企業理念
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、お客さまの期待を超える感動をお届けすることにより、豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献します。
「つなぐ」という言葉を聞いて、どんな企業を思い浮かべますか?
実は、KDDIほど「つなぐ」という概念を企業理念の中核に据えている会社は珍しいんです。同社のビジョンは「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」[^14]。一見シンプルに見えるこの言葉の裏には、通信業界の巨人が描く壮大な未来図が隠されています。
でも、ちょっと待ってください。理念って、どの会社も立派なことを書いているじゃないですか。本当に大切なのは「言葉の美しさ」ではなく「本気度」です。KDDIが掲げる理念は、果たして本物なのでしょうか?
今回は、同社の複層的な理念体系を徹底解剖し、「夢中に挑戦できる会社」1を目指すという宣言が、どれほど本気なのかを検証してみます。読み終わる頃には、企業理念の「見抜き方」と「活かし方」がわかるはずです。
KDDIの理念体系を見て、まず驚くのはその複雑さです。企業理念、ビジョン、フィロソフィー、バリュー、パーパス、行動指針...まるで入れ子構造のマトリョーシカのように、理念が理念を包み込んでいます2。
「これって整理されてないんじゃない?」と思うかもしれませんが、実はここに同社の本気度が表れています。
中核にあるのは「心を高める」というフィロソフィー2です。「動機善なりや、私心なかりしか」という副題からもわかるように、これは稲盛和夫氏の経営哲学の影響を強く受けています。つまり、KDDIは単なる通信会社ではなく、「人間性の向上」を事業の根幹に置いているということです。
さらに注目すべきは、企業理念で「全従業員の物心両面の幸福を追求する」2と明言していること。多くの企業が「顧客第一」を掲げる中、KDDIは従業員の幸福を最初に持ってきています。これは相当な覚悟がないとできません。
そして、2030年に向けたビジョンでは「夢中に挑戦できる会社」1という表現を使っています。「成長」でも「発展」でもなく「夢中」。この言葉選びに、同社の人間味あふれる企業文化が透けて見えます。
KDDIフィロソフィの第5章は丸ごと「心を高める」に割かれており、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という方程式まで示されています2。これは稲盛哲学の中核概念で、単なるスローガンではなく、経営の根本思想として位置づけられています。
特に「利他の心で考える」「感謝の気持ちを持つ」といった項目は、通信インフラという社会基盤を支える企業としての使命感を表しています。24時間365日のネットワーク運用という業務特性を考えると、この精神性は不可欠でしょう。
「つなぐチカラを進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」[^14]というビジョンは、同社のDX戦略やサテライトグロース戦略と完全に連動しています。単なる通信事業から、金融、エネルギー、エンターテインメントまで事業領域を拡大している現状を見ると、このビジョンは着実に実行されています3。
ただし、「誰もが思いを実現できる」という部分は、まだ道半ばという印象。デジタルデバイドの解消や地方創生への取り組みが、今後の試金石になりそうです4。
松田新社長が掲げる「夢中に挑戦できる会社」1というビジョンは、従来の日本企業らしからぬ表現です。「夢中」という感情的な言葉を使うことで、従業員のエンゲージメント向上を狙っていることが読み取れます。
実際、同社のバリューには「チャレンジを称え合う」「自ら燃える」「闘争心を燃やす」2といった、エネルギッシュな表現が並んでいます。これは、変化の激しい通信業界で生き残るための危機感の表れでもあるでしょう。
KDDIのパーパスは、6つの領域にわたって具体的な提供価値を明示しています2。「通信を核としたイノベーションの推進」から「ステークホルダーのエンゲージメント向上」まで、マテリアリティマップに基づいた戦略的なアプローチが見て取れます。
特に「2030年度カーボンニュートラル実現」4という具体的な数値目標を掲げている点は評価できます。ESG経営が求められる現代において、この明確なコミットメントは投資家からの信頼獲得にもつながるでしょう。
KDDIの理念実践が業績に与えた最大のインパクトは、事業領域の大胆な拡張です。従来の通信キャリアの枠を超えて、金融、エネルギー、コマース、エンターテインメントへと事業を拡大できたのは、「つなぐチカラ」というビジョンがあったからこそ3。
「もし理念がなかったら?」を考えてみてください。おそらくKDDIは、ドコモやソフトバンクと同じような通信サービスの価格競争に巻き込まれ、差別化に苦労していたでしょう。しかし、「つなぐ」という概念を軸にすることで、通信を起点としたエコシステム構築という独自の戦略を描けています。
また、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」2という理念は、人材確保の面でも効果を発揮しています。通信業界は技術革新のスピードが速く、優秀なエンジニアの確保が生命線。従業員ファーストの理念は、人材獲得競争において大きな武器になっているはずです5。
さらに注目すべきは、ブランド戦略への影響です。KDDIは2019年にブランドスローガンを一新し6、「つなぐチカラ」を前面に押し出したブランディングを展開しています78。これは理念とマーケティングが一体化した好例と言えるでしょう。
競合他社と比較すると、KDDIほど理念とビジネス戦略が密接に連動している通信キャリアは珍しいです。この理念ドリブンの経営が、中長期的な競争優位性の源泉になっていると考えられます。
KDDIの理念体系は複雑に見えますが、すべてが「つなぐ」「心を高める」という中核概念で貫かれています。フィロソフィー、ビジョン、バリュー、パーパスが相互に補完し合う構造になっているため、従業員にとって理解しやすく、実践しやすいのです。
アクション提案:理念を作る際は、まず中核となる1つの概念を決め、それを軸に各階層の理念を設計する。
「夢中」「燃える」「感動」といった感情的な表現を理念に盛り込むことで、従業員の心に響くメッセージになっています21。論理的な説明だけでなく、情緒的な共感を呼ぶ言葉選びが秀逸です。
アクション提案:理念の文言を検討する際は、「この言葉で従業員がワクワクするか?」を必ず確認する。
「2030年度カーボンニュートラル実現」4のように、理念を具体的な数値目標に落とし込むことで、実行可能性と進捗の可視化を実現しています。これにより、理念が「絵に描いた餅」になることを防いでいます。
アクション提案:理念の各要素について、必ず測定可能な指標と期限を設定する。
KDDIの理念分析を通じて見えてきたのは、理念を経営戦略の中核に据える「理念ドリブン経営」の威力です。同社は理念を単なる飾り物ではなく、事業展開の羅針盤として活用することで、通信業界の激しい競争を勝ち抜いています。
特に印象的なのは、「つなぐ」という抽象的な概念を、具体的なビジネス機会に変換する力です。これは一朝一夕で身につくものではなく、長年にわたる理念の浸透と実践の賜物でしょう。
今後の課題は、グローバル展開における理念の普遍性です。日本的な「心を高める」という概念が、海外の多様な文化圏でどこまで通用するか。ここが同社の真のグローバル企業への試金石になりそうです。
最後に、読者の皆さんに問いかけたいと思います。あなたの会社の理念は、KDDIのように従業員を「夢中」にさせる力を持っていますか? そして、その理念は本当に事業戦略と連動していますか?理念の力を侮ってはいけません。それは企業の未来を左右する、最も重要な経営資源なのですから。
「夢中」が未来をつくる原動力―KDDI松田新社長が語る"目指す姿"と3つの挑戦 | KDDIトビラ - https:// ↩ ↩2 ↩3 ↩4
企業理念 | KDDIについて | KDDI株式会社 - https://www.kddi.com/corporate/kddi/philosophy/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
KDDIの事業 | 個人投資家の皆さまへ | KDDI株式会社 - https://www.kddi.com/corporate/ir/individual/operation/ ↩ ↩2
環境 | サステナビリティ | KDDI株式会社 - https://www.kddi.com/corporate/sustainability/efforts-environment/ ↩ ↩2 ↩3
KDDI株式会社 採用情報 - https://career.kddi.com/about/philosophy.html ↩
KDDI、ブランドスローガンを一新 - 日本経済新聞 - https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP509617_V10C19A5000000/ ↩
KDDI Brand Book トップページ - https://brand.kddi.com/ ↩
ブランド管理 | 社会 | KDDI株式会社 - https://www.kddi.com/corporate/sustainability/society/brand/ ↩
それぞれのブランドに込められた思いを、動画やスローガン、ステートメントで表現しています。
「夢中に挑戦できる会社」を目指し、KDDIは3つの挑戦に取り組んでいきます。
「つなぐチカラ」を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。
KDDI VISION 2030とは、2030年に向けたKDDIグループの社会的存在意義をサステナビリティ経営の要素(企業理念・KDDI Sustainable Action)を加えて、分かりやすく集約したメッセージです。
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、お客さまの期待を超える感動をお届けすることにより、豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献します。
私たちは、世のため人のために役立つ事業を行っていくことを経営の方針とし、社是に「心を高める」と掲げています。企業理念は、私たちの使命を表したものであり、KDDIフィロソフィは、企業理念に謳われた使命を果たしていくために、私たちが持つべき考え方、価値観、行動規範です。私たちは、心をひとつにして、これらを共有し実践していくことにより、お客さまに感動をお届けし、コミュニケーションを基盤とする豊かな社会の実現へ全力を尽くしていきます。
従業員が持つべき考え方・価値観・行動規範
【第1章】目指す姿 ・「つなぐチカラ」を進化させる ・お客さま第一に考える ・夢を描き、追い続ける ・驚きを超え、感動をお客さまに届ける ・多様性を活かす ・365日、守るのが使命 ・真のグローバル企業を目指す ・一人ひとりがKDDI 【第2章】経営の原則 ・事業の目的、意義を明確にする ・人権を尊重する ・公明正大に利益を追求する ・ガラス張りで経営する ・売上を最大に、経費を最小に ・筋肉質の経営に徹する ・リアルタイムで経営する 【第3章】仕事の流儀 高い志を抱き、具体的な目標を立てる。絶対に達成するという強烈な願望を持ち、成功するまであきらめずにやり抜く。そして、達成した喜びを分かち合う 【第4章】行動の原則 ・人間として何が正しいかで判断する ・原理原則に従う ・フェアプレイ精神を貫く ・公私のけじめをつける ・チャレンジを称え合う ・楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する ・どんな仕事も地道に一歩一歩、たゆまぬ努力を続ける ・能力は必ず進歩する ・常に創造的な仕事をする ・本気、本音でぶつかる ・ジブンゴト化する ・自ら燃える ・闘争心を燃やす ・一丸となってやり抜く ・外を見て内を知る ・現地現物で本質を見極める ・スピード感をもって決断し行動する ・目線を上げる ・小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり 【第5章】心を高める ・人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力 ・仕事を通じて人間力を磨く ・利他の心で考える ・感謝の気持ちを持つ ・常に謙虚に素直な心で ・常に明るく前向きに取り組む
長期投資家等マルチステークホルダーの関心事項と事業へのインパクトを軸に、中期経営戦略における課題をマッピングし集約しました。当社の事業変革に必要なイノベーションの推進、事業の多様化に伴う人財強化やガバナンス強化、気候変動など国際社会の課題意識の高まりに対応しています。
01通信を核としたイノベーションの推進 [提供価値] 1通信を核としたサテライトグロース戦略により、お客さまの日常で実感できるイノベーションを推進し、未来社会を創造する 2通信その他の社会インフラ・つながるクルマに対して、革新的なソリューションを提供することで、サステナブルな産業・インフラ環境を実現する 02安心安全で豊かな社会の実現 [提供価値] 3通信を核としたDXにより人と地域の想いをつなぎ、情報格差、地域課題を解決することで、地域共創を実現する 4海外新興国にて通信と周辺サービスの維持拡充を図り、現地の経済発展に貢献することで、地域・経済格差を解消する 03カーボンニュートラルの実現 [提供価値] 5当社2030年度カーボンニュートラル実現※1に加え、お客さまへ再生可能エネルギー電気を提供し、地球規模の課題である気候変動問題の解決に貢献する 04ガバナンス強化によるグループ経営基盤強化 [提供価値] 6KDDIグループ全体のガバナンス強化による強固な経営基盤の確立を通じて、社会・環境価値を創出する 7あらゆる事業活動において人権を尊重するとともに、サプライチェーンでの人権侵害を撲滅し、社会の持続的成長に貢献する 05人財ファースト企業への変革 [提供価値] 8多様かつ高度なプロ人財の活躍と挑戦心あふれる企業風土の醸成により、イノベーションを創出し、社会の持続的成長に貢献する 06ステークホルダーのエンゲージメント向上
企業理念および「KDDIフィロソフィ」を理解し、実践するための具体的な指針
KDDIは、企業理念および「KDDIフィロソフィ」を理解し、実践するための具体的な指針として、2003年に「KDDI行動指針」を制定しました。KDDIのすべての役員・従業員は、この行動指針を遵守することで高い倫理観を維持し、日々の業務を行っています。2016年4月には法規制の新設・改廃や社会情勢の変化への対応とグループ経営の推進を目的として行動指針を改訂しました。グループ各社の行動指針についても「KDDI行動指針」を基準に事業の特性などに配慮し、順次制定・改訂しています。
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