社是
先義後利 諸悪莫作 衆善奉行
企業理念は、単に額に飾られるスローガンではありません。それは企業の存在意義、目指す未来、そして日々の活動を律する価値観の集合体であり、競争が激化する現代において、企業の持続的な成長とブランド価値構築の核となり得ます。本稿では、百貨店を中心とした小売事業を展開するJ.フロントリテイリング株式会社(以下、JFR)の理念体系に焦点を当て、その多様な理念がどのように同社の競争優位性やブランドイメージに貢献しているのかを、ビジネス誌編集者の視点から分析します。
JFRの理念体系は、創業以来の歴史に根ざした倫理観から、未来に向けた創造的なビジョン、そして現代社会が求めるサステナビリティへのコミットメントまで、多層的に構築されています。これらの理念が有機的に結びつくことで、同社の「らしさ」が形作られ、多様なステークホルダーからの信頼と共感を得る基盤となっていると考えられます。
JFRの理念体系の根幹には、創業以来掲げられている社是「先義後利」「諸悪莫作 衆善奉行」があります。「先義後利」は、目先の利益にとらわれず、人として正しい道義を優先すれば、結果として利益は後からついてくる、という考え方です。また、「諸悪莫作 衆善奉行」は、一切の悪を行わず、あらゆる善い行いを実践するという仏教の教えに由来します。これらの社是は、300年、400年という長い歴史を持つ大丸や松坂屋といった百貨店の事業を通じて培われてきた、商いの倫理観とでも言うべきものです。
小売業、特に百貨店のような顧客との直接的な接点が多いビジネスにおいて、信頼は何物にも代えがたい資産です。この歴史的な社是は、お客様、地域社会、そしてサプライヤーを含むお取引先様との関係において、誠実かつ倫理的な企業活動を行うことの重要性を従業員一人ひとりに浸透させています。これは、短期的な利益追求に走らず、長期的な関係性を重視する姿勢として現れ、結果として強固な顧客ロイヤルティや取引先からの信頼を築き、競争優位性の源泉となります。また、「信頼できる企業」「誠実なブランド」といったポジティブなブランドイメージの形成にも大きく寄与していると言えるでしょう。
現代の小売業界は、 Eコマースの台頭や消費者の価値観の多様化により、大きな変革期を迎えています。このような環境下で、JFRが新たに策定したビジョンは「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」です。このビジョンにおいて注目すべきは、「発明する」という言葉が持つ創造性と未来志向性です。
これは、単に既存の商品やサービスを提供するだけでなく、顧客自身も気づいていないような、あるいはまだ世の中に存在しない「幸せ」の形を積極的に生み出していこうという強い意志を示しています。百貨店やショッピングセンターという「場」を持つJFRにとって、このビジョンは、モノを売る場所から、体験や文化、コミュニティを提供し、顧客の生活全体を豊かにする「幸せ創造拠点」へと進化していく方向性を示唆しています。
このビジョンは、同社のブランドイメージに革新性や顧客志向という要素を付加します。また、デジタル技術の活用や異業種との連携、新たなビジネスモデルの創出など、ビジョン実現に向けた積極的な取り組みは、変化の速い市場環境における競争優位性を高めるドライバーとなります。単なる「小売業」に留まらない、「くらし」全体をデザインし、「幸せ」という情緒的価値を提供する企業としてのブランドポジションを確立しようとする試みと言えます。
現代ビジネスにおいて、企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、もはや付加価値ではなく必須要件となっています。JFRは、「持続可能な社会とくらしのあたらしい幸せの実現」を掲げ、具体的なサステナビリティ方針としてエコビジョンとソーシャルビジョンを定めています。
エコビジョンでは脱炭素社会、循環型社会、生物多様性保全への貢献を、ソーシャルビジョンでは地域共栄、公正な事業活動、多様性尊重と従業員のWell-Being-Life実現を重点課題としています。これらの取り組みは、単に環境規制や労働法規を遵守するだけでなく、社会の一員として積極的に課題解決に貢献しようとする姿勢を示しています。
さらに、「JFR行動原則」は、これらの理念やビジョンを従業員一人ひとりの日々の行動に落とし込むための具体的な指針です。公正な企業活動、人権・労働環境への配慮、環境への配慮、商品・サービスの安心・安全、責任あるマーケティング、地域社会への貢献、ステークホルダーへの責任など、広範な領域における行動規範が明記されています。これは、組織全体の倫理観を高め、事業活動の透明性と信頼性を確保する上で極めて重要です。
サステナビリティへの真摯な取り組みとそれを支える具体的な行動原則は、企業の信頼性を飛躍的に高め、ブランドイメージに「社会的責任を果たす企業」「未来に貢献する企業」という要素を加えます。これは、特に環境意識や社会貢献意識の高い消費者層からの支持を得る上で有利に働きます。また、ESG投資家からの評価向上や、倫理観を重視する優秀な人材の獲得(エンプロイヤー・ブランディング)においても、競争優位性をもたらす要因となります。
J.フロントリテイリングの理念体系は、創業以来の堅固な倫理観、未来を見据えた創造的なビジョン、そして現代社会が求めるサステナビリティへの深いコミットメントが融合したものです。社是「先義後利」「諸悪莫作 衆善奉行」は信頼と誠実さの基盤となり、ビジョン「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」は変化への適応と顧客への新しい価値提供を推進し、サステナビリティ方針と行動原則は社会的責任を果たす企業としての信頼性とブランドイメージを強化しています。
これらの理念は、単なる経営哲学に留まらず、従業員の行動規範となり、事業戦略の方向性を定め、企業文化を醸成する力を持っています。理念が組織全体に浸透し、日々の事業活動に反映されることで、J.フロントリテイリングは激しい競争環境においても、顧客、従業員、地域社会、そして投資家といった多様なステークホルダーからの共感と支持を得ることができ、これが長期的な競争優位性と揺るぎないブランド価値の源泉となっていると言えるでしょう。理念経営は、現代における企業の持続的な成長とブランド力強化のための不可欠な要素であることを、J.フロントリテイリングの事例は示唆しています。
より良い地球環境を次世代に引き継ぐため、お客様、地域社会、お取引先様やビジネスパートナー、従業員をはじめとしたさまざまなステークホルダーの皆様と共に、事業活動を通じて環境課題の解決・自然との共生に向けた取り組みを推進し、誰もが環境と共に生きる社会づくりに貢献できる文化を醸成していきます。
<重点取り組み> より良い地球環境の実現に向けて、私たちは以下の事項に重点的に取り組みます。 (1)脱炭素社会の実現 自社の事業活動で使用するエネルギーおよび温室効果ガス排出量の継続的削減、環境に配慮した商品やサービスの調達等を通じて、サプライチェーン全体での脱炭素化を推進します。 (2)循環型社会の実現 ステークホルダーの皆様と共に廃棄物削減やリサイクル等に取り組み、事業活動における資源効率を高めます。また、資源や製品の価値を最大化する資源循環への取り組みを通じて、サーキュラー・エコノミーを推進します。 (3)生物多様性の保全 お客様、お取引先様やビジネスパートナーと共に、豊かで多様な自然環境の保全と再生に取り組み、自然資本の持続可能な利用に向けて生物多様性に配慮した事業活動を推進します。 <推進体制> サステナビリティ委員会を設置し、環境課題解決に向けたグループ全体の目標設定や実行計画の策定・進捗確認を行うとともに継続的な改善を行い、取り組みの実効性を高めます。 <ステークホルダーとのコミュニケーション> * 従業員一人ひとりが環境問題に対しての見識を深め、法的要求事項および社内基準を遵守し、自分ごととして課題解決に取り組むための研修や啓発など、環境教育を継続的に実施します。 * 適時・適切な情報開示、ステークホルダーの皆様との積極的なコミュニケーションを通じて、相互の環境への意識向上に取り組みます。
企業としての社会的責任を果たし、社会の一員として信頼される事業活動を通じて、お客様、地域社会、お取引先様やビジネスパートナー、従業員をはじめとしたステークホルダーの皆様のWell-Being-Life(心身ともに豊かなくらし)の実現に貢献します。
<重点取り組み> より良い社会の実現に向けて、私たちは以下の事項に重点的に取り組みます。 (1)地域との共栄 事業活動を通じて街の魅力向上と地域の活性化に貢献し、地域と共に持続的に成長していく取り組みを推進します。 (2)公正な事業活動 自社のみならず、お取引先様やビジネスパートナーと共に、サプライチェーン全体で法令や社会規範を遵守し、高い倫理観を持って人権など社会的責任に配慮した事業活動に取り組みます。 (3)多様性の尊重と従業員が活躍できる職場づくり 従業員の多様な個性や価値観を尊重し、一人ひとりの意志・意欲や能力を最大限発揮できる環境や仕組みを整え、働きやすさと働きがいを実現します。あわせて、従業員が活力を感じて生き生きと働くための原動力となる心と身体の健康増進に取り組みます。 <推進体制> サステナビリティ委員会を設置し、社会課題解決に向けたグループ全体の目標設定や実行計画の策定・進捗確認を行うとともに継続的な改善を行い、取り組みの実効性を高めます。 <ステークホルダーとのコミュニケーション> * 従業員一人ひとりが人権の尊重に対する見識を深め、法的要求事項および社内基準を遵守し、自分ごととして取り組むための研修や啓発など、人権教育を継続的に実施します。 * 適時・適切な情報開示、ステークホルダーの皆様との積極的なコミュニケーションを通じて、相互理解を深め、信頼関係を構築します。
先義後利 諸悪莫作 衆善奉行
創業以来、社是として掲げた「先義後利」「諸悪莫作 衆善奉行」をもとにお客様をはじめとしたステークホルダーの皆様から信頼される企業活動を行ってきました。
くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。
この考え方をもとに、私たちは「くらしのあたらしい幸せを発明する。」というビジョンを新たに策定しました。そして、常にお客様一人ひとりの生活を考え続け、お客様の幸せな未来の実現に向けた事業活動に取り組んでいます。
持続可能な社会とくらしのあたらしい幸せの実現に向けて人びとと共に、地域と共に、環境と共に
私たちが生活を営む社会は、国内・国外を問わず、異常気象、水資源危機、資源枯渇、格差の拡大、不完全な雇用、人権問題など様々な社会課題に直面しています。その中でも、環境リスクは近年特に顕著になってきており、地球温暖化や地球環境の悪化により、私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。国際的な対応の一環としてパリ協定による気候変動への対応、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」で掲げられた社会課題への対応など、企業は益々、持続可能な社会への貢献が求められており、企業の環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に対する取り組みが不可欠なものとなっています。 一方、私たちJFRグループは、その礎となる大丸と松坂屋が、正しい道を追求する姿勢を表している「先義後利」「諸悪莫作・衆善奉行」という社是のもと、300年、400年という長い歴史の中で企業活動を行ってきました。この考え方をもとに、私たちは「くらしのあたらしい幸せを発明する。」というビジョンを新たに策定しました。そして、常にお客様一人ひとりの生活を考え続け、お客様の幸せな未来の実現に向けた事業活動に取り組んでいます。 私たちは小売事業の店舗をはじめ、お客様とふれあう場をたくさん持っています。そこでは、お客様、従業員、お取引先様、地域の方々など、さまざまな人びとが集い、出会いが生まれています。このふれあう場を豊かなものとして保ち続けるために、人びとが根ざしている地域社会は大切な役割を担っています。そして、地域社会がつねに活力にあふれた接点として、いつまでも続いていくためには、すべてを支えているかけがえのない地球環境が、滞りなく次世代に引き継がれていくことが重要だと考えます。つまり私たちが目指している、くらしのあたらしい幸せを発明するためには、ふれあう場を保ち続けることが重要であり、そのためには持続可能な社会がなければ実現できないのです。 私たちは、お客様とふれあう場をJFRが考えるサステナビリティ経営の重点領域と定め、主体的に持続可能な社会の実現に向け、全社一丸となって本気で取り組みを進めています。そのために、ステークホルダーの皆様にアンケートを行いさまざまなご意見を頂戴すると共に、経営会議、取締役会での論議を何度も重ねマテリアリティ(重要課題)を特定しました。私たちは、マテリアリティに取り組むことで国際的な目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」への貢献にもつながると考えています。特に経営として重点を置いているのが、喫緊の課題である「脱炭素社会の実現(気候変動への対応)」です。私たちは、社会の一員の使命としてこの課題に取り組み、持続可能な社会の実現に資するために、2050年を見据えた「JFRエコビジョン」の策定をいたしました。このビジョンをもとに環境課題の解決と企業成長の融合の実現を目指していきます。 以上、私たちは持続可能な社会の実現に向け、すべてのお客様に対して環境、社会への責任を果たすと共に、ステークホルダー一人ひとりのくらしのあたらしい幸せを創り出していきます。同時に、この取り組みをたゆみなく継続するため、引き続きコーポレートガバナンス強化を通じて持続的成長を続けていきます。
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