日用品から化粧品、ヘルスケア分野に至るまで、私たちの暮らしに深く根ざしている花王株式会社。その安定した事業基盤と高いブランド力は、単なる製品の機能性やマーケティング力だけではなく、企業活動の根幹を成す強固な理念体系に支えられています。
本稿では、花王が「花王ウェイ」と呼ぶ独自の理念体系、特にそのパーパス、ミッション、バリュー、行動原則が、いかに同社の競争優位性を築き、ブランド価値を高めているのかを、ビジネス誌編集者の視点から分析します。
花王の企業理念である「花王ウェイ」は、単なる額縁に入った標語ではありません。それは、中長期計画の策定から日々の細かな判断に至るまで、全グループ社員の活動の「拠りどころ」となるものです。マニュアルや規則としてではなく、仕事の意義や課題を確認するための指針として共有されている点に、花王の理念浸透へのこだわりが見て取れます。
この「拠りどころ」としての理念が明確であることは、多様な事業を展開し、グローバルに活動する企業において、組織全体の一貫性を保ち、迅速かつ適切な意思決定を行う上で極めて重要です。これは、変化の激しい市場環境における競争優位性の基盤となります。
花王のパーパスは「豊かな共生世界の実現」、ミッションは「豊かな共生世界の実現」を掲げ、「Kirei Life~すべての人と地球にとってより清潔で美しくすこやかな暮らし方~」を創造することを使命としています。
ここで注目すべきは、日本語の「きれい」という言葉が持つ多義性です。花王によれば、「きれい」は単に外見的な美しさや清潔さだけでなく、秩序、そして自分のため、他の人々のため、自然界のために美しさを創造しようとする「生き方」までも表すといいます。この広い意味での「きれい」こそが、花王のブランドの核であり、競争優位性の大きな源泉となっています。
洗剤や衛生用品は「清潔」、化粧品は「美」、健康食品や入浴剤は「すこやか」という、花王の主要な製品カテゴリーをこの「Kirei Life」という一つの概念で包括的に表現しています。さらに、「豊かな共生世界」「すべての人と地球にとって」という言葉は、製品機能の提供に留まらず、環境問題への配慮(例:節水型洗剤、詰め替え容器の普及、プラスチック削減への取り組みなど)や倫理的な事業活動といった、現代社会が企業に求めるサステナビリティへの貢献をも強く意識していることを示しています。
このようなパーパスとミッションは、消費者に対して単なる製品メーカーではなく、「きれいな暮らし方」や「豊かな共生世界」の実現を目指す企業としての共感を呼び起こし、強いブランドロイヤルティを育みます。特に環境意識や倫理観の高い消費者層にとって、花王の製品選択は単なる機能比較ではなく、企業姿勢への賛同という側面も帯びるようになります。これは、価格競争に陥りがちな日用品市場において、明確な差別化要因となり得ます。
花王の競争優位性を内側から支えているのが、「正道を歩む」「よきモノづくり」「絶えざる革新」という3つのバリューです。
「正道を歩む」は、創業者の言葉に由来し、誠実さ、法と倫理の遵守、社会的責任の遂行を重視します。これは、製品の安全性や品質に対する揺るぎない信頼の基盤となります。特に口に触れるものや肌に使うものが多い花王製品において、この「正道」を歩む姿勢は、消費者からの安心感に直結し、ブランドの信頼性を高める上で不可欠です。
「よきモノづくり」は、関わる全てが良いと感じ、生活者を豊かにする創造プロセスを意味します。これは単に高品質な製品を作るだけでなく、開発、製造、販売に関わる全てのプロセスにおいて、働く人々の熱意や創造性を重視する文化を示唆しています。また、生活者ニーズへの深い理解(後述の「現場起点」にも関連)と、個々の社員の力を結集することで、卓越した製品を生み出すという意志が込められています。このバリューは、花王が長年にわたり革新的な製品(例:アタック、ヘルシアなど)を生み出し続けてきた背景にある、技術力と開発力の源泉と言えるでしょう。
そして、「絶えざる革新」は、花王のダイナミズムを象徴するバリューです。新しいアイデアを積極的に取り入れ、着実な改善から画期的な技術まで、常に変化と成長を目指す姿勢は、競争が激しい市場で常に一歩先を行くための推進力となります。変化を先取りし、あくなき探求心を持ち、困難を飛躍のチャンスと捉える文化は、新たな製品カテゴリーへの参入や、既存製品の継続的な改良を可能にし、花王の市場における競争力を維持・強化しています。
これらのバリューは、花王の製品・サービスが高品質で信頼でき、かつ常に進化しているというブランドイメージを形成し、消費者からの支持を確固たるものにしています。
「共生視点」「現場起点」「個の尊重と力の結集」「果敢に挑む」という行動原則は、上記の理念やバリューを日々の業務でどのように実践するかを示しています。
「共生視点」は、人だけでなく地球への配慮をあらゆる意思決定に組み込む姿勢であり、サステナビリティへの取り組みを加速させます。「現場起点」は、生活者や社内外の現場の声に耳を傾けることで、真のニーズに基づいた製品開発や意思決定を可能にします。これは「よきモノづくり」や「人をよく理解し期待の先いく企業に」というビジョンを実現するための具体的なアプローチです。「個の尊重と力の結集」は、多様性を活かし、チームワークで大きな成果を出すための組織文化を育みます。「果敢に挑む」は、リスクを恐れずに挑戦し、失敗からも学び続ける姿勢であり、「絶えざる革新」を推進する原動力となります。
これらの行動原則が組織全体に浸透することで、理念は単なるスローガンではなく、社員一人ひとりの行動を律し、企業文化として定着します。これにより、理念に基づいた活動が自律的に行われるようになり、企業の競争力とブランド価値が内側から強化されていきます。
花王株式会社の理念体系「花王ウェイ」は、「豊かな共生世界の実現」という壮大なパーパスを核に、「Kirei Life」の創造というミッション、そして「正道を歩む」「よきモノづくり」「絶えざる革新」という揺るぎないバリュー、さらにそれらを実践するための具体的な行動原則が有機的に結びついたものです。
この強固な理念体系は、高品質で革新的な製品を生み出す開発力、倫理的で信頼性の高い企業としてのブランドイメージ、そして社会や環境の変化に対応し続ける適応力という形で、花王の競争優位性とブランド価値を多方面から支えています。理念が単なる言葉に終わらず、日々の活動の「拠りどころ」として全社員に共有され、実践されていることこそが、花王の持続的な成長の秘密と言えるでしょう。
花王の事例は、企業理念が単なる経営ツールではなく、企業の存在意義そのものを問い直し、競争戦略、ブランド構築、そして組織文化の醸成に不可欠な要素であることを改めて示唆しています。企業を取り巻く環境が不確実性を増す現代において、明確で浸透した理念を持つことの重要性は、ますます高まっていると言えるでしょう。
「花王ウェイ」は、花王グループの企業活動の拠りどころとなる、企業理念(Corporate Philosophy)です。
中長期にわたる事業計画の策定から、日々のビジネスにおける一つひとつの判断にいたるまで、「花王ウェイ」を基本とすることで、グループの活動は一貫したものとなります。また一人ひとりの社員にとっては、会社の発展と個人の成長を重ね合わせ、仕事の働きがい、生きがいを得るうえで欠かすことのできない、指針でもあります。 花王グループの各企業・各メンバーは、「花王ウェイ」をマニュアルや規則としてではなく、それぞれの仕事の意義や課題を確認するための拠りどころとして共有しています。
豊かな共生世界の実現
To realize a Kirei World in which all life lives in harmony 創造と革新で、人と社会、 地球の「きれい」に貢献し、すべてのいのちが調和する こころ豊かな未来をめざします。 一人ひとりのいのちを輝かせるきれい、皆が笑顔で暮らせるきれい、持続可能な生態のきれい。 花王はこの3つの領域のきれいに貢献することで豊かな共生世界の実現をめざします。これは創業以来130年以上続く、花王の変わらぬ想いです。
人をよく理解し期待の先いく企業に
私たちは、この世界とそこに住む人々を深く知り、理解します。人と自然が共に栄える未来のために、人々の期待を超える、よりよい生活を実現する企業をめざします。
正道を歩む よきモノづくり 絶えざる革新
「正道を歩む」は、創業者・長瀬富郎の言葉を源としています。彼は、勤勉に働き誠実に生きる人々のみが幸運をつかむことができると考えました。私たちはたとえ困難であろうとも、常に正しい道を選択します。 * 私たちは、すべての人に敬意、公平さ、共感をもって接し、使命感を抱いて誠実に仕事に取り組みます。これにより、人として、志を共にする仲間が集う花王として、最も力を発揮することができます。 敬意、公平、共感、高い志 * 私たちは、易しいことではなく、正しいことを行ないます。合法的で倫理的なふるまいが、私たちのビジネスの基本です。 法と倫理の遵守 * 私たちは、企業の責任を真摯に受け止め、社会に役立ち地球を守ることのできる、安全でエシカルかつ高品質な製品、ブランド、技術、ソリューションを創造します。 社会的責任の遂行 「よきモノづくり」とは、関わったすべての人がよいと感じ、かつ、生活者・顧客の生活を豊かにする、優れた創造のプロセスを意味します。 * 私たちは、人、社会、そして地球の、現在および未来のニーズに、独自の方法で応える製品、ブランド、技術、ソリューションを開発します。 ニーズに応える * 私たちは、すべての社員とチームの創造力と活力を結集することで、卓越したよきモノづくりをめざします。あらゆる職務と部門において、卓越した成果を出すことに情熱を傾けます。 個の力の結集 * 私たちは、人、社会、地球すべてに敬意をもって貢献するために、利益と活力の再投資を続けます。これによって信頼が生まれ、持続可能な成長を確かなものにします。 よきモノづくりの成長サイクル 「革新」とは、発想です。花王は創業以来、新しいアイデアを積極的に取り入れることで発展してきました。着実な改善、画期的な技術、事業の新しい進め方、独自性を伝える斬新な手法など、あらゆる場面で絶えざる成長と変革に全力を注ぎます。 * 画期的な革新は待つものではありません。私たちが行なうすべてが、卓越したものでなければなりません。企画からコミュニケーション、販売方法、ビジネスの行ない方に至るまで、私たちは独自性を追求します。 独自性の追求 * 私たちは、変化していく人々や社会のために力を尽くします。成果とプロセスを、改善、革新し続けることによって変化を先取りします。 変化の先取り * 私たちは、探求心旺盛で発想力に富み、常に新しいアイデアを受け入れ、新たな課題に自ら進んで取り組みます。 あくなき探求心 * 革新は困難を伴います。苦しい時には、試練は飛躍する力を与え、個人と組織を成長させるものと、私たちは考えます。 危機をチャンスに
共生視点 現場起点 個の尊重と力の結集 果敢に挑む
私たちは、人と地球は切り離せないものであると信じています。この密接な関係を、細心の注意を払いながら包括的に考えなければなりません。また、私たちのどんな行動も、人(生活者、社員、ビジネスパートナー)と地球すべてに、よい影響をもたらさなければなりません。 * すべての仕事の起点は生活者です。私たちは、一人ひとりを深く理解することによって、生活を豊かにする製品、ブランド、技術、ソリューションを開発します。 生活者理解 * 私たちの最大の強みは、社員です。私たちは、誰もがプロフェッショナルとして、また人間として、自身が持つ可能性を最大限に活かした成長ができるインクルーシブな職場を創ります。 社員は最大の強み * 私たちは、顧客、サプライヤー、ビジネスパートナーを尊重します。共通の価値観と信頼に基づく強固な関係を構築し、互いの成功のために協力して働きます。 強いパートナーシップ * すべての人々が暮らすこの地球は、求めることを直接声に出して訴えることができません。私たちは常に、人と地球、両方の声に平等に耳を傾け、意思決定します。 人と地球の視点 最も深い知識、最良のアイデア、最も賢明な意思決定、それらは社外・社内の現場にあります。迷った時は現場に行きます。 * 私たちは、生活者・顧客が何を必要とし、どのように製品を使用しているかを知るために、現場に行き、実感し、体験し、理解します。 本質は現場にある * 私たちは、最善の意思決定を行なうために、お互いの考えに積極的に耳を傾けます。現場の人々の経験と専門知識を信頼し、大切にします。 現場に基づく意思決定 * 私たちは、絶えず変化する事業環境の中で、自分達の知識、見るべきところ、現場の声を聴く最善の方法について、常に見直し、更新します。 現場の変化を捉える * 私たちは、すべての人を尊重し、心を開いて接します。 個の尊重 * 多様な文化、国籍、信念、人種、性別、アイデンティティ、能力を積極的に受け入れることで、事業も社会もより強く、素晴らしいものになります。私たちは、すべての社員、ビジネスパートナー、そしてコミュニティを、ありのままに尊重します。 ダイバーシティ&インクルージョン * 私たちは、仲間と共にいることで強くなります。組織を横断したオープンで誠実なコミュニケーションとコラボレーションによって障壁を乗り越え、ひとつのグローバルチームとして働きます。 チーム力の発揮 * 私たちは、常に学び、新しいアイデアを受け入れます。多様な視点と新しいパートナーシップを模索します。 オープンに学ぶ姿勢 * 行動を起こすことも、起こさないことも、どちらもリスクを伴います。私たちは行動するリスクを選びます。 やるリスクをとる * 私たちは、社会と地球に利益をもたらすために、意欲的な目標を設定し、困難な挑戦に取り組み、自分自身とチームの限界に挑みます。困難を乗り越えてこそ得られる、この上ない喜びを追求します。 意欲的な目標を掲げる * 意欲的な目標を達成するためには、リスクを予測しておくことが必要です。失敗した時は反省し、学び、再び挑戦し、成し遂げます。 挑戦し続ける
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