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2024〜2025年度
品質

ブリヂストン

ゴムの巨人が描く未来図ー「最高の品質」を軸に社会価値を創造するブリヂストンの挑戦

国別ビジネス構造変化への対応 ×「変化をチャンスへ」 変化をチャンスへ

2020年、世界が未曾有のパンデミックに見舞われる中、ブリヂストンは静かに、しかし力強く、自らの未来を再定義する決断を下した。「第三の創業」の宣言である。1931年の創業、そして1988年の米ファイアストン社買収という「第二の創業」に続く、企業史上三度目の大きな変革の号砲だった。

ブリヂストン

製造業
2026年3月7日

他社の打ち手 × AI分析

他社は人材・後継者にどう投資しているか。

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主要ファクト

ブリヂストンの分析で使用した主要なデータポイント

指標
使命 : 最高の品質で社会に貢献(2025年)最高の品質で社会に貢献
ブリヂストンのビジョン(2025年)サステナブルなソリューションカンパニー
ブリヂストンの価値創造の軸(2025年)Bridgestone E8 Commitment
ブリヂストン創立100周年(2025年)100周年
事業環境の変化への対応(2025年)変化をチャンスへ
ブリヂストン創業年(2025年)1931
ファイアストン社買収によるグローバル化(2025年)1988
ブリヂストンの不変の使命(2025年)最高の品質で社会に貢献

107件のファクトは記事末尾の「使用データ一覧」でご確認いただけます。



序章ー原点回帰と「第三の創業」

2020年、世界が未曾有のパンデミックに見舞われる中、ブリヂストンは静かに、しかし力強く、自らの未来を再定義する決断を下した。「第三の創業」の宣言である。1931年の創業、そして1988年の米ファイアストン社買収という「第二の創業」に続く、企業史上三度目の大きな変革の号砲だった。

なぜ今、「創業」という言葉を使う必要があったのか。それは、タイヤという物理的な製品を「創って売る」ビジネスモデルの限界が、もはや誰の目にも明らかだったからだ。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波がモビリティの概念を根底から覆し、気候変動は企業存続の前提条件そのものを問い直す。そして、価値観は「所有」から「利用」へ、「モノ」から「コト」へと不可逆的にシフトしていた。この激動の時代において、過去の成功体験にしがみつくことは、緩やかな衰退を意味する。

ブリヂストンの経営陣は、この危機感を強烈に共有していた。2015年には調整後営業利益率13.6%を記録したものの、その後は下降傾向が続き、2020年には7.7%まで落ち込んだ。変化に対応できる「強い」ブリヂストンへ戻す、という21MBP(中期事業計画 2021-2023)の目標は、道半ばで「戻れていない」という厳しい自己評価を下さざるを得なかった。

この状況を打開するために選んだ道は、単なる事業再編やコストカットではなかった。それは、自社の存在意義そのものに立ち返る「原点回帰」だった。創業以来、90年以上にわたって同社を支えてきた不変の使命、「最高の品質で社会に貢献」。この短い言葉にこそ、未来を切り拓く鍵が隠されていると確信したのだ。

「第三の創業」とは、この原点に立ち返り、現代社会の文脈で「最高の品質」と「社会への貢献」を再定義する試みである。そして、その先に描いた未来像が「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」という壮大なビジョンだ。タイヤを「創って売る」だけのメーカーから、顧客がタイヤを「使い」、使い終わったタイヤを資源として「戻す」までのバリューチェーン全体に責任を持ち、新たな価値を創造するパートナーへの変革。それは、自らの事業領域をタイヤという「モノ」から、移動と暮らしを支える「ソリューション」へと拡張する挑戦に他ならない。

本稿では、このブリヂストンの「第三の創業」の軌跡を、その根幹をなす「企業理念」、変革のエンジンである「ESG経営」、そしてそれを支える「人的資本経営」という三つの側面から深掘りしていく。理念がいかにして経営戦略に落とし込まれ、12万人を超える従業員を動かし、具体的な事業として結実していくのか。その壮大な物語を紐解くことで、激動の時代を生き抜く日本企業の一つのモデルを提示したい。

第1部 理念の継承と進化ー「最高の品質」とは何か

ブリヂストンの変革を理解する上で、まず紐解くべきは、そのすべての活動の起点となっている企業理念「最高の品質で社会に貢献」である。この理念は、単なる美辞麗句ではない。創業から90年以上の時を経てなお、グローバルに展開する巨大企業の意思決定を方向づける、生きた羅針盤として機能している。

創業の精神ー「世のため、人のため」という事業観

ブリヂストンの歴史は、1931年、福岡県久留米市で創業者・石橋正二郎が日本人の技術によるタイヤの国産化に挑んだことから始まる。当時、日本のモータリゼーションは黎明期にあり、市場は欧米の巨大メーカーが席巻していた。その中で、正二郎は「永続する事業とは、社会に貢献する事業である」という強い信念を抱いていた。単に利益を追求するのではなく、「世のため、人のため」になる事業こそが、結果として企業を永続させるという事業観。これがブリヂストンの原点である。

この思想は、1968年に制定された社是「最高の品質で社会に貢献」に結晶化する。「最高の品質」とは、単に製品の性能が良いことだけを意味しない。顧客の安全・安心を支え、社会の発展に寄与するものでなければならない。この考え方は、ブリヂストンのDNAとして、今もなお世界中の従業員に受け継がれている。世界中の会議室には、この企業理念が書かれたパネルが掲げられており、議論が迷走した際には、経営幹部がそのパネルを指し示し、「これに戻るんだよ」と原点を確認する光景が日常的に見られるという

品質経営のDNA「デミング・プラン」

創業者の事業観を、組織全体で実践するための経営システムとして導入されたのが「デミング・プラン」である。1960年代、経営の近代化を目指す中で、品質管理の権威であるW・エドワーズ・デミング博士の手法を独自に発展させたこの活動は、ブリヂストンの品質経営の根幹を成した。

その基本思想は、「良い品質の製品は、良い体質の会社から生まれる」という一文に集約される。優れた製品は、優れた組織文化やプロセスからしか生まれない。この哲学のもと、ブリヂストンは組織全体の質を高めるための5つの合言葉を掲げた。「PDCAを身につけよう」「なぜなぜ分析(WHY-WHY-WHY)」「生きる標準化を進めよう」「データでまのを言おう」「重点管理を行う」。これらは、単なるスローガンではなく、問題解決と継続的改善のための具体的な行動指針として、全従業員に浸透している。

この地道な取り組みは、1968年のデミング賞実施賞受賞という形で結実する。タイヤ業界初の快挙であり、「品質のブリヂストン」というブランドイメージを確立する上で決定的な出来事となった。現在でも、グループ・グローバルTQM大会が毎年開催され、世界中から2,000件を超える改善事例が寄せられるなど、デミング・プランの精神は脈々と生き続けている。2024年3月には、グローバル経営執行会議(G-EXCO)を創業の地・久留米で開催し、経営トップ自らがデミング・プランの研修を受けるなど、その再強化に余念がない。

グローバル化と挑戦の歴史ー「走る実験室」が磨いた品質

ブリヂストンの歴史は、挑戦の歴史でもある。その象徴が、1988年の米ファイアストン社買収だ。当時の日本企業による海外企業買収としては最大規模となる約26億ドルを投じたこの決断は、ブリヂストンを世界シェアTOP3へと押し上げる「第二の創業」となった。しかし、その道のりは平坦ではなかった。買収後のファイアストンは経営危機にあり、文化の異なる二つの組織を融合させるプロセスは困難を極めた。

この危機を乗り越える上で大きな役割を果たしたのが、モータースポーツへの情熱だ。ファイアストンは、1911年の最初のINDYレースに参戦して以来、米国のモータースポーツ史に深く名を刻んできたブランドである。ブリヂストンは、1995年にINDYCAR® SERIESへの復帰を後押しすることで、ファイアストンブランドの再生を劇的に演出した。

ブリヂストン自身のモータースポーツ活動もまた、「最高の品質」を追求する「走る実験室」として機能してきた。1963年の第1回日本グランプリ参戦を皮切りに、1981年にはヨーロッパF2へ進出。そして1997年、ついに世界最高峰のFormula 1®への参戦を果たす。F1®という「極限への挑戦」で磨かれた技術は、市販タイヤの性能向上に直結し、欧州のプレミアムカーメーカーとのビジネスを拡大する礎となった。

現在、その舞台はサステナビリティを中核に据えた次世代のレースへと移っている。2026-2027シーズンから、電気自動車の最高峰レースであるABB FIA Formula E世界選手権の単独タイヤサプライヤーに選定されたことは、その象徴だ。モータースポーツを通じて技術を磨き、ブランド価値を高め、社会に貢献する。このサイクルは、創業以来の理念を現代において最もダイナミックに体現する活動の一つと言えるだろう。

第2部 「第三の創業」Bridgestone 3.0 ー サステナビリティを経営の軸へ

創業以来の理念とDNAを継承しつつ、ブリヂストンは2020年、未来への大きな一歩を踏み出した。「第三の創業」Bridgestone 3.0の始動である。これは、サステナビリティを経営のど真ん中に据え、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで、企業としての持続的な成長を目指すという、根本的な経営モデルの変革宣言だった。

E8コミットメントという羅針盤

この変革を具体的に方向づける羅針盤として、2022年3月1日、創立91周年の日に発表されたのが「Bridgestone E8 Commitment」である。これは、ブリヂストンらしい「E」で始まる8つの価値(Energy, Ecology, Efficiency, Extension, Economy, Emotion, Ease, Empowerment)を定め、従業員、社会、パートナー、顧客と共にこれらの価値を創造していくという、未来への約束だ。

重要なのは、E8コミットメントがCSR活動のような事業の周辺的な取り組みではなく、事業戦略そのものと不可分に統合されている点だ。例えば、「Energy(エネルギー)」はカーボンニュートラルなモビリティ社会の実現、「Ecology(エコロジー)」は持続可能なタイヤとソリューションの普及といったように、各コミットメントが具体的な事業目標と直結している。

このコミットメントを組織に浸透させ、価値創造を増幅させる仕組みが「ブリヂストン グループアワード」だ。2024年にはグローバルで8件の優れた取り組みが表彰された。例えば、北米で投入されたEV専用タイヤ「Turanza EV」は「Energy」と「Emotion」を、日本の「究極の円さ」を実現するモノづくりの進化は「Efficiency」を体現する事例として共有され、従業員の誇りとやりがいに繋がっている。E8コミットメントは、12万人を超えるグローバル従業員のベクトルを合わせ、日々の業務と社会価値創造を結びつける強力なフレームワークとして機能しているのだ。

ESG経営の現在地(環境)ー カーボン、サーキュラー、ネイチャーへの三重奏

E8コミットメントを軸としたESG経営は、特に環境(Environment)の領域で具体的な成果として現れ始めている。

カーボンニュートラルへの道程: ブリヂストンは、2050年までに事業活動におけるCO2排出量をカーボンニュートラルにするという長期目標を掲げている。その中間目標として、2030年までにScope1,2のCO2排出量を2011年比で50%削減することを目指してきた。驚くべきは、その進捗の速さだ。2023年にはすでに57%削減を達成し、2024年にはさらに62%まで削減率を高め、目標を大幅に前倒しで達成している。

この背景には、徹底した省エネ活動と、再生可能エネルギーへの大胆なシフトがある。2023年時点で、購入電力に占める再生可能エネルギー比率は69%に達し、2024年には75%へとさらに向上した。これは、グローバル各拠点での太陽光発電設備の導入を着実に進めた成果だ。

さらに重要なのは、自社の排出量削減(Scope1,2)に留まらず、バリューチェーン全体でのCO2削減貢献(Scope3)にも目を向けている点だ。製品の軽量化や転がり抵抗の低減、Webfleetなどのモビリティソリューションによる運行ルート最適化などを通じて、自社の排出量の2.9倍にあたるCO2削減に貢献している。これは、製品やサービスのライフサイクル全体で環境負荷を低減するという、ソリューションカンパニーならではのアプローチである。

サーキュラーエコノミーの挑戦: 「タイヤを『創って売る』から『使う』、そして『戻す』へ」。この循環型ビジネスモデルへの転換は、ブリヂストンのサステナビリティ戦略の核心だ。その目標は、2050年までに製品に使用する素材を100%サステナブルマテリアル化すること。2030年には、その中間目標として再生資源・再生可能資源比率40%を掲げている。

この野心的な目標に対し、2023年時点で39.6%、2024年には39.9%を達成しており、目標達成は目前だ。この進捗を支えるのが、リトレッド(タイヤのトレッド部分を貼り替えて再利用する技術)事業の強化と、ケミカルリサイクル技術への挑戦である。特に、使用済みタイヤを熱分解して化学原料に戻す「EVERTIRE INITIATIVE」は、タイヤの水平リサイクルを実現する画期的な取り組みとして注目される。2025年1月からは東海カーボンなどとの共同プロジェクトも開始し、2027年中のパイロットプラント稼働を目指している。

ネイチャーポジティブへの貢献: タイヤの主原料である天然ゴムは、自然資本への依存度が極めて高い。それゆえに、ブリヂストンはサプライチェーンにおける環境・人権リスクの管理を最重要課題の一つと位置づけている。そのコミットメントは、2024年3月末時点でTier1の天然ゴムサプライヤーの94%がEcoVadisのESGリスクアセスメントを受審済みであるという事実に表れている。

さらに、同社はサプライチェーンの末端にいる小規模農家への直接的な支援にも力を注ぐ。生産性向上や環境に配慮した農法に関する研修を提供し、彼らの生計向上と森林破壊の抑制を両立させることを目指している。2023年には5,640人の農家を支援し、2026年までにその数を12,000軒に拡大する計画だ。2024年にはWWFと連携し、インドネシアの農家への技術研修を開始するなど、具体的なアクションを加速させている。これは、自社の事業基盤を持続可能なものにすると同時に、地域社会の発展に貢献する、まさに「最高の品質で社会に貢献」を体現する活動と言えるだろう。

ESG経営の現在地(社会)ー 安全と共生をすべてのステークホルダーへ

ブリヂストンの社会(Social)への貢献は、「タイヤは生命を乗せている」という大原則に根差している。

安全への絶対的なコミットメント: 企業の社会的責任として、交通安全への貢献は最優先事項だ。2023年に設立された「ブリヂストン交通安全プログラム(BRSP)」は、その取り組みをグローバルで体系化し、加速させるためのものだ。2024年には、世界28の国・地域で91件の交通安全活動を実施し、16万人以上の地域住民に参加を促した。日本では、自転車シミュレータを使った小学校への出張授業、米国では若者向け安全運転啓発活動「Teens Drive Smart」など、各地域のニーズに合わせた活動を展開している。これらの地道な活動は、2024年の「Prince Michael International Road Safety Award」受賞という形で国際的にも評価された。

人権尊重と地域社会との共生: グローバル企業として、サプライチェーン全体における人権尊重も重要な責務だ。2022年に「グローバル人権方針」を改訂し、2024年にはその実行ガイドラインを具体化するなど、人権デューディリジェンスのプロセスを継続的に強化している。

また、事業拠点を持つ地域社会との共生も重視している。2024年には、37の国・地域で1,403件の社会貢献活動を実施。特筆すべきは、これらの活動に35,570人もの従業員ボランティアが参加している点だ。インパクト評価では、参加した従業員の85%以上が、会社への帰属意識やウェルビーイングに前向きな変化があったと回答しており、社会貢献活動が従業員エンゲージメントの向上にも繋がる好循環を生み出している。

第3部 人的資本経営 ー「人的創造性」の解放

「良い品質の製品は、良い体質の会社から生まれる」。デミング・プランが掲げるこの哲学は、ブリヂストンの人的資本経営の根幹をなす思想だ。「第三の創業」を成し遂げ、サステナブルなソリューションカンパニーへと変革を遂げるためには、従業員一人ひとりの能力と創造性を最大限に引き出す「良い体質の会社」を創り上げることが不可欠である。

独自の羅針盤「人的創造性KPI」

ブリヂストンは、この「良い体質」を可視化し、経営の軸に据えるために、2023年から独自の経営指標「人的創造性KPI」を導入した。その算出式は「調整後営業利益 ÷ 人財投資(労務費、教育訓練費、福利厚生費の和)」という非常にユニークなものだ。

これは、人財を単なるコストではなく、付加価値を生み出す「資本」と捉える明確な意思表示である。人財への投資を増やし、従業員のエンゲージメントと能力を高めることで、生み出される付加価値(調整後営業利益)が増大し、その果実がさらなる人財投資へと繋がる。この「価値創造の好循環」をグローバルで回していくことこそが、人的創造性KPIの狙いだ。

2023年の実績は110レベル(2019年=74レベル)であり、24MBP期間中の平均目標を125レベルに設定。この目標達成に向け、従業員一人当たりの投資額アップや報酬アップを着実に進めている。例えば、日本では一人当たりの人財投資額を2024年の104から2025年には107へと引き上げる計画だ

グローバルで「挑戦」する人材を育む仕組み

150を超える国や地域で事業を展開し、約12万人の従業員を抱えるブリヂストンにとって、グローバルで通用するリーダーの育成は最重要課題だ。その中核を担うのが、次世代グローバル経営メンバー育成プログラム「Bridgestone NEXT100」である。このプログラムでは、毎年グローバルで約100名を選抜し、各地域の経営トップとの対話や海外ビジネススクールでの研修などを通じて、多様な視点を持つリーダーを重点的に育成している。

また、「現物現場」を重んじるブリヂストンらしいユニークな取り組みが「現場100日チャレンジプログラム」だ。2023年に日本で始まったこのプログラムでは、自ら手を挙げた従業員が国内外の現場に入り込み、100日間かけて自ら設定した課題の解決に取り組む。2024年にはアジア・大洋州地域へも拡大し、累計24名が挑戦。こうした経験は、座学では得られないリアルな課題解決能力と、ブリヂストンDNAの一つである「挑戦」の精神を育む。

理念の浸透にも余念がない。創業の地である久留米工場を訪問し、創業者の想いやDNAを体感する研修プログラムには、海外人材を含む累計2,200名超が参加している。グローバル企業でありながら、自社のルーツを大切にし、それを共有しようとする姿勢が、組織としての一体感を醸成している。

DE&Iの推進ー多様性が生み出すイノベーション

イノベーションの源泉は多様性にある。ブリヂストンは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を経営の基盤と位置づけ、具体的な目標を掲げて推進している。

ガバナンスの領域では、その成果が明確に現れている。取締役会における女性比率は25%、独立社外取締役比率は50%に達しており、多様な視点からの監督機能が確保されている。また、2025年1月からの新グローバル経営執行体制では、技術バックグラウンドを持つメンバー3名と外国籍の執行役員2名を任命し、技術・イノベーションとグローバルな視点を重視する姿勢を鮮明にした。

一方で、従業員階層におけるDE&Iにはまだ課題も残る。2023年末時点でのグローバル全体の女性管理職(マネジメントポジション)比率は17.9%、特に日本では7.6%に留まっている。米国では26.6%と比較的高い水準にあるものの、地域間の格差は大きい。30%以上という目標達成に向けては、継続的な育成と登用の仕組みづくりが不可欠だ。

ブリヂストンは、こうした課題にも正面から向き合い、デジタル人材育成プログラム「デジタル100日研修」などを通じて、性別や国籍に関わらず全ての従業員が新たなスキルを習得し、活躍できる機会を提供している。2024年末時点で、グローバルでのデジタル人材は約1,750名に達し、DXを推進する上で不可欠な人的基盤が着実に構築されている。多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できる「良い体質の会社」を創り上げることこそが、人的創造性を解放し、持続的な成長を実現する唯一の道であると、ブリヂストンは確信している。

第4部 未来への挑戦 ー「ソリューションカンパニー」の真価

「第三の創業」が目指す「サステナブルなソリューションカンパニー」への変革は、もはや構想段階ではない。ブリヂストンは、その強固な「リアル」の基盤に「デジタル」を掛け合わせ、具体的な事業として未来を創造し始めている。その挑戦は、タイヤのライフサイクル全体を捉え直し、「使う」価値を最大化し、「戻す」仕組みを構築する壮大な試みだ。

「使う」の進化ー「リアル×デジタル」で顧客価値を増幅する

ブリヂストンのソリューション事業の中核は、タイヤを「使う」段階での顧客の困りごとを解決し、価値を最大化することにある。その強力な武器が「リアル×デジタル」の融合だ。

その最前線が、鉱山や航空といったBtoB領域のソリューションである。鉱山では、高耐久性を誇る断トツ商品「Bridgestone MASTERCORE」という「リアル」の強みに、AIを活用したタイヤ摩耗・耐久予測アルゴリズムという「デジタル」を組み合わせる。これにより、タイヤ交換の最適なタイミングを予測し、鉱山オペレーションのダウンタイムを劇的に削減する。2023年7月にはチリの鉱山で新サービスの提供を開始し、2025年からはコマツとの共創も始まるなど、その展開は加速している。

航空ソリューションも同様だ。JALグループとの共創では、航空機のフライトデータとブリヂストンのタイヤデータを連携させ、タイヤ摩耗予測技術を進化させてきた。2024年には、その対象を大型機へと拡大し、より精度の高い計画的なタイヤ交換オペレーションを実現。航空会社の生産性向上とCO2排出量削減に貢献している。

トラック・バス向けのフリートソリューションも大きな柱だ。2019年に買収した欧州のWebfleet Solutionsと、2021年に買収した北米のAzugaが持つデジタルプラットフォームが、ブリヂストンの強固なサービスネットワークと融合。「ブリヂストン・フリートケア」プログラムとして、タイヤ管理から運行管理までを包括的にサポートする。2024年末時点で、欧州と北米を合わせた契約台数は約1.3億台に達しており、モビリティ社会を支えるインフラとして確固たる地位を築きつつある。

技術革新のフロンティアー「究極のカスタマイズ」から宇宙へ

ソリューションカンパニーへの変革を技術面で支える両輪が、「ENLITEN」と「BCMA」である。

「ENLITEN」は、タイヤの基本性能を飛躍的に向上させながら、環境性能と生産性を両立させる商品設計基盤技術だ。軽量化による資源生産性向上と、転がり抵抗低減による燃費・電費向上を同時に実現する。特にEV(電気自動車)時代において、航続距離の伸長や静粛性の向上といったニーズに応える切り札となる技術だ。欧州向け製品では転がり抵抗を20%以上向上させ、北米向け製品では耐摩耗性を50%向上させるなど、市場ごとのニーズに合わせた「究極のカスタマイズ」を可能にしている。新車装着も急速に拡大しており、2023年の75万台から、2026年には150万台への拡大を目指す。

一方、「BCMA(Bridgestone Commonality Modularity Architecture)」は、モノづくりにおける革命だ。タイヤ開発・生産の工程をモジュール化し、共通化することで、開発期間の短縮と生産コストの大幅な削減を実現する。このBCMAと、匠の技(リアル)とデジタルを融合させた「シン・彦根モデル」を組み合わせることで、高品質な製品を効率的に生産する体制をグローバルで構築している。

ブリヂストンの挑戦は、地球上のモビリティに留まらない。「探索事業」として、未来の社会課題を解決する新たなビジネスの種を蒔き続けている。 その筆頭が、パンクしない次世代タイヤ「AirFree」だ。空気充填が不要なためメンテナンス性が高く、リサイクルしやすい素材で作られている。2025年1月からは滋賀県東近江市で地方自治体との共創を開始し、グリーン・スロー・モビリティへの展開を通じて社会実装を目指している。

さらに、ゴム人工筋肉の技術を応用したソフトロボットハンド「TETOTE」は、人手不足に悩む製造業や物流業界の課題解決に貢献する可能性を秘めている。2024年には社内ベンチャー「Bridgestone Softrobotics Ventures」も設立され、事業化が本格化している。

そして、最も夢のある挑戦が、月面探査車用タイヤの開発だ。-170℃から120℃という極限の温度変化や過酷な宇宙放射線に耐えうるタイヤの開発は、「極限への挑戦」で培ってきた技術の集大成と言える。2024年11月には宇宙開発企業アストロロボティクス社との協業契約を締結。ブリヂストンのタイヤを装着した探査車が月面を走る目標は、創立100周年にあたる2031年以降だ。地域社会の足元から、人類の活動領域である宇宙まで。ブリヂストンの「社会貢献」の舞台は、無限の広がりを見せている。

終章 レジリエントな「エクセレント」ブリヂストンへ

「第三の創業」という壮大な旅路は、輝かしい未来だけを約束するものではない。その道程には、厳しい現実と乗り越えるべき課題が横たわっている。ブリヂストン自身、2025年を「緊急危機対策年」と位置づけ、強い危機感を持って経営の舵取りを行っている。

地政学リスクの高まりは、グローバルに広がるサプライチェーンを脅かし、原材料価格の高騰を招いている。特に、米国で検討されている新たな関税は、2025年末までに調整後営業利益ベースで約450億円もの影響を及ぼす可能性があると試算されている。これに対し、ブリヂストンは米国での現地生産率を高めるなどレジリエントな供給網の構築を急いでいるが、予断を許さない状況だ。

事業構造の改革も待ったなしの課題だ。業績が厳しい欧州事業については、2024年下期から「欧州事業の形を変える」再構築に着手。生産、販売、本社機能に至るまで、聖域なき見直しを進めている。北米や中国においても、工場の閉鎖や生産能力の最適化といった痛みを伴う改革を実行し、よりリーンで強靭なビジネス基盤の構築を目指している。

しかし、こうした厳しい現実の中にあっても、ブリヂストンの視線は未来を見据えている。彼らが拠り所とするのは、創業以来のDNAに刻まれた「変化をチャンスへ」という精神だ。市場構造の変化や新たな規制は、脅威であると同時に、新たなプレミアムを創造し、ソリューション事業を加速させる好機でもある。Firestoneブランドのリバイタライゼーションや、ENLITEN技術搭載新商品の投入加速は、まさに「変化をチャンスへ」変えるための具体的なアクションだ。

創業から90余年。ゴムの巨人は今、自らのアイデンティティを問い直し、未来に向けて大きく生まれ変わろうとしている。その根幹にあるのは、決して揺らぐことのない「最高の品質で社会に貢献」という使命感だ。E8コミットメントを羅針盤に、サステナビリティを経営の軸に据え、人的創造性を解放することで、社会課題を解決するソリューションを創造していく。

2031年の創立100周年は、一つの通過点に過ぎない。その先にある「サステナブルなソリューションカンパニー」という姿は、まだ鮮明には見えないかもしれない。しかし、理念を軸に据え、しなやかに変化し続ける限り、その旅は必ずや未来へと繋がっている。ブリヂストンの挑戦は、不確実な時代を生きるすべての企業にとって、重要な示唆を与えてくれるだろう。

出典(113件)
  1. 1931 年 ブリヂストン創業年(p.4)
  2. 1988 年 ファイアストン社買収によるグローバル化(p.5)
  3. 戻れていない 変化に対応できる「強い」ブリヂストンへ戻す(p.12)
  4. 最高の品質で社会に貢献 ブリヂストンの不変の使命(p.6)
  5. 2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会・顧客価値を継続的に提供している会社へ 2050年ビジョン:サステナブルなソリューションカンパニー(p.7)
  6. 121464 名 連結従業員数(2024年)(p.3)
  7. 最高の品質で社会に貢献 ブリヂストンの企業理念(p.4)
  8. 1968 年 社是制定年(p.5)
  9. 5 枚 企業理念系のパネル枚数(p.50)
  10. 1960 年代 デミング・プランは1960年代から推進(p.10)
  11. 良い品質の製品は、良い体質の会社から生まれる ブリヂストン独自のデミング・プランの基本思想(p.21)
  12. 重点管理を行う デミング・プランの5つの合言葉(p.21)
  13. 1968 年 デミング賞実施賞受賞年(p.4)
  14. 2010 年 グループ・グローバルTQM大会の開催年(p.33)
  15. 2000 件超 第13回大会への提出改善事例数(p.19)
  16. 2024 年3月 G-EXCOを2024年3月に開催(p.10)
  17. 1911 年 INDYの初参戦(p.5)
  18. 1995 年 INDYCAR SERIESへの復帰(p.5)
  19. 1963 年 日本グランプリ初参戦(p.5)
  20. 1981 年 ヨーロッパF2参戦(p.5)
  21. 1997 年 F1参戦によるブランド強化(p.5)
  22. 極限への挑戦 モータースポーツ活動の強化(p.9)
  23. 2026-2027 シーズン ABB FIA Formula E 世界選手権の単独タイヤサプライヤーに(p.28)
  24. 2022 年 企業コミットメント「Bridgestone E8 Commitment」を制定(p.6)
  25. Bridgestone E8 Commitment ブリヂストンの価値創造の軸(p.6)
  26. 8 つ E8コミットメントの要素数(p.33)
  27. カーボンニュートラルなモビリティ社会の実現 E8コミットメント:Energy(p.3)
  28. 持続可能なタイヤとソリューションの普及を通じ、より良い地球環境を未来世代に引き継ぐ E8コミットメント:Ecology(p.3)
  29. 8 件 ブリヂストン グループアワード受賞事例数(p.34)
  30. Energy ENLITEN技術搭載タイヤ(p.34)
  31. Emotion モータースポーツ活動(p.34)
  32. Efficiency モノづくりの進化(p.34)
  33. 100 % カーボンニュートラル化(2050年)(p.11)
  34. 62 % CO2排出削減率(Scope1,2)2024年実績(p.38)
  35. 69 % 再生可能エネルギー(電力)比率実績(2023年)(p.39)
  36. 75 % 再生可能エネルギー(電力)比率実績(2024年)(p.39)
  37. 38 MW 太陽光発電導入量増加実績(2023-2024)(p.39)
  38. 2.9 倍 CO2排出削減(Scope3)2024年実績(p.38)
  39. 100 % サステナブルマテリアル化(2050年)(p.11)
  40. 40 % 再生資源・再生可能資源比率目標(2030年まで)(p.39)
  41. 39.6 % 再生資源・再生可能資源比率実績(2023年)(p.39)
  42. 40 %以上 循環ビジネスモデル強化 2030年目標(p.38)
  43. EVERTIRE INITIATIVE 資源循環イニシアチブ(p.32)
  44. 2025 年1月 使用済みタイヤ等からカーボンブラックを生成する共同プロジェクト開始(p.32)
  45. 2027 年中 使用済みタイヤの精密熱分解パイロット実証プラント建設開始(p.32)
  46. 94 % 2024年3月末時点でのTier1天然ゴムサプライヤーのESGリスクアセスメント受審目標(p.49)
  47. 5640 人 小規模農家への研修・技術支援者数(p.28)
  48. 12000 軒 2026年までに12,000軒の天然ゴム小規模農家を支援(p.55)
  49. 2024 年 小規模農家への技術研修支援(2024年実施予定)(p.28)
  50. タイヤは生命を乗せている Bridgestone E8 Commitment(p.6)
  51. 2023 年 ブリヂストン交通安全プログラム(BRSP)設立(p.42)
  52. 168537 人 2024年の交通安全活動参加者数(p.43)
  53. 99 % 地域社会に根差した交通安全活動(日本)の受講者に対するアセスメント結果(p.43)
  54. 71 人 Teens Drive Smartプログラムの10代ドライバー受講者数(p.43)
  55. 2024 年 国際的な交通安全賞受賞(p.42)
  56. 2022 年 グローバル人権方針改訂(p.41)
  57. 2024 年 グローバル人権方針実行ガイドライン改訂(p.42)
  58. 1403 件 社会貢献活動件数(p.42)
  59. 35570 人 従業員ボランティア参加者数(p.42)
  60. 85 %以上 従業員インパクト評価ポジティブ回答率(p.42)
  61. 2023 年 人的創造性KPI導入年(p.18)
  62. 110 レベル 人的創造性KPI実績値(2023年)(p.20)
  63. 74 レベル 人的創造性KPI実績値(2019年)(p.20)
  64. 125 レベル 人的創造性KPI平均値(24MBP)(p.20)
  65. 1 人当たり投資額アップ 従業員向けKPI(人的資本)(p.10)
  66. 104 人以上 日本・1人当たり人財投資(2024年104→2025年107)(p.35)
  67. 150 を超える 国や地域で事業を展開(2024年末時点)(p.11)
  68. 100 名 次世代グローバル経営メンバー育成プログラムの参加者数(p.18)
  69. 2023 年 現場100日チャレンジプログラム開始年(p.20)
  70. 24 名 現場100日チャレンジプログラム参加者数(日本)(p.18)
  71. 挑戦 ブリヂストンのDNA「挑戦」(p.8)
  72. 2200 名 久留米工場での創業地研修プログラム参加者数(p.18)
  73. DE&I 基盤:DE&I(p.8)
  74. 25 % 女性取締役比率(p.46)
  75. 50 % 独立社外取締役比率(p.46)
  76. 2 名 外国籍の執行役員2名(p.8)
  77. 17.9 % 合計マネジメントポジションの女性比率(2023年12月末)(p.57)
  78. 7.6 % 日本におけるマネジメントポジションの女性比率(2023年12月末)(p.57)
  79. 26.6 % 米国におけるマネジメントポジションの女性比率(2023年12月末)(p.57)
  80. 30 %以上 女性管理職比率の目標(p.54)
  81. 1400 名 デジタル人材育成プログラム参加者数(p.19)
  82. 150 名増 デジタル人材育成プログラム参加者数の増加数(p.19)
  83. 「リアル×デジタル」を軸に推進 「リアル×デジタル」を軸に推進(p.20)
  84. 2024 年 Bridgestone MASTERCORE拡販(2024年)(p.31)
  85. 7 月 鉱山ソリューション拡充開始(2023年7月)(p.31)
  86. 2025 年 鉱山ソリューション拡充開始(2025年)(p.31)
  87. 2020 年5月 JALグループとの連携開始(2020年5月)(p.31)
  88. 2024 年 航空ソリューション拡充(2024年)(p.31)
  89. 2019 年 欧州リーディングデジタルフリートソリューションカンパニー「Webfleet Solutions社」買収(p.5)
  90. 2021 年 Otraco社買収(2021年)(p.31)
  91. 1.3 億台 ブリヂストン・フリートケアプログラム合計契約台数(p.32)
  92. 20 %以上 欧州市場向けENLITENの低転がり抵抗向上率(p.24)
  93. 50 % 北米向けENLITENの耐摩耗性向上率(p.24)
  94. 75 万台 ENLITEN新車装着台数(グローバル)2023年実績(p.24)
  95. 150 万台 ENLITEN新車装着台数(グローバル)2026年目標(p.24)
  96. BCMA BCMAによる価値創造(p.23)
  97. シン・彦根モデル 「シン・彦根モデル」の日本工場からグローバルへ展開・波及(p.23)
  98. 70 探索事業(p.2)
  99. AirFree 次世代タイヤ「AirFree」(p.10)
  100. 2025 年1月 AirFree次世代タイヤ pilot project 開始年(p.43)
  101. TETOTE ソフトロボットハンド「TETOTE」を開発(p.44)
  102. 2024 年 ソフトロボティクス事業の社内ベンチャー設立(p.44)
  103. 2024 年11月 月面探査車用タイヤ開発の共同活動開始(p.44)
  104. 2031 年以降 月面探査車での活動開始目標(p.44)
  105. 緊急危機対策年 2025年を「緊急危機対策年」と位置付け(p.8)
  106. 450 億円 米国関税によるタイヤ事業への影響額(2025年末予測)(p.15)
  107. 6 割 乗用車用タイヤ(PS)の現地生産率(p.15)
  108. 第2ステージ 事業再編・再構築(第2ステージ)を推進(p.8)
  109. 1 月 北米事業ラバーン工場閉鎖月(p.21)
  110. 変化をチャンスへ 事業環境の変化への対応(p.9)
  111. Firestoneリバイタライゼーション Firestoneリバイタライゼーション(p.20)
  112. ENLITEN技術搭載新商品の投入を加速 ENLITEN技術搭載新商品の投入を加速(p.29)
  113. 100 周年 ブリヂストン創立100周年(p.20)
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