MVV Insights Logo
アサヒ、PETリサイクル率37%で示す「グローカル価値創造」の真価

コーポレートビジョン

Make the world shine

総合分析
2023〜2025年度

アサヒ、PETリサイクル率37%で示す「グローカル価値創造」の真価

アサヒグループホールディングスの2023年から2025年にかけてのESG・人的資本経営を分析。PETリサイクル率37%達成、経営層女性比率24%、2040年ネットゼロ目標など、「グローカルな価値創造企業」への変革を数字で読み解く。

アサヒグループホールディングス株式会社

2026年1月21日

Key Metrics at a Glance

2024年度 PETボトルにおけるリサイクル・バイオ素材使用率
ESG指標
37%
2024年度
Scope 1,2におけるCO2排出量削減目標
ESG指標
50%
2025年度
-28.6%
2024年度 経営層における女性比率
人的資本
24%
2024年度
GHG排出量ネットゼロ目標の前倒し
ESG指標
2040年度
2025年度
購入電力の再生可能エネルギー化目標
ESG指標
100%
2025年度

主要発見 ー 3つのインサイトから読むアサヒの現在地

アサヒグループホールディングスの2023年から2025年にかけての歩みは、単なる飲料メーカーから「グローカルな価値創造企業」へと変貌を遂げる強い意志を物語っている。統合報告書に示された数々のKPIは、同社が掲げる理念「Asahi Group Philosophy (AGP)」をいかに事業活動に落とし込んでいるかを雄弁に語る。本稿では、財務、人的資本、ESGの3つの側面から、数字が示す同社の戦略的進捗と今後の課題を読み解く。

1. ESG目標の前倒し達成が示す「有言実行」の経営 特筆すべきは、環境目標に対する卓越した実行力である。2024年度のPETボトルにおけるリサイクル・バイオ素材使用率は37%に達し1、2025年の目標値30%2を1年前倒しで大幅にクリアした。これは、サステナビリティを単なる努力目標ではなく、達成すべき経営課題として捉えている証左だ。CO2排出量削減においても、2024年時点で2019年比35%削減3を達成し、2025年目標の40%削減4に向けて着実に歩を進めている。これらの実績は、2040年のネットゼロ達成5という野心的な目標にリアリティを与えている。

2. 経営層のダイバーシティが牽引するグローバル戦略 アサヒの人的資本戦略は、特に経営層の多様性において顕著な成果を上げている。経営層における女性比率は、2023年の21%6から2024年には24%7へと着実に向上した。これは、形式的なダイバーシティ推進ではなく、意思決定層そのものを変革しようとする強い意志の表れである。グローバルな事業展開を加速させる中で、多様な視点を持つ経営陣は、複雑化する市場環境への適応力とイノベーション創出の源泉となるだろう。

3. 「プレミアム戦略」とサステナビリティの統合 アサヒの事業戦略の核は「高付加価値ブランドを核として成長する」ことにある8。この「高付加価値」とは、単に品質や味だけでなく、環境負荷の低減や社会への貢献といったサステナビリティ価値を含むものへと進化している。例えば、「Asahi Super Dry」のグローバル展開9において、その製造プロセスにおける環境配慮はブランド価値を構成する重要な要素となる。ESGへの投資をコストではなく、ブランド価値を高めるための戦略的投資と位置づけることで、事業成長と社会貢献の好循環を生み出している。


理念の進化 ー 「Cheer the Future」から「Make the world shine」へ

アサヒグループの企業活動の根幹には、揺るぎない理念体系「Asahi Group Philosophy (AGP)」が存在する2。AGPは、ミッション(存在価値)、ビジョン(ありたい姿)、バリュー(価値観)、プリンシプル(行動指針)で構成され、全ての戦略的意思決定の羅針盤となっている。

AGPが示す、普遍的な存在価値

AGPの中核をなすミッション「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」10と、ビジョン「高付加価値ブランドを核として成長する“グローカルな価値創造企業”を目指す」8は、この3年間で一貫して掲げられてきた。これは、同社の事業領域と目指す方向性が明確に定義され、社内外に共有されていることを示している。この普遍的な軸があるからこそ、環境変化に応じた戦略の柔軟な見直しが可能となる。

コーポレートステートメントに込めたグローバルへの意志

一方で、同社の社会へのメッセージは進化を遂げている。2023年のコーポレートステートメント「Cheer the Future」11から、2024年には「Make the world shine “おいしさと楽しさ”で、世界に輝きを」12へと刷新された。この変更は、国内市場に留まらないグローバル企業としてのアイデンティティをより鮮明にするものだ。「応援する」という姿勢から、「自らが世界を輝かせる主体となる」という、より能動的でスケールの大きな意志表示へと変化している。これは、グローバル市場でのプレゼンスを高め、世界中のステークホルダーに共感を呼ぶための戦略的なコミュニケーションの進化と言えるだろう。


事業戦略と理念の接続 ー 「グローカル」を体現するプレミアム化

アサヒの事業戦略は、AGPで掲げられたビジョン「グローカルな価値創造企業」8を具現化するための具体的なアクションプランとして設計されている。その核心は、グローバルでの「プレミアム戦略」と、それを支えるサステナビリティ経営の統合にある。

「高付加価値」を再定義するサステナビリティ

CEOが掲げる「プレミアム化を軸とする戦略」13は、単なる高価格帯商品の拡販を意味しない。今日の消費者は、製品そのものの品質に加え、その製品がどのように作られ、社会や環境にどのような影響を与えるかを重視する。アサヒは、SBTネットゼロ認定の取得14や、購入電力の100%再生可能エネルギー化目標2といった具体的な環境施策を通じて、ブランドの「付加価値」を再定義している。これらの取り組みは、環境意識の高い消費者の支持を獲得し、プレミアムブランドとしての地位を確固たるものにする上で不可欠な要素となっている。

財務基盤と成長投資の好循環

グループCFOは「キャッシュ創出力、財務基盤、そして成長投資の成果による持続的成長」15を目指す方針を掲げている。プレミアム戦略によって確保された高い収益性が、ESGや人的資本への積極的な投資を可能にし、その投資がさらにブランド価値を高めて収益性を向上させる、という好循環の構築を目指している。Scope3排出量が全体の9割を占める16という課題認識のもと、バリューチェーン全体でのサステナビリティ推進に投資を振り向けることは、長期的なリスク低減と企業価値向上に直結する戦略的な財務判断と言える。


人的資本経営の現在地 ー 女性経営層24%が拓く未来

アサヒの成長戦略を支えるもう一つの柱が、人的資本への投資だ。特にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、グローバル企業としての競争力を高める上で極めて重要な役割を担っている。

意思決定層の多様化がもたらす変革

経営層における女性比率が2023年の21%6から2024年には24%7へと向上した事実は、同社のD&Iへの本気度を物語る。経営の意思決定に多様な視点が加わることは、画一的な思考に陥ることを防ぎ、複雑なグローバル市場での的確な判断を可能にする。この成果は、単なる数値目標の達成に留まらず、組織全体のイノベーション文化を醸成し、企業価値向上に直接的に貢献するだろう。

グローバル人材の育成と活躍機会の創出

アサヒは「Learning, growing, achieving TOGETHER」というピープルステートメント17を掲げ、社員一人ひとりの成長を組織の成長に繋げる仕組みづくりを進めている。グローバルな人材交流を促進し、各地域本社(RHQ)で蓄積されたノウハウを横展開する施策18や、専門人材の活躍機会を拡大するAGPROの設立19は、その具体例だ。これらの取り組みは、「グローカルな価値創造企業」というビジョンを実現するための人材基盤を強化し、持続的な成長を確実なものにする。


ブランドアクションの実践 ー 「プラネットポジティブ」が導く事業活動

アサヒの理念や戦略は、具体的なブランドアクションを通じて社会に価値を提供している。その根底にあるのが、「アサヒグループ環境ビジョン2050」で掲げる「プラネットポジティブ」というありたい姿だ20。これは、事業活動による環境負荷をゼロにするだけでなく、地球環境に対してポジティブな価値を創出することを目指す野心的な目標である。

SBTネットゼロ認定と2040年目標

同社は、科学的根拠に基づく温室効果ガス排出削減目標(SBT)のネットゼロ認定を取得しており14、そのコミットメントは国際的な評価を得ている。さらに、当初の目標を前倒しし、2040年度までにGHG排出量ネットゼロを達成する目標を掲げた5。この高い目標設定は、気候変動問題を経営の最重要課題の一つと位置づけ、業界をリードしようとする強い意志の表れである。

バリューチェーン全体で実現するサステナビリティ

アサヒの取り組みは自社工場内に留まらない。「バリューチェーン全体で人々のサステナブルな生活を実現する」21という方針のもと、原料調達から製品の消費・廃棄に至るまで、サプライチェーン全体での環境・社会課題の解決を目指している。PETボトルのリサイクル素材使用率の目標前倒し達成12は、まさにその成果の一端である。これらの活動は、ブランドへの信頼を高め、消費者に選ばれる理由を創出している。


経年変化の読み解き ー 2023年から2025年への軌跡

アサヒグループの主要な非財務指標は、この数年で着実な進歩を遂げている。特にESGと人的資本領域での変化は、同社の戦略的重点がどこにあるかを明確に示している。

主要非財務指標の推移

指標2023年2024年2025年目標変化分析
CO2排出量削減率 (Scope1,2, 2019年比)32%削減2235%削減340%削減4順調に進捗ネットゼロ目標達成に向けた着実な実行力を示している。
PETボトル リサイクル・バイオ素材使用率25%2337%130%2目標を前倒し達成サーキュラーエコノミーへの移行を加速させる強い意志と技術力がうかがえる。
経営層における女性比率21%624%7-着実に向上意思決定層の多様性確保が経営戦略の重要項目であることを示している。

結論 ー 理念を数字で証明する「グローカル価値創造企業」への道

アサヒグループホールディングスは、「Asahi Group Philosophy」という明確な理念を羅針盤に、サステナビリティと事業成長を両立させる「グローカルな価値創造企業」への変革を着実に進めている。

強み:目標達成への強いコミットメントと実行力

最大の強みは、掲げた目標、特にESG領域における目標を確実に、時には前倒しで達成する実行力にある。PETリサイクル素材使用率37%1という数字は、その象徴だ。この「有言実行」の姿勢は、投資家や消費者からの信頼を獲得し、無形の企業価値を高める上で極めて重要である。また、経営層の女性比率24%7という成果は、同社の変革がトップレベルから推進されていることを示している。

課題:バリューチェーン全体の変革という壮大な挑戦

一方で、課題も存在する。グループ全体のCO2排出量の9割をScope3が占める16という事実は、サプライヤーや消費者をも巻き込んだバリューチェーン全体での変革が不可欠であることを意味する。これは自社の努力だけでは完結しない壮大な挑戦であり、今後、より一層のステークホルダー・エンゲージメントが求められるだろう。

今後の注目ポイント:非財務価値の経済価値への転換

今後の注目点は、これらの非財務領域での進捗を、いかに持続的な経済的価値に転換していくかである。具体的には、Scope3排出量の削減に向けた具体的な道筋と実績、グローバルに育成した人材がもたらすイノベーションの成果、そしてサステナビリティを組み込んだプレミアム戦略がグローバル市場でどこまで通用するのか。これらの成果が数字として表れた時、アサヒの「グローカルな価値創造」は真に完成すると言えるだろう。

出典

  1. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.5, 「Our Mission」
  2. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.20, 「アサヒグループの価値創造プロセス」
  3. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.20, 「AGP・コーポレートステートメントの実現」
  4. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.21, 「アサヒグループの培った強み・経営基盤」
  5. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.5, 「Our Values」
  6. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.5, 「Our Vision」
  7. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.10, 「Message from the Group CEO」
  8. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.5, 「Asahi Group Philosophy」
  9. Asahi Group Integrated Report (2025年度), p.22, 「中長期経営方針のコンセプト」
  10. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023 (2025年度), p.53, 「再生可能エネルギーの活用(Scope1,2)」
  11. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.11, 「Message from Our Group CEO」
  12. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.13, 「Message from Our Group CEO」
  13. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.5, 「03 アサヒグループの目指す姿」
  14. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.17, 「新グループコーポレートロゴの策定」
  15. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.23, 「歴史からひも解くアサヒグループの実行力」
  16. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.21, 「価値創造の全体像」
  17. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.4, 「Key Figures」
  18. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.9, 「Message from Our Group CEO」
  19. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.22, 「アサヒグループの現在地と目指す姿」
  20. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.19, 「AGPの実践を通じて企業価値を持続的に高める」
  21. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2024, p.24, 「グローバル企業基盤を束ね、次なる成長に挑む」
  22. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023, p.16, 「CEOメッセージ」
  23. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023, p.3, 「01 企業価値向上の源泉」
  24. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023, p.2, 「Our Mission」
  25. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023, p.2, 「Our Vision」
  26. ASAHI GROUP INTEGRATED REPORT 2023, p.17, 「CEOメッセージ」