Key Metrics at a Glance
ファッションテックから体験価値創造へ、事業領域の拡張が示す新たな成長戦略
ZOZOの近年の動向は、単なるファッションECプラットフォームからの脱皮と、顧客エンゲージメントを深化させる体験価値創造企業への戦略的シフトを鮮明に示している。2024年度には、業務効率化を目的としたAIツールを59件開発し1、同年5月には「ファッションジャンル診断サービス」2を開始するなど、コア事業である「MORE FASHION × FASHION TECH」3戦略を着実に推進した。これは、テクノロジーを駆使して「似合う」をパーソナライズし、顧客体験を向上させるという従来からの強みをさらに磨き上げる動きである。
しかし、2025年度の動きは、その戦略が新たな次元に入ったことを示唆する。マッチングアプリ「ZOZOマッチ」の提供開始4や、体験イベント「ZOZO横丁 SAPPORO」の開催5は、モノの売買を超えた「つながり」や「体験」の提供へと事業の重心を移そうとする明確な意思表示だ。これは、企業理念である「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」6の「笑顔」を、ファッションによる自己表現だけでなく、人と人との出会いやリアルな体験からも創出しようという、より広義な解釈に基づいている。この事業領域の拡張は、顧客のライフタイムバリューを高め、プラットフォームへのロイヤルティを強化する上で極めて重要な一手となるだろう。
CDP「Aリスト」獲得を支える、顧客体験と両立したCO2削減戦略
ZOZOは、サステナビリティ経営においても顕著な成果を上げている。特に、国際的な環境非営利団体CDPから気候変動分野で最高評価である「Aリスト」企業に選定されたこと7は、その取り組みが世界水準にあることを証明している。この評価の背景には、CO2排出構造の正確な把握と、それに対する戦略的な打ち手がある。
同社のCO2排出量を見ると、スコープ1+2の合計が750t-CO28であるのに対し、サプライチェーン全体を対象とするスコープ3は204,580t-CO28と、全体の99%以上を占める。中でも最大の排出源は「輸送、配送(上流)」であり、その排出量は80,514t-CO29に上る。この最大の課題に対し、ZOZOは2024年4月に「ゆっくり配送」を試験導入10し、同年8月には本格導入11に踏み切った。これは、配送リードタイムに余裕を持たせることで輸送の効率化を図り、CO2排出量を削減する施策である。重要なのは、これを単なるコスト削減や環境対策としてではなく、顧客に「サステナブルな選択肢」を提供するという付加価値として提示している点だ。ビジネスの根幹である物流プロセスに環境配慮を組み込み、それを顧客体験の向上につなげるアプローチは、サステナビリティと事業成長を両立させるモデルとして高く評価できる。
理念の核心:「カッコよく」と「笑顔」で駆動する事業エコシステム
ZOZOの全ての事業活動の根底には、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」というシンプルかつ強力な企業理念が存在する6。この理念は、単なるスローガンに留まらず、具体的な経営戦略やブランドアクションを方向づける羅針盤として機能している。
「世界中をカッコよく」という部分は、経営戦略「MORE FASHION × FASHION TECH ~ ワクワクできる『似合う』を届ける~」3に直結している。AIを活用したパーソナライズ提案や、多様な体型・ニーズに応える商品開発(例:車椅子ユーザー向けパンツ12)は、一人ひとりが自分らしい「カッコよさ」を見つけ、表現することを支援する取り組みだ。
一方、「世界中に笑顔を。」は、より広範な価値創造を示唆する。ファッションを通じて得られる喜びや自信はもちろんのこと、2025年度から始まった「ZOZOマッチ」4のようなサービスは、人とのつながりという新たな「笑顔」の源泉を提供する。また、サステナビリティステートメント「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」13に基づき、環境負荷を低減する「ゆっくり配送」11や、次世代への教育貢献である出前授業14といった活動は、社会全体の持続的な「笑顔」に貢献しようとする意思の表れである。ZOZOは、この2つの理念を両輪とすることで、単一のECプラットフォームを超えた、人々の生活を豊かにするエコシステムの構築を目指している。
AIツール59件開発が示す、テクノロジーによる「働きがい」の追求
ZOZOの強みであるテクノロジー活用は、顧客体験の向上のみならず、従業員の働きがい創出という人的資本経営の側面においても重要な役割を果たしている。2024年度に59件もの業務効率化AIツールが開発された1という事実は、その象徴である。これは、従業員が単純作業や反復業務から解放され、より創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境を、企業が主体的に構築していることを示している。
この動きは、ZOZOらしさを表す価値観の一つである「日々進歩」15を組織レベルで体現するものだ。最新テクノロジーを積極的に導入し、常に業務プロセスを改善し続ける文化が根付いていることがうかがえる。AIツールの内製化は、外部ソリューションに依存するよりも迅速かつ現場のニーズに即した改善を可能にし、従業員のエンゲージメントを高める効果も期待できる。
人的資本に関する開示データは限定的であるが、このAIツール開発件数という数字からは、テクノロジーをテコに従業員の生産性と創造性を最大化しようとする明確な戦略が読み取れる。従業員一人ひとりが「ゾウゾウのナナメウエ」15の発想で新たな価値創造に挑戦できる組織風土の醸成こそが、ZOZOの持続的な成長を支える人的資本の源泉となっているのだろう。
「ゆっくり配送」からインクルーシブな商品まで ー 理念を社会実装するブランドアクション
ZOZOのブランドアクションは、企業理念6とサステナビリティステートメント13を具体的な形で社会に実装する、強力なコミュニケーションツールとなっている。そのアプローチは、環境(Environment)と社会(Social)の両側面に及んでいる。
環境面では、前述の「ゆっくり配送」の本格導入11が代表例だ。これは、ファッション業界の大きな課題である物流の環境負荷に対し、プラットフォーマーとして顧客を巻き込みながら解決を目指す先進的な取り組みである。また、累計300校で実施されているキャリア教育・環境問題に関する出前授業14は、未来世代への環境意識の啓発という長期的な視点に立った社会貢献活動と言える。
社会面では、インクルーシブな視点が際立つ。2024年8月に販売を開始した車椅子ユーザー向けパンツ12は、「世界中をカッコよく」という理念が、これまでファッションの選択肢が限られていた人々にも向けられていることを明確に示した。これは、多様な身体的特徴を持つ全ての人がファッションを楽しめる社会を目指すという、企業の強い意志の表れである。これらのアクションは、単発のキャンペーンではなく、事業活動に深く根差したものであり、ZOZOが社会課題の解決を通じて企業価値を向上させようとする、成熟したESG経営の姿勢を物語っている。
経年変化の読み解き ー 2024年から2025年への軌跡
| 指標 | 2024年の主なアクション | 2025年の主なアクション | 変化 | 分析 |
|---|---|---|---|---|
| ブランドアクションの進化 | ・「ゆっくり配送」本格導入11<br>・AIツール59件開発1<br>・車椅子ユーザー向けパンツ販売12 | ・マッチングアプリ「ZOZOマッチ」提供開始4<br>・体験イベント「ZOZO横丁」開催5 | 事業領域の拡張 | 2024年は、テクノロジー活用によるコア事業の効率化・深化(AIツール開発)と、ESG課題への対応(ゆっくり配送、インクルーシブ商品)に注力し、事業基盤を強化した。これを土台に、2025年は「ZOZOマッチ」や「ZOZO横丁」といった、モノの売買を超えた体験価値やコミュニティ形成へと事業領域を明確に拡張している。これは、顧客との関係性を深め、ライフタイムバリューを向上させるための戦略的な進化であり、理念である「笑顔を。」の実現方法を多角化する動きと解釈できる。 |
総合評価:理念とテクノロジーが牽引する、体験価値創造企業への挑戦
強み:理念と事業の一貫性
ZOZOの最大の強みは、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」6という理念が、経営戦略から個別のブランドアクションに至るまで一貫して浸透している点にある。テクノロジーを駆使した「似合う」の追求、サステナビリティへの配慮、インクルーシブな商品開発、そして体験価値の創造といった全ての活動が、この理念の実現に向けられている。この一貫性が、従業員のエンゲージメントを高め、顧客からの強いブランドロイヤルティを醸成している。CDP「Aリスト」評価7に象徴される高いESGパフォーマンスも、この理念経営の賜物と言えるだろう。
課題:人的資本の情報開示と新事業の収益化
一方で、課題も存在する。本分析で利用可能なデータからは、従業員のエンゲージメントやダイバーシティに関する具体的な人的資本指標(女性管理職比率、賃金格差、離職率など)を深く読み解くことが困難であった。AIツール開発1といった取り組みから働きがい向上の意図はうかがえるものの、今後はより定量的なデータに基づいた人的資本経営の開示が、投資家や社会からの信頼をさらに高める上で重要となる。また、「ZOZOマッチ」4に代表される新規事業が、既存のファッション事業とどのようなシナジーを生み、いかにして収益の柱へと育てていくか、その事業モデルの確立は今後の大きな挑戦となる。
今後の注目ポイント
今後のZOZOを評価する上で注目すべきは、以下の3点である。第一に、ファッションECというコア事業の競争力を維持・強化しつつ、体験価値創造という新たな事業領域をいかに成長軌道に乗せるか。第二に、CO2排出量の大部分を占めるスコープ3、特に輸送・配送分野9における削減目標の達成に向けた、さらなる革新的な取り組み。そして最後に、従業員の多様性や働きがいを客観的に示す人的資本指標の目標設定と、その進捗の開示である。これらの課題を乗り越え、理念とテクノロジーを両輪として進化を続けることができれば、ZOZOはファッション業界の枠を超えた、唯一無二のライフスタイル創造企業としての地位を確立するだろう。
出典
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.12, 「重点取り組み③」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.36, 「サービス拡張」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.28, 「今後の拡大方針」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.7, 「一人あたりの購買頻度向上」, (2025年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.6, 「より幅広い層の取り込み」, (2025年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.5, 「CEOメッセージ」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.39, 「ステークホルダーへのメッセージ」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.53, 「環境」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.54, 「データ項目」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2023, p.224, 「ゆっくり配送の導入」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2023, p.224, 「ゆっくり配送の導入」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2023, p.191, 「ブランドの取り組み」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.17, 「サステナビリティステートメント」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.12, 「重点取り組み③」, (2024年度)
- ZOZO 統合報告 FY2024, p.17, 「ZOZOらしさ」, (2024年度)
使用データ一覧
| コンテキスト | 年度 | 値 | 出典 |
|---|---|---|---|
経営戦略 「今後の拡大方針」 | 2024年 | MORE FASHION × FASHION TECH ~ ワクワクできる『似合う』を届ける~ | ZOZO 統合報告 FY2024 p.28 |
企業理念 「CEOメッセージ」 | 2024年 | 世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.5 |
サステナビリティステートメント 「サステナビリティステートメント」 | 2024年 | ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.17 |
ZOZOらしさ 「ZOZOらしさ」 | 2024年 | ゾウゾウのナナメウエ / 日々進歩 / 愛 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.17 |
| コンテキスト | 年度 | 値 | 出典 |
|---|---|---|---|
業務効率化AIツール開発件数 「重点取り組み③」 | 2024年 | 59 件 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.12 |
ファッションジャンル診断サービス提供開始月 「サービス拡張」 | 2024年 | 5 月 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.36 |
マッチングアプリ「ZOZOマッチ」提供開始 「一人あたりの購買頻度向上」 | 2025年 | 提供開始 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.7 |
新たな体験イベント「ZOZO横丁 SAPPORO」開催 「より幅広い層の取り込み」 | 2025年 | N/A N/A | ZOZO 統合報告 FY2024 p.6 |
ゆっくり配送の試験導入 「ゆっくり配送の導入」 | 2024年 | 2024年4月 月 | ZOZO 統合報告 FY2023 p.224 |
ゆっくり配送の本格導入 「ゆっくり配送の導入」 | 2024年 | 2024年8月 月 | ZOZO 統合報告 FY2023 p.224 |
車椅子ユーザー向けパンツ販売開始月 「ブランドの取り組み」 | 2024年 | 8 月 | ZOZO 統合報告 FY2023 p.191 |
キャリア教育・環境問題出前授業実施校数(累計) 「重点取り組み③」 | 2024年 | 300 校 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.12 |
| コンテキスト | 年度 | 値 | 出典 |
|---|---|---|---|
CDP気候変動分野最高評価 「ステークホルダーへのメッセージ」 | 2024年 | Aリスト 評価 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.39 |
売上高あたりスコープ1+2+3 CO2排出原単位 「環境」 | 2024年 | 0.96 t-CO2/百万円 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.53 |
スコープ3 カテゴリ4: 輸送、配送 (上流) 「データ項目」 | 2024年 | 80514 t-CO2 | ZOZO 統合報告 FY2024 p.54 |
計 15 件のデータが記事内で参照されています