 減ったのは項目、増えたのは説明責任 ── 2027年7月までに見ておく4点
今回の確定を人的資本経営の文脈で総括すると、「開示項目の削減」と「説明責任の上乗せ」が同時に起きた改訂である。ウォッチポイントは4つに絞られる。
第一に、CG報告書の書き換えである。30原則単位のコンプライ・オア・エクスプレインへの組み替えは全上場会社に共通する作業で、期限は2027年7月末。ひな型的な説明への監視は強まっており、既存記載の流用で済ませた報告書は投資家との対話で見劣りしやすくなる。
第二に、人的資本の語り方の転換である。旧補充原則3-1③型の「取組み一覧の開示」ではなく、原則4-1が求める「成長投資として何を実行するのか」の説明へ、人材投資の記述を経営戦略・資本配分の言葉に接続し直すことが論点になる。有報の法定開示とCG報告書の役割分担の設計も含めてである。
第三に、実施状況のフォローアップである。パブコメで多数の指摘があった「改訂後のフォローアップ」がどのような形で始まるか、金融庁・東証の今後の公表が注目される。
第四に、次回改訂への布石である。プライム市場の独立社外取締役過半数は「いずれは」という表現で当局文書に残り、有報と事業報告の一本化は法制審での検討が並行する。今回確定した30原則は終着点ではなく、ガバナンス改革の次のラウンドの起点として置かれている。
出典(29件)
- 2026年7月21日、金融庁と東京証券取引所は「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」を公表し、コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)を確定した。2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」以来、日本のコーポレートガバナンス改革は成長戦略の一環として推進されてきたとし、企業の価値創出は雇用の拡大・賃金の上昇、投資リターンの拡大等を通じて日本経済全体の豊かさの源泉となると位置づけている。 2026年7月21日、CGコード2026年改訂版を確定公表(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.1)
- 2026年CGコード改訂案は「成長投資の促進に向けた改訂」と位置づけられ、3つの柱で構成される:(1)成長投資の促進(取締役会の役割として成長投資等に向けた取組みの重要性を明記)、(2)取締役会の機能強化(独立社外取締役の実効性向上、コーポレートセクレタリー機能の重要性)、(3)有価証券報告書の定時株主総会前の開示(原則1-2に記載)。プリンシプルベース・アプローチの趣旨に立ち返り「コードの実質化」を図る改訂。 CGコード改訂案2026の3本柱(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について(案), p.1)
- 上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出する必要がある。 適用期限: 2027年7月末までにCG報告書提出(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.4)
- 今般の改訂では、成長投資等の経営資源の適切な配分をはじめとして、企業が中長期的な価値向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しする観点から、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実効的な実施を支援するための具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」を新設した。改訂はコード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返るための、いわば「コードの実質化」を狙いとしている。 C&E対象原則を抽象的なものに限定、解釈指針を新設(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.2)
- 改訂案では現行CGコードの原則数83(基本原則5、原則31、補充原則47)が30原則に大幅削減された。第2回会合案の28原則から、第3回会合で解釈指針の2項目が原則に格上げされ30原則となった。 原則数: 83→30(第3回会合案)(コーポレートガバナンス・コード(改訂案), p.1)
- 改訂版コードは、第1章「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」(旧第5章「株主との対話」を統合)、第2章「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、第3章「適切な情報開示と透明性の確保」、第4章「取締役会等の責務」の4章構成となり、基本原則4・原則26の計30原則で構成される。序文(第11項)は、従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、その他をコード内の他の箇所又は法令に整理する「プリンシプル化」・「スリム化」が行われたと説明している。 4章構成・基本原則4+原則26の計30原則に再編(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.4)
- 改訂版コードの序文(第9項)は、全ての基本原則及び一部の原則に「解釈指針」が示されるとした上で、「これらの『解釈指針』は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないが、各原則についての実質的な対応を支援する役割を担うものであり、当該原則の背景となる考え方、目的のほか、当該原則を履行するための最良の手法(いわゆるベストプラクティス)や優れた手法(いわゆるグッドプラクティス)の一つと考えられる方策も含まれる」と規定。各原則の趣旨・精神に沿った対応がなされる限り、具体的な実現手法は各社に委ねられる。 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.4)
- プリンシプル化・スリム化は対応コスト・開示負担の軽減のみを意図していない。解釈指針に移管された記載やコードから削除された記載についても、当該改訂前における対応の重要性が失われたものではなく、各社のプリンシプル化・スリム化の精神を十分に踏まえた対応の実質に取り組むことが期待される。 スリム化≠対応義務の軽減。実質対応は継続(コーポレートガバナンス・コード(改訂案), p.3)
- 改訂版コードの序文(第12項)は、「プリンシプル化・スリム化はこのような目的で行われたものであり、上場会社の対応コスト・開示負担の軽減のみを意図しているわけではない。当該改訂においてコンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ『解釈指針』に移管された記載や本コードから削除された記載について、当該改訂後にはその重要性が失われたと考えることは適切ではなく、上場会社は、このようなプリンシプル化・スリム化の趣旨を十分に理解した上で、本コードの各原則への対応の実質化に取り組むことが期待される」と明記した。 序文12項: スリム化は対応義務・開示負担の軽減を意味しない(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.4)
- 改訂版コードの序文(第5項)は、エクスプレインを選択した場合には「『ひな型』的な表現により表層的な説明に終始することはコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反することを十分に認識する必要がある」とし、上場会社に「丁寧なエクスプレイン」を求めている。また、置かれた状況によっては、各原則を形式的にコンプライするのではなく、むしろエクスプレインを積極的に選択すべき場合があることも明記した。 「丁寧なエクスプレイン」を序文に明記(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.3)
- 現行コードの補充原則3-1③は、経営戦略の開示に当たりサステナビリティの取組みを適切に開示すべきこと、「人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべき」こと、プライム市場上場会社はTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきことを求めていた。改訂版の原則3-1(情報開示の充実)は開示事項を経営理念等・経営戦略・経営計画、ガバナンス基本方針、報酬決定の方針と手続、選解任・指名の方針と手続、個々の選解任・指名の説明の5項目に整理し、同補充原則に相当する独立の開示規定は置かれていない。 旧補充原則3-1③(人的資本・TCFD開示)は改訂版原則3-1に不存在(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)(改訂前からの変更点), p.20)
- 改訂版コードの本文中で「人的資本」の語が用いられるのは、基本原則2の解釈指針(人的資本への投資等や適切な分配)と、原則4-1及びその解釈指針(成長投資の例示としての人的資本への投資)である。現行コードで人的資本に言及していた補充原則3-1③(情報開示)と補充原則4-2②(サステナビリティ基本方針の策定と人的資本・知的財産への投資等に対する実効的な監督)のような独立規定の形では存置されておらず、人的資本は「開示・監督の対象項目」から「成長投資・ステークホルダー協働の構成要素」として原則本文に組み込まれる形に再構成された。 人的資本の記載箇所は基本原則2解釈指針と原則4-1に再構成(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.18)
- 改訂版の原則4-1(取締役会の役割・責務Ⅰ)は、取締役会が「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、それに向けた成長の道筋を構築するなど、戦略的な方向付けを行うこと」を主要な役割・責務とし、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては「成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきである」と規定した。人的資本は成長投資の構成要素として原則本文に明記されている。 原則4-1: 人的資本を含む成長投資の実行内容の説明責務(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.18)
- 金融庁・東証の公表文書は、改訂版コードが取締役会の役割・責務として明記した成長投資等の取組みを、①会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築すべきこと、②成長の実現に向けて成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すべきこと、③自社の経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているか不断に検証を行うべきこと、の3点に整理している。キャピタルアロケーションの開示による資本配分の説明のほか、ヒト・モノ・カネ等の経営資源の配分についての説明が重要とした。 成長投資の3責務: 道筋構築・実行内容の説明・不断の検証(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.2)
- 原則4-1の解釈指針は、投資先の検討に当たり、(ⅰ)投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資への投資等)、(ⅱ)短期・中長期、(ⅲ)国内投資(地方への人的投資・地方拠点の整備等)、国外投資、といった多様な投資機会があることを十分に認識すべきとした。また中期経営計画は株主に対するコミットメントの一つであり、目標未達に終わった場合はその原因を分析し説明することを求めている。 投資先検討の3観点: 内部/外部・短期/中長期・国内/国外(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.18)
- 改訂版の基本原則2(株主以外のステークホルダーとの適切な協働)の解釈指針は、「上場会社は、人的資本への投資等や適切な分配を行う、取引先と公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)を行うなど、これらのステークホルダーと適切に協働することにより初めて、自らの持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を達成することができることを十分に認識すべきである」と規定した。人的資本への投資と適切な分配がステークホルダー協働の筆頭の例示となっている。 基本原則2解釈指針: 人的資本への投資等や適切な分配(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.12)
- 改訂基本原則2の解釈指針で「人的資本への投資等や適切な分配を行い、取引先と公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)を行う」ことが、ステークホルダーとの協働の具体例として新たに明記された。 基本原則2: 人的資本投資を初めて明記(コーポレートガバナンス・コード(改訂案), p.14)
- 改訂版の原則4-5(取締役会の役割・責務Ⅳ:サステナビリティを巡る取組み)は、取締役会が中長期的な企業価値の向上の観点からサステナビリティを巡る課題に積極的・能動的に取り組み、自社の取組みについて基本的な方針を策定するほか適切な対応を行うべきと規定。解釈指針は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による国際的な開示基準の策定と、一定のプライム市場上場会社に対するSSBJ(サステナビリティ基準委員会)策定基準に基づく有価証券報告書の作成義務付けに言及した上で、「従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇」「人権の尊重」「多様性」などのサステナビリティ課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であるとしている。 原則4-5: サステナ課題への対応、ISSB/SSBJ基準に言及(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.21)
- 改訂版の原則2-2(社内の多様性の確保)は、上場会社が「ジェンダーや国際性、経歴(中途採用を含む)、年齢、文化的背景やこれらに限られない観点から、中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきである」「多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである」と規定し、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則として存置された。解釈指針は、多様な視点や価値観の存在をイノベーションや新しい価値創造の源泉と位置づけている。 原則2-2: 多様性目標と人材育成・環境整備方針の開示は原則に存置(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.13)
- 2023年3月期から有価証券報告書での記載が義務化されている人的資本関連項目: 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差の3指標(女性活躍推進法・育児介護休業法に基づく)。加えて、人材育成方針と社内環境整備方針の記載が「サステナビリティに関する考え方及び取組」で求められている。 2023年1月31日公布の内閣府令改正(金融庁プレスリリース)(企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正(2023年), p.1)
- 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(2026年2月20日公布・施行、2026年3月期から適用)により、有価証券報告書における新たな開示義務:①企業戦略と関連付けた人材戦略、②それを踏まえた従業員給与等の決定方針、③平均年間給与の対前事業年度増減率。 開示府令改正による有報の3つの新記載義務(人的資本可視化指針(改訂版), p.1)
- 改訂案について2026年4月10日から5月15日までパブリックコメントが実施され、147の個人・団体から意見の提出があった。コードのプリンシプル化や成長投資の促進といった改訂の方向性については賛同意見が大宗であった。 パブコメ: 147の個人・団体が意見提出、方向性は賛同が大宗(コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)に関するパブリックコメントの結果概要, p.1)
- パブリックコメントでは、コンプライ・オア・エクスプレイン対象原則の限定と解釈指針の新設について、企業の本質的な取組への注力を促す観点から望ましいという意見があった一方、「ガバナンス改革が後退したと誤解されないように趣旨を周知すべき」との意見もあった。また、コンプライ・エクスプレインいずれの場合も、ひな型的な表現により表層的な説明に終始するのではなく実質的な対応・説明が重要であるとの指摘や、改訂後の実施状況のフォローアップが重要であるとの指摘も多数あった。 パブコメ: 「改革後退と誤解されないよう周知を」の意見(コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)に関するパブリックコメントの結果概要, p.1)
- パブリックコメントでは取締役会の機能強化に関し、プライム市場上場企業に対して取締役会における独立社外取締役は過半数とすることを求めるべき、筆頭独立社外取締役の選定や独立社外取締役を取締役会議長とすることを求めるべき、社外取締役の独立性に関する基準を厳格化すべき、といった意見が寄せられた。有価証券報告書の総会前開示については、情報開示の充実に資するとの賛同とともに、有価証券報告書と事業報告等の一本化等の制度整備を先行させるべきとの意見があった。 パブコメ: プライム独立社外取過半数等のより強い要求(コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)に関するパブリックコメントの結果概要, p.1)
- 金融庁・東証の公表文書は、独立した客観的な立場から実効性の高い監督を行うという取締役会に求められる役割からすれば、「いずれはグローバルに活躍するプライム市場上場企業について、過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘がある」と記載した。また、①一定の場合には独立社外取締役が議長を務めることで取締役会の役割がより実効的に果たされる、②監査等委員会設置会社等へ移行する場合には内部監査部門の機能発揮が特に重要となる、といった指摘も併記している。 プライム企業の独立社外取過半数「いずれは」との指摘を記載(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.3)
- 改訂版コードは、経営資源の適切な配分に関し不断に検証を行うべき内容として、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかを例示した。ただし金融庁・東証は、現預金を含めたこれらの資産の保有は常に否定されるべきものではなく、「会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも経営資源の配分の一環として考えられる」と留意点を示している。 現預金保有は説明できる限り経営資源配分の一環(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.2)
- 改訂版コードは、有価証券報告書を株主総会前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として原則に記載した。解釈指針では、有価証券報告書は株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましく、選択肢として株主総会の開催時期の後ろ倒しも含めて検討することが考えられる旨を補足。金融庁は、現行実務では総会3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携し、有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討も並行して進めるとしている。 有報の総会前提出を原則化、総会3週間以上前が最も望ましい(成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について, p.3)
- 改訂版の原則4-4(内部統制・全社的リスク管理体制)の解釈指針は、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク及び技術等の情報流出リスクへの対応等も、収益機会にもつながり得るものとしてリスク管理体制を整備する際の考慮事項に含まれ得るとし、そうしたリスクへの対応等が適切に行われるべきとした。 リスク管理の考慮事項にサイバー・経済安保・情報流出(コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版), p.20)
- 改訂版コードは、取締役会の審議の活性化に向け、議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する重要な役割を果たす事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべき旨を解釈指針に追記した。また、独立社外取締役の実効性向上に向け、経営の監督を行うことを含めた独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性を原則及び解釈指針で強調している。 コーポレートセクレタリー等の事務局機能強化を追記(コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)の概要, p.1)
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