わたしたちの目的 Our Purpose
人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、 「人間の生命いのちの輝き」をめざす。
サントリーホールディングスは、売上収益3兆円を超える世界有数の食品酒類総合企業です 1。この目覚ましい成長は、巧みな市場戦略やM&Aだけによって成し遂げられたわけではありません。むしろ、1世紀以上にわたって受け継がれてきた独自の「企業理念」こそが、サントリーの持続的な価値創造と競争優位性の源泉となっているのです。
その核心には、創業者・鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」精神と「利益三分主義」があります。そして近年、グローバル化とサステナビリティへの意識の高まりを受け、「水と生きる」という思想が前面に打ち出されました 2。
2023年、サントリーグループは、ビジネスの多角化・グローバル化が進む中で、グループ全体で大切にする価値観を改めて明確にし、世界中の従業員と共有するため、企業理念体系を刷新しました 2。この刷新により、「水と生きる SUNTORY」がグループ全体の思いを象徴するコーポレートメッセージとして位置づけられました。これは、サントリーグループが事業を営む目的、すなわちパーパスである「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」こと、そしてそれを実現するための**価値観(バリュー)**である「Growing for Good」「やってみなはれ」「利益三分主義」を包括し、社会に示す言葉です 2。
この刷新は、過去の理念を否定するものではありません。むしろ、創業以来の精神を現代的な文脈で再定義し、グローバルな組織全体で共有・実践するための、戦略的な意思表示と捉えるべきでしょう。
本稿では、このサントリー独自の理念体系が、単なる美辞麗句ではなく、いかにして具体的な事業戦略、組織文化、ブランド価値、そして財務的成果1に結びついているのかを深く分析します。特に、「やってみなはれ」「利益三分主義」「水と生きる」という三つの要素が、それぞれどのように貢献しているのか、具体的な事例を交えながら解き明かしていきます。サントリーの事例は、理念主導型経営が現代の複雑なグローバル市場において、いかに強力な競争優位性を築き得るかを私たちに示唆してくれるでしょう。
サントリーの企業文化と戦略のまさに中心には、「やってみなはれ」というシンプルでありながら力強い言葉があります。これは単なるスローガンではなく、100年以上にわたり受け継がれてきた、挑戦と革新を奨励するDNAとも言えるでしょう。
創業者・鳥井信治郎氏が未知の分野への挑戦に際し、周囲の反対を押し切る際に発したとされるこの言葉は、「失敗を恐れることなく、新しい価値の創造をめざし、あきらめずに挑み続けること」を意味します3。ここで重要なのは、これが単なる無謀な挑戦を推奨するものではないという点です。強い信念と、やり遂げる覚悟(「みとくんなはれ」)4を伴うことが求められます。この精神こそが、サントリーが幾多の困難を乗り越え、新たな市場を創造し、持続的な成長を遂げてきた原動力なのです。
歴史を振り返れば、「やってみなはれ」精神が形になった事例は数多くあります。
この挑戦の精神は、現代においても受け継がれています。
「やってみなはれ」は、サントリーの組織文化にも深く根付いています。失敗を単なる損失ではなく学びの機会と捉え、挑戦を奨励する風土があります3。社内表彰制度「やってみなはれ大賞」8の存在はその象徴です。採用においても、この精神に共感し、自ら挑戦・創造できる人材が求められており9、従業員は自らのアイデアを提案し、実行する機会を与えられていると感じやすい環境があります。
リーダー層には、この挑戦の精神を守り、短期的な圧力から保護しながら、部下の挑戦を後押しする役割が期待されています4。そして、「やってみなはれ」が「みとくんなはれ」(やり遂げて見せるという決意)4と対になっている点が重要です。これにより、大胆な挑戦が奨励される一方で、無責任な行動は抑制され、目標達成に向けた粘り強さと責任感が求められるのです。この絶妙なバランスが、サントリーの持続的な革新を支えています。
サントリー経営哲学のもう一つの重要な柱が、「利益三分主義」です。これは、「事業活動で得た利益は、『事業への再投資』にとどまらず、『お得意先・お取引先へのサービス』や『社会への貢献』にも役立てていこう」という考え方です3。
創業者・鳥井信治郎氏の「事業の利益は社会からの預かりもの」という思想や、「陰徳あれば陽報あり」(人の見えないところで徳を積めば、いつかそれが自分に還ってくる)という信念に根ざしており10、単なる利益追求ではなく、社会との共生と相互発展を目指すサントリーの姿勢を示しています。
この哲学は、特に「社会への貢献」という第三の柱において、長年にわたる具体的な活動として実を結んでいます。
「利益三分主義」の第二の柱である「お客様・お取引先へのサービス」は、品質への徹底的なこだわり3や顧客視点3に基づく活動に現れています。高品質な商品を提供すること自体が顧客への価値還元であり、さらに「プレモルメンバーズ」のようなロイヤルティプログラム16やポイント制度17、顧客からのフィードバックを重視する姿勢18も、顧客との長期的な関係構築と価値還元を目指すものと言えるでしょう。
これらの「利益三分主義」に基づく多岐にわたる活動は、サントリーのブランドイメージと社会的信頼の構築に大きく貢献しています19。創業者の信念に根ざした活動の真正性と継続性は、単なる戦略的なCSR活動とは一線を画し、ステークホルダーからの深い共感と信頼を得る要因となっています。従業員にとっても、自社が社会貢献に積極的に取り組んでいることは、誇りと働きがいを感じる重要な要素であり、研修などを通じて理念に触れる機会も提供されています4。このように、「利益三分主義」は、財務的な利益だけでなく、社会的な価値と従業員のエンゲージメントをも同時に高める、サントリー独自の経営モデルの根幹を成しているのです。
サントリーグループの企業活動と理念体系において、「水」は特別な意味を持っています。「水と生きる SUNTORY」というコーポレートメッセージ2は、単なるキャッチフレーズではありません。ウイスキー、ビール、清涼飲料、そしてその名を冠した「サントリー天然水」など、同社の主要製品の根幹を成す「水」への深い依存と、その恵みに対する責任感を表明するものです20。この思想は、サントリーのサステナビリティ戦略に、他社にはない強力で真正な基盤を与え、環境課題への取り組みを事業活動と不可分なものとして位置づけています。
サントリーのサステナビリティ経営の中核は、水資源の保全と持続可能な利用です。2017年に策定された「サントリーグループ水理念」は、その指針を示すもので、「水循環を知る」「大切に使う」「水源を守る」「地域社会と共に取組む」という4つの柱から成ります21。この理念に基づき、具体的な活動が長年にわたり展開されてきました。
これらの活動を支えるのが、「サントリーグループ環境ビジョン2050」5に基づく具体的な目標設定です。
サントリーのサステナビリティ活動が持つ説得力の源泉は、それが事業の根幹である「水」と密接不可分である点にあります。水資源を守ることは、単なる社会貢献ではなく、事業継続のための死活問題であり、長期的な経営戦略そのものなのです。この事業との強い結びつきが、活動の真正性を高め、ステークホルダーからの信頼を得る基盤となっています。
さらに、「天然水の森」や「水育」といった主要な活動が、世間でESGやSDGsが注目されるずっと以前から長期間継続されている5事実は、これらの取り組みが一時的な流行への対応ではなく、企業の根源的な価値観(利益三分主義、やってみなはれに内包される長期視点)に基づいていることを示しており、その信頼性を一層高めています。
加えて、サントリーはこれらの活動を積極的にブランドコミュニケーションに活用しています。「サントリー天然水」のラベルに「ボトルは資源!サステナブルボトルへ」といったメッセージを記載したり27、「ウォーター・ポジティブ」をブランドメッセージとして発信する26など、サステナビリティを単なる後方支援ではなく、顧客への価値提案の一部として統合しようとしている点も注目に値します。
サントリーがグローバル企業として持続的な成長を遂げる上で、日本で長年培われてきた独自の企業理念を、多様な文化背景を持つ世界中の従業員にいかに浸透させ、共有するかは、極めて重要な経営課題です。特に、ビーム社のような大規模な買収5を経て組織が拡大・多様化する中で、理念に基づいた「One Suntory」としての求心力を維持・強化することは容易ではありません28。
サントリーは、この課題に対し、理念を単なる文化遺産としてではなく、戦略的に活用・適応させるべきダイナミックな経営資源と捉え、積極的な投資を行っています。
これらの多層的な取り組みを通じて、サントリーは、そのユニークな企業理念をグローバルな組織運営の基盤として根付かせようとしています。理念の共有は、国境を越えた協働を促進し、戦略実行の一貫性を高め、グループ全体としてのアイデンティティを強化します。さらに、サントリーの価値観に共鳴する優秀なグローバル人材を引きつけ、維持する上でも重要な役割を果たしていると考えられます31。理念は、単なる過去からの継承物ではなく、未来の成長を支えるための能動的な投資対象として扱われているのです。
サントリーの成功物語は、その製品ポートフォリオや市場戦略の巧みさだけでは語り尽くせません。その根底には、企業活動全体を貫く強固な理念体系が存在します。「やってみなはれ」「利益三分主義」「水と生きる」という三つの柱は、それぞれ独立した概念ではなく、相互に連携し、「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」というパーパスを実現するための、統合された世界観を形成しているのです。
この「理念主導型経営」は、サントリーに明確な競争優位性をもたらしています。
これらの要素が組み合わさることで、変化の激しいグローバル市場においても、レジリエンス(回復力・適応力)が高く、目的意識に導かれた組織が形成され、持続的な業績1と高いブランド価値34に繋がっていると言えるでしょう。
サントリーの事例から、現代の経営リーダー、そしてこれから社会に出る学生や企業の最前線で活躍する方々が学ぶべき点は多くあります。
サントリーは、「世界で最も信頼され、愛される、オンリーワンの食品酒類総合企業」35を目指し、今後も挑戦を続けるでしょう。その道のりにおいて、時代を超えて受け継がれ、進化し続ける企業理念が、未来を切り拓くための羅針盤として、引き続き中心的な役割を果たしていくことは間違いありません。
サントリー、初の売り上げ3兆円超え。「プレモル」や「サントリー生ビール」が絶好調 (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3
サントリーグループの企業理念を刷新 2023年4月3日 ニュース ... (2025年4月12日アクセス), サントリーグループの企業理念を刷新 - PR TIMES (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
「やってみなはれ」を、グループグローバル全体に浸透させる ... (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
“やってみなはれ” “利益三分主義” - サントリー (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20
「やってみなはれ」。サントリーに息づく精神と、水と生きるサステナブルな取り組み | webマガジン | ethica(エシカ)~私によくて、世界にイイ。~ (2025年4月12日アクセス) ↩
【WORKS 実例03】サントリーはデジタルで新しい文化をつくる(サントリーコミュニケーションズ株式会社 ) (2025年4月12日アクセス) ↩
サントリーの人本主義とは? | 大手企業に強いハイクラス転職エージェント【シンシアード】 (2025年4月12日アクセス), サントリーホールディングス株式会社 | 事例紹介 Case | WiLLSeed ウィル・シード (2025年4月12日アクセス) ↩
サントリーが求める人材像とは? | 大手企業に強いハイクラス転職 ... (2025年4月12日アクセス), 新卒採用|採用情報 - サントリーパブリシティサービス (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
「陰徳あれば陽報あり」~創業から受け継がれる「利益三分主義」~|SUNTORY(サントリー) (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
サントリー芸術財団 - Wikipedia (2025年4月12日アクセス), サントリー芸術財団 (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
財団概要 サントリー文化財団 (2025年4月12日アクセス) ↩
複雑化する子ども・若者を取り巻く課題の解決を。企業だからこそできるサントリーの「次世代エンパワメント活動」【前編】 | DRIVE - ツクルゼ、ミライ!行動系ウェブマガジン (2025年4月12日アクセス) ↩
プレモルメンバーズの顧客体験設計で行ったブライトスポット分析 MVVを戦略と施策に落とし込む方法 | Biz/Zine (2025年4月12日アクセス) ↩
サントリーポイント(SP)をためる サントリーアカウントサービス(登録無料) (2025年4月12日アクセス) ↩
メーカー企業のデジタルビジネス変革の中核を担うサントリー流新卒デジタル人材育成とは 「リアルアセット」を活用した独自のカリキュラムを公開AgileHR magazine | エンジニア組織のHRを考える (2025年4月12日アクセス) ↩
《SDGs事例集》SDGsで社会に潤いを|サントリー株式会社 (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
サントリー企業活動動画 1分54秒 - YouTube (2025年4月12日アクセス) ↩
www.kantei.go.jp (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3
サントリーが考えるサステナビリティ経営 サントリーグループの ... (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
日本の30by30達成へ サントリー天然水の森など122カ所を国が「自然共生サイト」の第一弾に認定 (2025年4月12日アクセス) ↩
サステナビリティをマーケティングや事業に落とし込むには サントリーの事例に学ぶ:SB2021 Sustainable Marketing Day (3) (2025年4月12日アクセス) ↩
開示シート(PDF) - 資源エネルギー庁 (2025年4月12日アクセス) ↩
【取材】人と自然と響きあう:サントリーのサステナビリティ経営推進(前編) - note (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3
先が見えないからこそ、「やってみなはれ」。サントリーに学ぶ、社会課題との向き合い方 (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
サントリーグループの企業理念を刷新 - PR TIMES (2025年4月12日アクセス) ↩
サントリー創業家・鳥井信宏氏が語る、挑戦し続ける組織に必要な「意外な条件」 (2025年4月12日アクセス) ↩
VRコンテンツ活用による没入感効果で、海外グループ会社の次世代リーダー層に企業理念と創業精神を浸透 | 事例 | アビームコンサルティング (2025年4月12日アクセス) ↩
サントリーの人本主義 サントリー (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2 ↩3
クロスボーダー M & A における PMI 施策 - 早稲田大学リポジトリ (2025年4月12日アクセス) ↩ ↩2
VRコンテンツ活用による没入感効果で、海外グループ会社の次世代リーダー層に企業理念と創業精神を浸透 | 事例 | ABeam Consulting Europe (2025年4月12日アクセス) ↩
Interbrand “Best Japan Brands 2024” ブランド価値による日本ブランドのランキングTop100を発表 - PR TIMES (2025年4月12日アクセス), 日本企業のブランド価値ランキング - 小野デザイン (2025年4月12日アクセス), 「日本企業のブランド価値ランキング」 武田薬品工業が初ランクイン (2025年4月12日アクセス) ↩
企業活動分析 サントリーHD 23年12月期は二桁の増収増益、2年連続売上利益ともに過去最高を達成 - J-marketing.net produced by JMR生活総合研究所 (2025年4月12日アクセス) ↩
人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、 「人間の生命いのちの輝き」をめざす。
目的を実現するために、すべての社員が大切にすべき価値観
人として、企業として、社会のために成長し続けること。 成長し続けることで、社会を良くする力を大きくしていくこと。
失敗を恐れることなく、新しい価値の創造をめざし、 あきらめずに挑み続けること。
事業活動で得たものは、自社への再投資にとどまらず、 お客様へのサービス、社会に還元すること。
水と生きる SUNTORY
自然と水の恵みに生かされる企業として、貴重な水資源を守ること。さまざまな企業活動を通じて社会に潤いをもたらし、社会にとっての水であること。 社員一人ひとりが水のように自在にしなやかに挑戦できる会社であること。 「人間の生命の輝き」をめざす想いを、「水」に 託して伝えるメッセージです。
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