静かなる危機「水リスク」が経営アジェンダになる日
かつて「豊かな水に恵まれた国」とされてきた日本において、水が経営における最重要資源、そして重大なリスク要因として認識される時代が到来した。気候変動による豪雨や渇水の頻発、グローバルなサプライチェーンにおける水不足、そしてTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に代表される情報開示要求の高まりは、企業に対し、水との向き合い方を根本から見直すことを迫っている。
水は、石油や鉱物資源のように代替が存在しない。あらゆる産業の根幹を支える「見えざる資本」であり、その利用と管理の巧拙は、もはや企業の持続可能性、ひいては競争力そのものを左右する。単なるコスト削減やコンプライアンス遵守といった従来の環境活動の枠を超え、水資源をいかに戦略的にマネジメントするかという「水経営」の視点が不可欠となっている。
本稿では、日本を代表する15社のESGデータを横断的に分析し、各社がこの静かなる危機にどう立ち向かっているのかを明らかにする。サントリー、LIXIL、日立製作所、ファーストリテイリングといった多様な業種の企業データを読み解くことで、業界全体のトレンド、先進企業の戦略、そして日本企業が抱える共通の課題を浮き彫りにする。これは単なる数値の羅列ではない。データという客観的な根拠に基づき、各社の戦略的意思決定の背景と、その帰結を探る試みである。水というレンズを通して、日本企業のESG経営の現在地と未来への展望を論じたい。
データが示す3つの潮流──原単位目標の主流化と責任範囲の拡大
15社のデータを俯瞰すると、日本企業の水資源管理におけるいくつかの共通した潮流が見えてくる。それは、効率性を追求する「原単位管理」の浸透、自社拠点を超えて責任範囲を広げる試み、そしてグローバルな水リスクへの対応強化である。
「原単位削減」がデファクトスタンダードに
多くの企業が、事業活動の効率性を示す「原単位」を水管理の主要なKPI(重要業績評価指標)として設定している。これは、売上高や生産量といった事業の成長と水使用量の増加を切り離す「デカップリング」を目指す動きの表れだ。
例えば、飲料大手のサントリーは、2030年までに自社工場の水使用量原単位をグローバルで35%削減する目標を掲げている[1]。すでに2024年時点で2015年比30%の削減を達成しており[2]、着実な進捗を見せている。総合電機メーカーの日立製作所も、2027年度までに水使用量原単位を2019年度比で8%改善する目標を立て[3]、2023年度には2010年度比で30%の改善を達成し、目標を前倒しでクリアする勢いだ[4]。
製造業においてもこの傾向は顕著だ。日本特殊陶業は「エコビジョン2030」の中で、水使用量原単位を2018年度の水準以下に維持することを目標としており[5]、2024年度には2018年度比で27.7%の削減を達成している[6]。また、オムロンはさらに野心的な目標を達成した企業の一つで、2024年度にグローバル全生産拠点で水使用量を2015年度比20%削減する目標に対し[7]、2023年度時点で実に48%もの削減を実現している[8]。
一方で、ニコンのように淡水消費量の総量を目標とするアプローチもある。同社は2030年度までに2018年度比で5%の削減を目指しており[9]、2024年度実績ではすでに6.4%の削減を達成している[10]。原単位管理は事業規模の変動に影響されにくいメリットがあるが、総量削減は地域全体の水需給への直接的な貢献を示すことができる。どちらのアプローチが優れているというわけではなく、企業の事業特性や水リスクの状況に応じて最適なKPIが選択されている。
サプライチェーンと製品ライフサイクル──責任範囲の拡大
先進企業は、自社の工場やオフィス(Scope1, 2)だけでなく、サプライチェーン上流や製品使用段階(Scope3)における水使用量にも目を向け始めている。
この動きを最も象徴しているのが、アパレル業界のファーストリテイリングだ。同社の水使用量の大部分は、自社ではなく素材工場や縫製工場で発生する。そのため、水消費量上位80%を占める主要工場を対象に、2025年末までに単位当たり水使用量を2020年比で10%削減する目標を掲げている[11]。2023年末時点で、対象工場の51%が目標を達成しており[12]、サプライヤーとの協働の難しさと着実な進捗の両面を示唆している。同社のサプライチェーンにおける水使用量は4,464.8万m³[13]に達しており、この領域へのコミットメントは極めて重要だ。
消費財メーカーの花王は、さらに一歩進んだ「製品ライフサイクル」という視点を導入している。同社が算出する製品ライフサイクル全体の水使用量は、2025年度で29億6,800万m³[14]という膨大な量に上る。これは、自社グループの事業活動における水使用量1,630万m³[15]とは桁が違う。差分のほとんどは、消費者がシャンプーや洗剤を使用する段階での水消費であり、自社の直接的な管理範囲外だ。この数値をあえて開示することは、節水型製品の開発や消費者への啓発活動を通じて、社会全体の水負荷削減に貢献するという強い意志の表れと言える。
水ストレス地域へのフォーカス──グローバル経営の新たな要諦
グローバルに事業を展開する企業にとって、全ての地域で画一的な水管理を行うことは非効率かつ不十分である。水リスクは極めて地域性の高い問題であり、水が豊富にある地域と逼迫している地域とでは、取るべき対策が全く異なるからだ。
この点を明確に認識し、戦略に落とし込んでいるのがキリンホールディングスだ。同社は、水ストレスが高い製造拠点における水使用原単位に特化した目標を設定。2025年目標として2.4L/L未満を掲げている[16]。2024年度の実績は3.1 kl/kl[17]であり、目標達成に向けた継続的な努力が求められる。
同様に、日立製作所は、自社のESGマネジメントシステムを用いて水リスク評価を行い、リスクが「High」と判定されたインド、エジプトなどの8事業所を特定。これらの事業所の水使用量は合計で40万m³であり、主要製造工程全体の約4%を占めることを把握している[18][19]。リスクの高い領域を特定し、リソースを集中投下するアプローチは、効率的なリスク管理の好例と言える。
ブリヂストンも、水ストレス地域にある対象17生産拠点全てで「ウォータースチュワードシッププラン」の策定を完了[20]。これらの地域における総取水量は2024年度で234.1万m³[21]に上り、前年比で5.4%の削減を達成している[22]。地域ごとの具体的な計画策定と実行が、着実な成果につながっている。
先駆者たちの戦略──CDP Aリスト企業に学ぶ水経営の実践
CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の「水セキュリティ」分野で最高評価である「Aリスト」に選定される企業は、水経営のフロントランナーと見なされている。今回分析した企業の中では、サントリー[23]、キリンホールディングス[24]、明治ホールディングス[25]、花王[26]、ブリヂストン[27]、オムロン[28]が該当する。彼らの取り組みからは、単なるリスク管理に留まらない、価値創造へと繋がる水戦略が見て取れる。
サントリー──「水と生きる」を貫く統合的アプローチ
サントリーにとって、水は事業の根幹をなす最も重要な経営資源だ。その理念は「水と生きる」というコーポレートメッセージに凝縮されている。同社の水経営は、自社工場の効率化(Use Less)と、水源涵養活動(Replenish)という両輪で成り立っているのが特徴だ。
データを見ると、工場での効率化は着実に進んでいる。2030年までにグローバルで水使用原単位を35%削減する目標[29]に対し、2024年時点で30%削減を達成[30]。具体的な数値として、グループ全体の水消費量は1,427.5万m³[31]、排水量は2,289.8万m³[32]となっている。この排水の内訳も詳細に開示されており、下水道へ788.4万m³[33]、河川・湖沼へ1,356.5万m³[34]、海へ135.4万m³[35]と、環境への影響を透明性高く示している。
しかし、サントリーの真骨頂は、事業活動の範囲を超えた水源涵養活動にある。ファクトデータには直接的な数値はないものの、彼らの活動は「ウォーター・ポジティブ」の概念を先取りするものであり、取水量以上の水を涵養することを目指している。CDPから最高評価を得ている背景には、こうした事業と一体化した包括的な水保全活動があることは間違いない。
LIXIL──製品を通じて社会の水課題解決に挑むビジネスモデル
LIXILのアプローチは、他の製造業とは一線を画す。同社は、自社の製造プロセスにおける水使用量削減だけでなく、製品・サービスを通じて社会全体の水使用量削減に貢献することを経営の核に据えている。その象徴が、「2025年までに年間20億m³の水使用量削減に貢献する」という壮大な目標だ[36]。
この目標達成の鍵を握るのが、イノベーションだ。例えば、同社が開発した「GROHE Everstreamシャワーシステム」は、通常のシャワーと比較して水使用量を75%も削減できるという[37]。こうした技術革新は、環境貢献と事業成長を両立させる好循環を生み出す。同社のウォーターテクノロジー事業は、売上収益8049億円[38]、事業利益369億円[39]を誇る中核事業であり、この分野への研究開発投資は164億円[40]に上る。ESGと事業戦略が完全に統合された、まさに「水経営」の理想形の一つと言えるだろう。CDP評価がA -評価[41]であることも、その先進的な取り組みが外部から高く評価されている証左だ。
花王──29億m³のインパクト、ライフサイクル視点の課題と可能性
前述の通り、花王は「製品ライフサイクル」という広範なスコープで水使用量を捉えている。その総量は29億6,800万m³[14]に達し、他社を圧倒する。この数値は、花王の製品が社会に与える水インパクトの大きさを物語っており、同時に同社が担う社会的責任の重さを示している。
興味深いのは、原単位の推移だ。2024年度の製品ライフサイクル全体の水使用量原単位(売上高)削減率は、2017年比で12%[42]となっている。しかし、別のデータでは、同原単位削減率が-3%[43]という数値も存在する。集計方法や基準年の違いによるものと考えられるが、この広大なスコープでの管理・改善がいかに複雑で挑戦的であるかを示唆している。
自社グループの水使用量1,630万m³[44]と、ライフサイクル全体の水使用量の差を埋める鍵は、やはり製品開発にある。「すすぎ1回」で済む洗剤や、より少ない水で洗い流せるシャンプーなど、消費者の節水行動を促すイノベーションこそが、花王の「水経営」を次のステージへと引き上げる原動力となるだろう。3年連続でCDPの3分野(気候変動・フォレスト・水セキュリティ)でAリスト入り[26]を果たしている事実は、こうした複雑な課題に真摯に取り組む姿勢が評価されていることを示している。
業種別 水リスクと戦略の多様性
水との関わり方は業種によって大きく異なる。ハイテク産業、アパレル、医薬品など、それぞれの事業モデルが持つ特有の水リスクと、それに対応する戦略を見ていこう。
ハイテク産業の生命線──東京エレクトロンとニコンの精密な水管理
半導体や精密機器の製造プロセスでは、不純物を一切含まない「超純水」が大量に必要とされる。水は製品の品質を左右する生命線であり、その管理は極めて重要だ。
半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンは、まさにこの分野の当事者だ。同社の2025年度の水使用量は158.7万m³[45]で、その多くが製造・開発プロセスで消費される。同社の強みは、自社の効率化に留まらず、顧客である半導体メーカーの水使用量を削減する技術を開発している点にある。新製品の枚葉式洗浄装置「Ulucus™ LX」は、従来工程と比較して純水使用量を90%以上削減できるという[46]。これは、LIXILと同様に、自社の技術力で顧客や社会の水課題解決に貢献するアプローチであり、大きな付加価値を生んでいる。
一方、光学機器メーカーのニコンは、グループ全体での着実な総量削減を進めている。2024年度の淡水消費量は175.6万m³[47]で、基準年である2018年度の187.7万m³[48]から6.4%の削減を達成[49]。これは、2024年度目標の2%削減[50]を大きく上回る成果だ。また、国内と海外のデータを分けて開示しており、例えば2022年度の純淡水消費量は国内で655m³[51]、海外で1,083m³[52]となっている。単位が「m³」と非常に小さい点には注意が必要だが、グローバルな水使用状況を詳細に把握しようとする姿勢がうかがえる。(※編集注:m³と千m³の単位が混在しており、データ解釈には慎重を期す必要がある)
グローバル・サプライチェーンの挑戦──ファーストリテイリング
アパレル産業は、綿花栽培から染色、加工に至るまで、サプライチェーン全体で大量の水を消費する「水集約型産業」である。ファーストリテイリングの取り組みは、この業界が抱える構造的な課題への挑戦そのものだ。
同社のサプライチェーンにおける水使用量は4,464.8万m³[13]と、今回分析した企業の中でも突出して大きい。このうち、ユニクロの素材工場だけで2,929万m³[53](2021年実績)、縫製工場で1,092万m³[54](2021年実績)を占める。自社拠点である本社の水使用量5.2万m³[55]と比較すると、リスクと責任の所在がどこにあるかは明らかだ。
主要工場での単位当たり水使用量10%削減目標[56]に対し、2023年末時点での達成工場割合が51%[12]という数字は、この取り組みの難易度の高さを物語る。数多くのサプライヤーを巻き込み、技術支援やモニタリングを行うには、多大なコストと労力が必要となる。しかし、これを避けてはアパレル企業のサステナビリティは語れない。同社の挑戦は、サプライチェーン全体のESG管理を目指す全ての企業にとって重要な示唆を与える。
医薬品と素材──アステラス製薬と日本特殊陶業の生産性向上策
医薬品業界もまた、製造プロセスで厳格な水質管理が求められる分野だ。アステラス製薬は、水資源の投入量を正確に把握し、その生産性向上に努めている。2024年度の水資源投入量は688.3万m³[57]で、その内訳は上水・工業用水が648.4万m³[58]、地下水が39.9万m³[59]となっている。
同社がユニークなのは、「水資源生産性」という指標を重視している点だ。これは、事業活動による付加価値を水使用量で割ったもので、水1単位あたりどれだけの経済的価値を生み出しているかを示す。2024年度には、この水資源生産性が基準年度(2016年度)比で86%も向上した[60]。これは、単に水の使用量を減らすだけでなく、より少ない水でより高い価値を生み出すという、経営の質的向上を目指す姿勢の表れであり、特筆に値する。
自動車部品などを手掛ける日本特殊陶業も、水使用量の効率化に注力している。2023年度の総水使用量は146万m³[61]。同社は水使用量原単位を2018年度比で30.5%減少させており[62]、生産プロセスの改善が進んでいることがわかる。製造業にとって、水使用量の削減は、コスト削減に直結するだけでなく、将来の水不足リスクへの備えともなる重要な経営課題である。
横断分析──数値の裏に潜む経営課題と戦略的意思決定
個社の分析に加え、企業を横断してデータを比較することで、新たな示唆が浮かび上がる。ただし、集計範囲(連結/単体、国内/海外)や単位(m³、千m³、万m³)が企業ごとに異なるため、数値の直接比較には細心の注意が必要だ。
水使用量の絶対値比較から見える事業規模と環境負荷
各社の開示する水使用量(取水量)の絶対値を並べてみると、事業モデルによる水インパクトの違いが明確になる。
- ファーストリテイリング(サプライチェーン): 4,464.8万m³[13]
- 明治ホールディングス(グローバル): 1,885.4万m³[63]
- 花王(自社グループ): 1,630万m³[15]
- 日立製作所(グループ): 983万m³[64]
- アステラス製薬(グローバル): 688.3万m³[57]
- ニコン(淡水消費量): 175.6万m³[47]
- ニトリホールディングス(グループ): 163.1万m³[65]
- 東京エレクトロン(グローバル): 158.7万m³[45]
- 日本特殊陶業(グローバル): 154万m³[66]
- オムロン(グローバル生産拠点): 100万m³[67]
ファーストリテイリングの数値が突出しているのは、前述の通りサプライチェーン全体を対象としているためだ。自社拠点のみを対象とする他社とは比較の土俵が異なる。明治や花王といった食品・消費財メーカーは、製品に水を含む、あるいは洗浄工程で多くの水を使用するため、絶対量が多くなる傾向がある。一方で、日立のような巨大企業でも、事業ポートフォリオの転換(自動車部品子会社の非連結化など)により、水使用量は大きく変動する[68]。このリストは、企業の優劣を示すものではなく、各社が向き合うべき水インパクトの規模感と、その管理範囲をどこまで設定しているかという戦略の違いを映し出している。
目標設定の野心度と達成状況──コミットメントの差
目標設定のあり方と、その達成状況は、企業の水経営への本気度を測るリトマス試験紙となる。
- 目標を大幅超過達成: オムロンは2015年度比20%削減目標に対し、実績48%削減[8]。ニコンも2024年度目標2%削減に対し、実績6.4%削減[49]を達成している。これは、当初の想定を上回る改善努力があったことを示唆する。
- 着実に目標へ邁進: サントリーは35%削減目標に対し、実績30%[2]。日立も8%改善目標に対し、既に大幅な改善を達成している[69]。これらの企業は、現実的かつ挑戦的な目標を設定し、計画的に実行していることがうかがえる。
- 挑戦的な目標と現実: ファーストリテイリングのサプライヤー工場における目標達成率51%[12]は、管理の難しさを示しているが、同時に、高い目標を掲げてサプライヤーを牽引しようとするリーダーシップの表れとも言える。
目標の野心度と達成状況を合わせて見ることで、各社の戦略、実行能力、そして課題がより立体的に見えてくる。
情報開示の濃淡が示すもの──ESG評価と企業価値
CDP Aリスト企業(サントリー、キリン、明治、花王など)と、そうでない企業とでは、開示されているデータの粒度と網羅性に明確な差が見られる。Aリスト企業は、水使用量や排水量の総量だけでなく、水源別(上水、工業用水、地下水など)の内訳、排水先の内訳、水ストレス地域に特化したデータなど、より詳細な情報を開示する傾向がある。
例えば、アステラス製薬は、日本、米国、中国、その他エスタブリッシュドマーケットといった地域別の上水・工業用水使用量を開示している[70][71][72]。こうした透明性の高い情報開示は、投資家やステークホルダーからの信頼を獲得し、ESG評価を高める上で不可欠だ。データ開示は、単なる報告義務ではなく、自社の水リスク管理能力を外部にアピールする戦略的なコミュニケーションツールなのである。
一方で、イオンのように、事業活動における直接的な水使用量データではなく、ユニセフへの寄付活動[73]といった社会貢献活動を中心とした開示を行う企業もある。これは、小売業としての事業特性を反映したものであり、顧客を巻き込んだ形での水問題への貢献を目指すアプローチと言える。
TNFD時代を見据えて──日本企業が次に越えるべきハードル
今回の分析から、日本企業の多くが水資源管理の重要性を認識し、具体的な目標を掲げて取り組みを進めていることが明らかになった。しかし、TNFDのフレームワークが本格的に導入される今後、企業に求められるレベルはさらに高まる。
「リスク管理」から「価値創造」へ
これまでの水経営は、主に水不足や水質汚染といった「リスク」への対応が中心だった。しかし、LIXILや東京エレクトロンの事例が示すように、水課題の解決をビジネスチャンスと捉え、「価値創造」に繋げる動きが加速している。自社の技術やサービスを用いて、顧客や社会全体の水効率を改善する。こうした発想の転換こそが、これからの水経営の鍵となるだろう。
今後求められる3つの視点
最後に、日本企業がTNFD時代を乗り越え、真の「水経営」を確立するために不可欠な3つの視点を提言したい。
- 循環性(Circularity)の追求: 取水と排水というリニアなモデルから脱却し、工場内での水のカスケード利用や再生水利用を徹底することで、取水量を限りなくゼロに近づける「クローズドループ」を目指す視点。
- 流域アプローチ(Catchment-based Approach): 自社の敷地内だけでなく、工場が立地する「流域」全体の健全性に貢献する視点。サントリーのような水源涵養活動に加え、地域の生態系保全や他の水利用者との協働が求められる。
- 真のニュートラリティ(True Neutrality)の実現: 自社の事業活動による水環境への負荷を、質・量ともに完全に相殺し、自然の状態に影響を与えない「ウォーター・ニュートラリティ」を目指す長期的なビジョン。
水は、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)の中でも特に危機的な状況にある要素の一つだ。企業がこの見えざる資本といかに向き合うか。その問いへの答えは、データの中に、そしてそのデータを読み解く我々の洞察の中にある。日本企業の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
▶出典(73件)
- 自社工場の水使用量原単位削減目標(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.21)
- 工場水使用量原単位削減実績(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.84)
- 水使用量原単位改善率(HITACHI Integrated Report 2025, p.32)
- 2023年度の水使用量原単位改善率(日立 サステナビリティレポート 2024, p.79)
- エコビジョン2030における水使用量原単位目標(日本特殊陶業 統合報告書 2025, p.74)
- 2024年度の水使用量原単位の2018年度比削減率(日本特殊陶業 統合報告書 2025, p.74)
- グローバル全生産拠点での水使用量削減目標(OMRON Integrated Report 2024, p.64)
- グローバル全生産拠点での水使用量削減実績(OMRON Integrated Report 2024, p.64)
- 淡水消費量削減目標(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.48)
- 淡水消費量削減実績(2018年度比)(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.49)
- 水使用量削減目標(FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2023, p.65)
- 水使用量削減目標達成工場割合(FAST RETAILING Integrated Report 2024, p.80)
- 水使用量 (取水量) サプライチェーン(FAST RETAILING Integrated Report 2024, p.80)
- 製品ライフサイクル全体の水使用量(花王 統合レポート 2025, p.70)
- 水使用量(花王 統合レポート 2025, p.23)
- 水ストレスが高い製造拠点における用水使用原単位 2025年目標(キリングループ 統合レポート, p.10)
- 水ストレスが高い製造拠点における水使用原単位(キリングループ 統合レポート, p.44)
- 地域の水リスクが高い8事業所の水使用量(日立 サステナビリティレポート 2024, p.84)
- 地域の水リスクが高い事業所の水使用量比率(日立 サステナビリティレポート 2024, p.84)
- ウォータースチュワードシップシッププラン策定 2023年実績(p.38)
- 水ストレス地域における総取水量(2024年度実績)(p.52)
- 水使用量の前年比削減実績(p.40)
- CDP水セキュリティで最高評価「Aリスト企業」に選定(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.278)
- CDP水セキュリティ評価(KIRIN 統合レポート2023, p.78)
- CDP水セキュリティスコア(2023年度実績)(明治ホールディングス株式会社 Integrated Report 2024, p.16)
- CDP Aリスト連続取得年数(気候変動・フォレスト・水セキュリティ)(花王 統合レポート 2023, p.11)
- CDP水セキュリティスコア(p.47)
- CDP水セキュリティ評価(OMRON 統合レポート 2023, p.134)
- 自社工場の水使用量の原単位をグローバルで35%削減する目標(Sustainability at Suntory, p.5)
- 自社工場での生産における水使用量の原単位を2015年比で30%削減(2024年進捗)(Sustainability at Suntory, p.5)
- 水消費量(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.293)
- 排水量(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.293)
- 排水量(放流先別)下水道(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.294)
- 排水量(放流先別)河川・湖沼(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.294)
- 排水量(放流先別)海(サントリーグループ サステナビリティサイト, p.294)
- 2025年までの年間水使用量削減目標(LIXIL 統合報告書 2025, p.40)
- GROHE Everstreamシャワーシステムによる水使用量削減率(LIXIL 統合報告書 2025, p.40)
- ウォーターテクノロジー事業の売上収益(LIXIL 統合報告書 2025, p.71)
- ウォーターテクノロジー事業の事業利益(LIXIL 統合報告書 2025, p.71)
- ウォーターテクノロジー事業の研究開発費(LIXIL 統合報告書 2025, p.71)
- CDP水セキュリティ評価(2024年度)(LIXIL 統合報告書 2025, p.19)
- 製品ライフサイクル全体の水使用量原単位削減率(2017年比)(花王 統合レポート 2025, p.70)
- 水使用量原単位(売上高)削減率(2017年比)(花王 統合レポート 2025, p.70)
- グループ全体の水使用量(花王 統合レポート 2025, p.23)
- 自然資本:水使用量(p.23)
- 新製品「Ulucus™ LX」の純水使用量削減(ir2025_all, p.52)
- 淡水消費量実績(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.49)
- 淡水消費量目標(2018年度)(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.49)
- 2024年度淡水消費量削減実績(2018年度比)(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.74)
- 2024年度淡水消費量削減目標(2018年度比)(Nikon サステナビリティ 報告書 2025, p.74)
- 国内ニコングループの純淡水消費量(2022年度)(Nikon SUSTAINABILITY REPORT 2023, p.175)
- 海外製造子会社の純淡水消費量(2022年度)(Nikon SUSTAINABILITY REPORT 2023, p.175)
- ユニクロ素材工場の水使用量(FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022, p.59)
- ユニクロ・ジーユー縫製工場の水使用量(FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022, p.59)
- 本社の水使用量(FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022, p.80)
- 各工場の単位当たり水使用量削減目標(FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022, p.77)
- 2024年度の水資源投入量(astellas 統合報告書 2025, p.74)
- 上水・工業用水使用量(astellas 統合報告書 2025, p.108)
- 地下水使用量(astellas 統合報告書 2025, p.108)
- 水資源生産性の基準年度からの向上率(astellas 統合報告書 2025, p.74)
- 2023年度総水使用量(日本特殊陶業 統合報告書 2024, p.51)
- 2023年度水使用量原単位(日本特殊陶業 統合報告書 2024, p.51)
- 2024年度 明治グループのグローバル水使用量(明治ホールディングス株式会社 Integrated Report 2025 統合報告書, p.91)
- 2024年度の日立グループ水使用量(HITACHI Integrated Report 2025, p.46)
- 水使用量グループ合計(NITORI HOLDINGS 統合報告書 2025, p.38)
- 水資源投入量(日本特殊陶業 統合報告書 2025, p.16)
- 水資源取水量(OMRON Integrated Report 2024, p.12)
- 2023年度の日立グループ全体の水使用量(日立 サステナビリティレポート 2024, p.79)
- 水使用量原単位改善率 (FY2010比)(日立 統合報告書 2024, p.24)
- 日本の上水・工業用水使用量(astellas 統合報告書 2025, p.108)
- 米国の上水・工業用水使用量(astellas 統合報告書 2025, p.108)
- チャイナの上水・工業用水使用量(astellas 統合報告書 2025, p.108)
- イオン ユニセフ セーフウォーターキャンペーン募金総額(AEON REPORT 2025, p.127)
使用データ一覧
| コンテキスト | 年度 | 値 | 出典 |
|---|---|---|---|
自社工場の水使用量原単位削減目標 | 2025年 | 35 % | サントリーグループ サステナビリティサイト p.21 |
工場水使用量原単位削減実績 | 2025年 | 30 % | サントリーグループ サステナビリティサイト p.84 |
水使用量原単位改善率 | 2025年 | 8 % | HITACHI Integrated Report 2025 p.32 |
2023年度の水使用量原単位改善率 | 2024年 | 30 % | 日立 サステナビリティレポート 2024 p.79 |
エコビジョン2030における水使用量原単位目標 | 2025年 | 2018 年度水準以下 | 日本特殊陶業 統合報告書 2025 p.74 |
2024年度の水使用量原単位の2018年度比削減率 | 2025年 | 27.7 %削減 | 日本特殊陶業 統合報告書 2025 p.74 |
グローバル全生産拠点での水使用量削減目標 | 2024年 | 20 % | OMRON Integrated Report 2024 p.64 |
グローバル全生産拠点での水使用量削減実績 | 2024年 | 48 % | OMRON Integrated Report 2024 p.64 |
淡水消費量削減目標 | 2025年 | 5 %削減 | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.48 |
淡水消費量削減実績(2018年度比) | 2025年 | 6.4 %削減 | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.49 |
水使用量削減目標 | 2023年 | 10 % | FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2023 p.65 |
水使用量削減目標達成工場割合 | 2024年 | 51.0 % | FAST RETAILING Integrated Report 2024 p.80 |
水使用量 (取水量) サプライチェーン | 2024年 | 4464.8 万m³ | FAST RETAILING Integrated Report 2024 p.80 |
製品ライフサイクル全体の水使用量 | 2025年 | 2968 百万m³ | 花王 統合レポート 2025 p.70 |
水使用量 | 2025年 | 16.3 百万m³ | 花王 統合レポート 2025 p.23 |
水ストレスが高い製造拠点における用水使用原単位 2025年目標 | 2025年 | 2.4 L/L | キリングループ 統合レポート p.10 |
水ストレスが高い製造拠点における水使用原単位 | 2025年 | 3.1 kl/kl | キリングループ 統合レポート p.44 |
地域の水リスクが高い8事業所の水使用量 | 2024年 | 0.4 百万m³ | 日立 サステナビリティレポート 2024 p.84 |
地域の水リスクが高い事業所の水使用量比率 | 2024年 | 4 % | 日立 サステナビリティレポート 2024 p.84 |
ウォータースチュワードシップシッププラン策定 2023年実績 | 2025年 | 100 % | - |
水ストレス地域における総取水量(2024年度実績) | 2025年 | 2341 千m³ | - |
水使用量の前年比削減実績 | 2025年 | 5.4 %減少 | - |
CDP水セキュリティで最高評価「Aリスト企業」に選定 | 2025年 | 選定 | サントリーグループ サステナビリティサイト p.278 |
CDP水セキュリティ評価 | 2023年 | Aリスト 評価 | KIRIN 統合レポート2023 p.78 |
CDP水セキュリティスコア(2023年度実績) | 2024年 | A ランク | 明治ホールディングス株式会社 Integrated Report 2024 p.16 |
CDP Aリスト連続取得年数(気候変動・フォレスト・水セキュリティ) | 2023年 | 3 年連続 | 花王 統合レポート 2023 p.11 |
CDP水セキュリティスコア | 2024年 | A | - |
CDP水セキュリティ評価 | 2023年 | A | OMRON 統合レポート 2023 p.134 |
自社工場の水使用量の原単位をグローバルで35%削減する目標 | 2025年 | 35 %削減 | Sustainability at Suntory p.5 |
自社工場での生産における水使用量の原単位を2015年比で30%削減(2024年進捗) | 2025年 | 30 %削減 | Sustainability at Suntory p.5 |
水消費量 | 2025年 | 14275 千m³ | サントリーグループ サステナビリティサイト p.293 |
排水量 | 2025年 | 22898 千m³ | サントリーグループ サステナビリティサイト p.293 |
排水量(放流先別)下水道 | 2025年 | 7884 千m³ | サントリーグループ サステナビリティサイト p.294 |
排水量(放流先別)河川・湖沼 | 2025年 | 13565 千m³ | サントリーグループ サステナビリティサイト p.294 |
排水量(放流先別)海 | 2025年 | 1354 千m³ | サントリーグループ サステナビリティサイト p.294 |
2025年までの年間水使用量削減目標 | 2025年 | 20 億㎥ | LIXIL 統合報告書 2025 p.40 |
GROHE Everstreamシャワーシステムによる水使用量削減率 | 2025年 | 75 % | LIXIL 統合報告書 2025 p.40 |
ウォーターテクノロジー事業の売上収益 | 2025年 | 8049 億円 | LIXIL 統合報告書 2025 p.71 |
ウォーターテクノロジー事業の事業利益 | 2025年 | 369 億円 | LIXIL 統合報告書 2025 p.71 |
ウォーターテクノロジー事業の研究開発費 | 2025年 | 164 億円 | LIXIL 統合報告書 2025 p.71 |
CDP水セキュリティ評価(2024年度) | 2025年 | A -評価 | LIXIL 統合報告書 2025 p.19 |
製品ライフサイクル全体の水使用量原単位削減率(2017年比) | 2025年 | 12 %削減 | 花王 統合レポート 2025 p.70 |
水使用量原単位(売上高)削減率(2017年比) | 2025年 | -3 % | 花王 統合レポート 2025 p.70 |
グループ全体の水使用量 | 2025年 | 16.3 百万m³ | 花王 統合レポート 2025 p.23 |
自然資本:水使用量 | 2025年 | 1587 千m³ | - |
新製品「Ulucus™ LX」の純水使用量削減 | 2025年 | 90 %以上削減 | ir2025_all p.52 |
淡水消費量実績 | 2025年 | 1756 千m³ | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.49 |
淡水消費量目標(2018年度) | 2025年 | 1877 千m³ | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.49 |
2024年度淡水消費量削減実績(2018年度比) | 2025年 | 6.4 %削減 | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.74 |
2024年度淡水消費量削減目標(2018年度比) | 2025年 | 2 %以上削減 | Nikon サステナビリティ 報告書 2025 p.74 |
国内ニコングループの純淡水消費量(2022年度) | 2023年 | 655 1,000 m³ | Nikon SUSTAINABILITY REPORT 2023 p.175 |
海外製造子会社の純淡水消費量(2022年度) | 2023年 | 1083 1,000 m³ | Nikon SUSTAINABILITY REPORT 2023 p.175 |
ユニクロ素材工場の水使用量 | 2022年 | 2929 万m³ | FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022 p.59 |
ユニクロ・ジーユー縫製工場の水使用量 | 2022年 | 1092 万m³ | FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022 p.59 |
本社の水使用量 | 2022年 | 5.2 万m³ | FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022 p.80 |
各工場の単位当たり水使用量削減目標 | 2022年 | 10 % | FAST RETAILING INTEGRATED REPORT 2022 p.77 |
2024年度の水資源投入量 | 2025年 | 6883 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.74 |
上水・工業用水使用量 | 2025年 | 6484 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.108 |
地下水使用量 | 2025年 | 399 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.108 |
水資源生産性の基準年度からの向上率 | 2025年 | 86 % | astellas 統合報告書 2025 p.74 |
2023年度総水使用量 | 2024年 | 146 万m³ | 日本特殊陶業 統合報告書 2024 p.51 |
2023年度水使用量原単位 | 2024年 | 3.75 m³/百万円 | 日本特殊陶業 統合報告書 2024 p.51 |
2024年度 明治グループのグローバル水使用量 | 2025年 | 18854 千m³ | 明治ホールディングス株式会社 Integrated Report 2025 統合報告書 p.91 |
2024年度の日立グループ水使用量 | 2025年 | 9.83 Mm3 | HITACHI Integrated Report 2025 p.46 |
水使用量グループ合計 | 2025年 | 1631306 m³ | NITORI HOLDINGS 統合報告書 2025 p.38 |
水資源投入量 | 2025年 | 1540000 m³ | 日本特殊陶業 統合報告書 2025 p.16 |
水資源取水量 | 2024年 | 1000000 m³ | OMRON Integrated Report 2024 p.12 |
2023年度の日立グループ全体の水使用量 | 2024年 | 10.92 百万m³ | 日立 サステナビリティレポート 2024 p.79 |
水使用量原単位改善率 (FY2010比) | 2024年 | 30 % | 日立 統合報告書 2024 p.24 |
日本の上水・工業用水使用量 | 2025年 | 6286 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.108 |
米国の上水・工業用水使用量 | 2025年 | 68 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.108 |
チャイナの上水・工業用水使用量 | 2025年 | 18 千m³ | astellas 統合報告書 2025 p.108 |
イオン ユニセフ セーフウォーターキャンペーン募金総額 | 2025年 | 47158744 円 | AEON REPORT 2025 p.127 |
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