キッツ宣言
わたしたちは、 流体制御技術と材料開発で社会インフラを支え、 ゆたかな地球環境と持続可能な未来を創造していきます
企業理念は、単なる美辞麗句ではありません。それは企業の存在意義、目指すべき方向性、そして日々の活動を律する価値観を示す羅針盤であり、競争優位性やブランド価値を築く上で極めて重要な役割を果たします。流体制御機器メーカーとして社会インフラを支える株式会社キッツの企業理念体系は、まさにその好例と言えるでしょう。本稿では、キッツの理念体系がどのように同社の競争力とブランドイメージに寄与しているのかを、ビジネス誌編集者の視点から分析します。
キッツの理念体系を読み解く上で、まず注目すべきは創業者の北澤利男氏が掲げた「常により良い品を、より安く、早くつくること」という創業理念です。これは、現代の言葉で言えば「最高品質の製品を、効率的な生産体制で提供する」という、ものづくり企業にとって普遍的かつ最も困難な課題への挑戦を示しています。
この創業理念が、キッツの「一貫生産」というビジネスモデルの源流となっています。素材である鋳物の製造から、加工、組立、検査、出荷に至るまで、すべての工程を自社内で完結させる体制は、品質管理を徹底し、製品の信頼性を極限まで高めることを可能にしました。特に、社会インフラを支えるバルブのような製品においては、わずかな不具合が社会生活や産業活動に甚大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、品質に対する徹底したこだわりは、キッツの製品が顧客から選ばれる最も強力な理由の一つ、すなわち直接的な競争優位性となっています。また、「より安く、早く」はコスト競争力と納期対応力に直結し、これらも市場での優位性を確立する上で不可欠な要素です。この創業の精神に基づく品質へのこだわりこそが、「社会インフラを支える」という現在のミッションを実現するための揺るぎない基盤を築いているのです。
2021年の創業70周年を機に改定された「キッツ宣言」は、企業の存在意義をより現代的かつ社会的な視点から明確にしています。「流体制御技術と材料開発で社会インフラを支え、ゆたかな地球環境と持続可能な未来を創造していきます」というミッションは、キッツが単に製品を提供するだけでなく、その技術を通じて社会課題の解決に貢献するという強い意志を示しています。
「流体制御技術」は、水、空気、ガス、油など、あらゆる「流れ」をコントロールする技術です。これはエネルギーの効率的な利用、資源の有効活用、環境負荷の低減など、持続可能な社会の実現に不可欠な役割を担っています。キッツがこのミッションを掲げることは、自社の事業活動がどのように社会に貢献できるのかを内外に示し、企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)経営への積極的な姿勢をアピールすることに繋がります。これにより、単なる製品メーカーとしてではなく、「持続可能な未来を創造するパートナー」としてのブランドイメージを構築し、顧客、従業員、地域社会からの共感と信頼を獲得しています。
長期経営ビジョン「Beyond New Heights 2030『流れ』を変える」は、目まぐるしく変化する社会環境の中で、キッツが2030年に向けてどのように進化していくかを示しています。既存のコアビジネスを強化しつつ、「デジタル化」「脱炭素化」というキーワードを軸に、成長ビジネスへの参入を加速する姿勢は、企業が現状に満足せず、常に未来を見据えていることを示しています。
これは、経営学でいう「両利きの経営」を目指すものと言えます。既存事業で収益を上げながら(深化)、新たな事業領域を探索・開拓する(探索)という、難易度の高い経営に挑戦することで、企業の持続的な成長を図ろうとしています。特に、脱炭素化は世界的な潮流であり、エネルギー転換や省エネルギー技術への需要が高まる中で、キッツの流体制御技術が貢献できる領域は広がっています。このビジョンは、企業の将来性や革新性に対する期待感を高め、ステークホルダーに対して「変化を恐れず、未来を切り拓く企業」というブランドイメージを醸成します。
「Do it KITZ Way」という行動指針は、前述のミッションやビジョンを実現するための「How」、すなわち社員一人ひとりがどのように行動すべきかを示しています。「Do it True(誠実・真実)」「Do it Now(スピード・タイムリー)」「Do it New(創造力・チャレンジ)」という3つの要素は、キッツが求める社員像と組織文化を端的に表しています。
「True」は、顧客や仲間に対する誠実さ、そして物事の本質を見極める姿勢を重視しており、これは創業理念以来の品質へのこだわりや、信頼されるブランドイメージの根幹を成す価値観です。「Now」は、変化の速い時代における迅速な意思決定と実行力を促し、ビジョンで掲げる成長ビジネスへの参入や変化への対応力を高めます。「New」は、既存の発想にとらわれず、新しいことへの挑戦を奨励する創造的な文化を育みます。これは、技術開発や新規事業開拓を推進する上で不可欠な要素であり、ビジョン実現に向けた企業の活力を生み出します。これらの行動指針が組織全体に浸透することで、社員のエンゲージメントを高め、理念やビジョンを単なる言葉で終わらせず、具体的な行動と成果に繋げる内部的な競争力となります。
株式会社キッツの企業理念体系は、創業以来の品質へのこだわりという強固な土台の上に、社会貢献、持続可能性、そして未来への変革という現代的な要素を積み重ねた、一貫性のある構造をしています。創業理念が製品の信頼性や効率性という直接的な競争優位性を築き、ミッションが企業の存在意義と社会からの共感を得るブランドイメージを形成し、ビジョンが将来の成長戦略と革新性を示し、そしてバリューがこれら全てを実現するための組織文化と実行力を支えています。
これらの理念が単に掲げられているだけでなく、事業戦略、技術開発、組織運営、そして社員一人ひとりの行動に深く根差していることが、キッツの持続的な競争優位性と信頼されるブランドイメージの源泉と言えるでしょう。変化が激しく、不確実性の高い現代において、確固たる企業理念を持つことは、企業が進むべき道を照らす光となり、困難を乗り越え、持続的な成長を遂げるための強力な推進力となることを、キッツの事例は示唆しています。就職活動中の学生、企業のブランディング担当者、そして経営層にとって、キッツの理念経営は多くの学びを提供するはずです。
Beyond New Heights 2030 「流れ」を変える
2022年2月、長期経営ビジョン「Beyond New Heights 2030『流れ』を変える」を公表しました。目まぐるしく変化する社会環境の中で、「キッツ宣言」の実現に向けて2030年にありたい姿を掲げたものです。 キッツグループは、これまであらゆる産業分野、とりわけ建築設備分野や石油化学・一般化学分野を中心に暮らしや産業を支え、ゆたかな社会づくりに貢献してまいりました。それらのコアビジネスの基盤を強化するとともに、エネルギー利用の効率化のために欠かせない「デジタル化」、カーボンニュートラルの実現に向けた「脱炭素化」をキーワードとして、リスクを恐れず成長ビジネスへの参入を加速し、ビジネス領域をシフトさせる両利きの経営を目指します。
Do it KITZ Way
あらゆるものが変革しています。 新しい時代においてもビジネスの基本は人と人とのコミュニケーションです。人と人との関係で忘れてならないのが「誠実に対応する」という心です。また、表面的なものでなく物事の「本質」を追い求める心がなくてはなりません。>この基本を忘れることなく、企業活動を進めるための合言葉は”Do it True”です。
あらゆるものが加速しています。 目まぐるしい速さで変化する世の中の動きに対応していくために、「タイムリー」であると同時に「スピード」ある行動を意味する”Now”を掲げました。情報をいち早くキャッチし、迅速な意思決定と確実に実践していく躍動的な社員像を表現した言葉は”Do it Now”です。
あらゆるものが進化しています。 その変化に対応していくためには一人ひとりの社員が自己変革していかなくてはなりません。 従来発想から抜け出し、秘められた創造力を自ら発揮し、新しいことに果敢にチャレンジする社員像を表現した言葉は”Do it New”です。
わたしたちは、 流体制御技術と材料開発で社会インフラを支え、 ゆたかな地球環境と持続可能な未来を創造していきます
私たちキッツグループは、2021年度、創業70周年を機に、企業としての存在意義は何であるか、社会に対してどのような貢献ができるのかとの議論を重ねてまいりました。2022年2月、長期経営ビジョンを公表するにあたり、企業理念である「キッツ宣言」を改定することとしました。 私たちは、ゆたかな地球環境と持続可能な未来を創造することが、社会に対して果たすべき使命であると考えています。そのために、創業以来培ってきた流体制御技術と材料開発をさらに磨き上げ、社会インフラを支え続けてまいります。
常により良い品を、より安く、早くつくること
1951(昭和26)年、日本が敗戦の混乱期から高度経済成長時代へと移りつつある中、創業者 北澤利男は、株式会社北澤製作所(現株式会社キッツ)を創業しました。本社を東京に、そして工場を山梨県長坂町に置き、青銅製バルブの製造・販売を開始しました。 北澤利男の創業理念は、「常により良い品を、より安く、早くつくること」でした。そのため一貫生産を基本とし、素材である鋳物の製造から手がけました。バルブの鋳造は高度な製造技術や大型の設備が必要であるため、現在でも自社内で鋳物を製造しているバルブ専業メーカーは、多くはありません。 さらに、鋳造から加工・組立・検査・出荷などすべての工程を社内で行うとともに、日本全国をカバーする販売ネットワークを基盤としたきめ細かいアフターフォローと、困りごとを解決するソリューションをお客様に提供できる体制を築くことにより、商品技術力、コスト競争力及び納期対応力を高め、経営品質を向上させてまいりました。こうした「より良い品質」へのこだわりが今日まで脈々と受け継がれ、私たちキッツグループの源流となっています。
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